駅に着いたトガちゃんはスマホを操作し始める。
「……彼氏に連絡してるってところかしらね」
物陰からターゲットを盗み見て呟いた私に、〝待ち合わせだな〟と爆豪君も頷いた。
遠くから監視している私たちには、切島君も嘆息しながら加わっている。彼の場合は私たち二人の暴走を止めるためについて来たって感じだ。
スマホを仕舞ったトガちゃんは、待ち人が来るその時を焦がれているようだ。
さあて、彼女のお相手は誰かしら?
私の方もウキウキとその様子を眺めてしまう。
む、トガちゃんが手をひらひらと振った。
私は目を凝らして、彼女の視線の先を追う。その相手は――
――緑谷君!?
彼の方も笑みを浮かべて小さく手を上げている。
「……デクだと……そんなはずはねぇ」
そう呟きながら驚愕に体を震わせるのは爆豪君だ、っていうか鬼のような形相になってるけど大丈夫かしら。
そしてその横で切島君も〝まさか緑谷だったとは〟と目を瞠っている。
確かに原作でもトガちゃんが緑谷君に好意を寄せている描写はあった。
そう考えると二人の関係が発展すること自体はあり得そうだ。でもまさか純情少年だと思っていた彼が、高校生活早々にはじめましての女の子を落としてしまったのだ。そのあまりの手の速さに私は驚いてしまう。
ひょっとして緑谷君だけリアルで、ギャルゲーみたいなのやってるんじゃないの。
思い返せば、確かに彼はデータキャラなのだ。オールマイトへの情熱の一部でも女の子に向ければ、こうすれば好感度が上がるなんてのを正確に分析できてしまうのかも知れない。
そんな緑谷君はくるりと回って、着ている私服のマイトパーカーをトガちゃんに見せつけた。
「あれって期間限定のやつだよな」
切島君が冷静に囁いた直後、緑谷君は手を振ってトガちゃんと別れていく。
……なあんだ、ということはただ会ったクラスメイトに挨拶しただけってことだ。おそらく新作のオールマイトグッズを買ってテンションが上がったオタク君が、たまたま出会った級友に自慢しただけ、とかそんなとこだろう。
「……やっぱデクの訳がねぇ、ハハ」
乾いた笑いとともに、爆豪君が安堵の息を漏らした。
乙女の妄想を膨らませていた私も、〝いや、ドキドキしたよ〟と額の汗を拭う。
しばらく経って、トガちゃんがにこりと笑いながら駆け出したのだ。
この反応は今度こそ本命のように思える。
そしてその相手とは――
――相澤先生!?
そこに現れたのはなんと相澤先生だ。トガちゃんにじゃれつかれて、先生は頭を掻いている。
「おいおい、ヤベぇんじぇねえか。先生と生徒だぞ」
切島君が焦ったように呟いた。教師と教え子のヒミツの関係なんて、確かに禁断の恋である。だからこそ、その背徳的な甘美さに乙女の胸は高鳴ってしまう。
きっとこれから二人には世間から様々な試練が降りかかるに違いない。でもそれを二人は愛という誓のもと手を取り合って打ち破ってゆくのだ。その苦難を妄想しながら、私は応援するからね、という決意にギュッと拳を握る。
そんなトキメキを飽和させている私に、〝おい、すげぇ顔してるけど大丈夫かよ〟と爆豪君が若干引きながら声を掛けるのであった。
だが燃え上がる私の膨大な熱量とは裏腹に、自販機で買ったジュースをそっけなくトガちゃんに押しつけて、相澤先生はスタスタと去っていく。つまりトガちゃんはジュースを奢ってもらっていただけなのである。
……って、生徒が担任にジュースをたかっていただけかい! 溢れ出した乙女のトキメキを返せ!
そんな私たちに、突然後ろから声が掛けられたのだった。
「覗きかい、三人とも? あんまり趣味が良くないよ」