私、ヴィランを目指します!   作:Sano / セイノ

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戦場の轟さん家

「覗きかい、三人とも? あんまり趣味が良くないよ」

突然後ろからかけられた声に振り向いた私たち。やれやれと肩を竦めて見せたのは、轟家の長男で若手研究者の燈矢君だった。

「ヒミコちゃんから、君たちがついて来てるって連絡があってね」

そう言って彼は手中のスマホを揺らした。彼女がスマホを触ったのは駅に着いたばかりの時だ。どうやら始めっから覗きはバレていたらしい、尾行は失敗である。

 

 

「どうです、ドキドキしました?」

とニヤリと笑いながらトガちゃんが合流する。

なるほど彼女は覗く私たちの存在に、わざと思わせぶりな演技をしていたようだ。燈矢君との待ち合わせをあえてデートと称することで、私たちを翻弄していたのである。

……まんまとしてやられたわけだ。

 

 

「今日はウチで焼肉パーティをやる日なんだ。それで前から来たいって言ってたヒミコちゃんを誘ってたんだよ。良かったら君たちも来るかい?」

燈矢君が提示した、焼き肉という男子高校生が愛して止まないワードに釣られ、〝いいんすか!?〟と切島君が目を輝かせ、〝食い尽くしてやらぁ!!〟と爆豪君が吼える。

そんな後輩たちの勢いに、若い研究者は〝じゃあ、一緒に行こうか〟と愉快そうに笑った。

 

 

場所を知っているのか、轟家まで先導しようとするトガちゃん。それにわいわいと男子高校生たちが続いていく。

そしてその後ろでは、〝私たちまで急に招待してもらって、ごめんなさいね〟と私が燈矢君に謝っていた。

「構わないさ。焦凍の友達が来てくれたって母さんも喜ぶから」

 

 

〝……でも肉足りるかな?〟と家に電話しだした燈矢君。

「うん。母さんの一睨みで、父さんが急遽買い出しに行ってくれることになったよ」

何でも無いことのように言う彼に、私は遠い目をしてしまう。

冷さん、強くなったのね……っていうかエンデヴァー、もう完全に奥さんの尻に敷かれてるじゃん。

 

 

「でもデートの正体が焼肉の食事会だったとはね。はじめはデートってトガちゃんの口から出て、クラスメイトの誰かを想像してびっくりしたわ」

「そうかい? デートの半分は正解だよ。だってヒミコちゃんの交際相手は俺だから」

「……え」

なん……だと……。

絶句した私を見て、燈矢君は満足げに目を細めたのだった。

 

 

 

×    ×    ×

 

 

 

油が弾けてジュ―と音を立てている。

漂う香ばしいかおりが鼻腔を満たすこの戦場に、『後退』の二文字はない。

雄英生たるものプルスウルトラの精神で、強大なる敵に全身全霊で向き合うのみだ。

 

 

艶やかなタレを纏った熱々の肉に歯を立てると、柔らかい身から脂が口の中に溢れ出す。生姜とニンニクのほのかな風味が引き立てる、牛肉と醤油の旨味の奔流。私はその流れの中に、五感を総動員して浸ったのであった。

う、うま――――い!! という感想しか出てこない思考の退行具合である。

 

 

向かいではトガちゃんも幸せそうにお肉を噛み締めている。

私の隣では男子sが己が敵をせん滅すべく、嬉々として口に放り込んでいた。

 

 

轟さん家についた私たちは温かく迎えられ、そしてご相伴に預かっているのである。

長女の冬美さんは小学校教員をしていて、個性で悩んでいる子にもヒーローを目指していいんだよと言ってあげているようだ。次男の夏雄君は大学生、燈矢君の後を追ってヒーローをサポートするために勉強しているみたい。

 

 

「――いつか父さんを超えるよ」

燈矢君が研究の進捗を語りながら決意を新たにすると、エンデヴァーが〝ああ、見ているぞ〟と微笑んだ。すると釣られるように、轟君も〝俺も父さんを超える、そしてNo.1ヒーローになるんだ〟と拳を握る。

 

 

和やかな家族の雰囲気の中、聞き捨てならない台詞と嚙みつく狂犬が一人いた。

「あぁ? No.1ヒーローなるのは俺だ!!」

「そうか、一緒に頑張ろうな」

食って掛かる爆豪君に、天然をかまして轟君が微笑んだ。

「すかしてんじゃねぇ!!」

 

 

爆豪君が轟君を睨んでいる間に、彼の取り皿のお肉をひょいと私とトガちゃんが摘まんで頂いてしまう。

「勝手に食うんじゃねぇええ!!!」

怒りを爆発させる爆豪君に、トガちゃんが〝隙ありです〟と笑い、私も〝常在戦場の心構えが足りないわね〟と煽る。

「……そうか、言えばいいのか」

〝なるほど〟と、そこに天然を加速させた轟君も加わってしまう。

 

 

そうして、〝んなわけねぇだろッ!!!〟とますます怒りに燃えるのが爆豪君なのである。

その様子に切島君も溜息を吐く。

「おまえら、もうちょっと静かにできねぇのかよ」

そんな私たちのやり取りを、ニコニコと冷さんが見つめているのだった。

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