トガヒミコ――原作では『変身』という稀有な個性を持つヴィラン側の強キャラだ。普通の家庭に生を受けながらも、血を好んでしまうという性質を周囲から否定され続けた少女。その閉塞感とわだかまる社会への不満が、彼女をヴィランの道へと歩ませたのである。
彼女もまた、私と同じように自身の人生を奪われたのである。
小さい体の中に抑え込んでいるのは、理解を得られないが故の悲しみや怒りなのだろうか。きっと今は胸に秘めているそれは、いつか歪んだ産声を上げて世に解き放たれる。まさにヴィランになるべくしてなった少女。
彼女こそはヴィランに相応しい。
そして私は閃いた……つまりは私の配下に相応しいということだ。
よし、トガヒミコを私の手下に加えよう!
「私はイト。いいわ、あなたを私の配下にしてあげる」
「配下って何?」
聞き返されて私ははたと気づく。そりゃそうだ、小さい女の子に難しい言葉を投げても意味が伝わらないのである。
「あー……部下、いや仲間?……うーん、まあ友達みたいなものかしらね」
「いやったー!イトちゃんと友達になれたー」
嬉々として私に飛びついて来たトガちゃんに、私の方もしょうがなく抱擁を返してやる。
その時、首筋に熱い吐息を感じた。
次いで硬いものが、私の皮膚を裂こうと押し付けられた。
驚きに身を固くした私の反応に、途端にびくりとトガちゃんが体を震わせた。そして私を突き放すように距離をとる。大きく開いた口を両手で覆いながら、少女の目から涙が零れ始める。
「あぁ、どうしよう。せっかくお友達になれたのに……やっちゃった……」
――――――――トガヒミコside――――――――
あああぁぁぁぁああ、やってしまった!
あんなにもやっちゃダメって言われていたのに、また私は人の血を吸おうとしたんだ!
好きと感じたら、体が勝手に動いちゃう。きっと私は気味悪がられて、いつものようにまた嫌われちゃう!
取り乱して泣きじゃくる私。
イトちゃんは私の手をとって、無言でベンチに導いた。
そして二人して並んで座る。人気のない公園の静けさに、私のしくしくと泣く声が妙に響いていた。イトちゃんはしばらく夕暮れを眺めてから、私が落ち着くのを待って切り出した。
「……好きな相手に近づきたい、なりたいって思うのは別に変なことじゃないよ。それで血を吸おうとしたんでしょ?」
私は目を上げて、イトちゃんの綺麗な顔を伺った。
「でも」
「たしかに憧れから血を求めるっていうのを、快く思わない人はいるでしょうね」
〝……じゃあ、どうすれば……〟と震える声でたずねた私。
イトちゃんは立ち上がって、夕陽を背に受けながら振り返った。
そして、〝それがどうした〟と笑い飛ばすような笑みを私に向けたのだ。
「大丈夫……私が来た!」
ああ、分かってしまった。
街中でヒーローと呼ばれている、普通を強制してくる人たちなんかじゃない。イトちゃんこそがヒーローなんだ。冷えた心を照らしてくれる温かい光、私はそれに向かって手を伸ばさずにはいられなかった。
――――――――トガヒミコsideここまで――――――――