バスから降りた私たちの前に広がるのは、水難、土砂、火災といったいくつもの被災地だ。
ここはあらゆる災害現場が想定された、ウソの災害や事故ルームことUSJ。決してユニバーサル・スタジオ・ジャパンなどではない。
今日のヒーロー基礎学の災害時レスキューの演習地であり、原作ではヴィラン連合との初めての衝突あった場所だ。
ヒーローコスを纏った私たちに、宇宙服の13号先生が説明を始める。
13号先生は物体を塵に変えながら吸引するブラックホールの個性で以て、災害救助で活躍してきたヒーローだ。
「――このように個性を使えば、人を助けるための大きな力になります」
大きな瓦礫さえもその手を吸い込んでしまう先生に、〝おお!〟と拍手が巻き起こる。
「じゃあ、班分けを発表するぞ」
13号先生の言葉を引き継いで、相澤先生が私たちに視線を向けた。
本来であればここには俊典さんがいるはずだった。だが、彼は通勤途中に出会った事件を解決してしまい、マッスルフォームを維持できず休んでいるのだ。だから俊典さんの代わりに相澤先生が来ており、そんなところも原作と鏡合わせである。
その時、景色の一点が揺らめいた。
歪みは忽ち広がって、忍び寄るどす黒い邪悪さを具現する。黒く煙る景色の向こうで霞んでいた無数の人影、それに厚みが加わってゆく。そして這い出るように姿を現した闖入者たち、その滲む悪意に相澤先生が怒鳴った。
「お前ら一塊になって動くな! 13号は生徒を逃がせ!」
そう、ヴィラン連合の奇襲である――その始まりを告げたのが黒霧のワープゲートだった。
捕縛布を翻しながら地を這うように疾駆する相澤先生。
そよいだ風が孕んだ戦場の緊迫感を伝えてくる。
相澤先生が単身でヴィラン達と対峙している間に、13号先生が〝みんな、こっちへ!〟と私たちを呼び集める。
まずは生徒を安全な場所へと避難させることが教員の務めなのであろう。
だが、そこに立ちはだかった者がいた。
「如何ですか、ヒーロー社会の象徴たる雄英が襲撃を受けるのは? そしてその金の卵たちがこれから殺されてしまうのは? ふふふ、考えるだけで嘆かわしいですね」
立ち竦む生徒たちを前に、まるで催した宴を誇るかのように黒霧は愉快そうに手を広げる。
……あれ? と私は思ってしまう。
黒霧の言を信じるとすれば、ヴィラン側はオールマイト殺しを最重要課題として掲げてないのである。勿論、脳無の姿もあったので、対オールマイトの想定もあるのだろう。
だが、彼らの目的はヒーロー社会を嘲弄することなのだ。
雄英を侵し、生徒すら救えない事実を見せしめに社会を揺さぶろうとしているのだ。むしろいきなりNo.1ヒーローを狙うよりは、遥かにスマートで手強い印象を受けてしまう。
悠然と笑うヴィランの誘いに、飛び出すことで返答せんとした生徒たちを13号先生が制す。だがその時、〝こんな計らいは如何です?〟と黒霧から急速に噴き出した黒煙の奔流が、有無をいわず全員を飲み込んだのだった。
――――――――麗日お茶子side――――――――
攻撃をかい潜って指先で触れたヴィランを、私はゼログラビティの個性で浮かせる。
じたばたと藻掻く敵も、浮遊したまま天井に固定されてしまえば無力化できちゃうのだ。
ふぅ、と息を吐きながら額を拭う。
向こうでは最後に残った敵と、爆豪君と切島君の二人が対峙していた。
四腕を鋭く振るう巨躯のヴィラン、その激しい乱打を切島君の硬化が受け止める。そして仲間の陰から飛び出した爆豪君が変則的な軌道で側面に回り、爆破の勢いを拳に乗せて殴り倒したのだった。
息の合ったコンビネーションを見せる二人に、私はぱちぱちと手を叩く。
「すごいじゃん、二人とも!」
「はッ、大したことねぇ。相手が雑魚なだけだ!」
爆豪君はつまらなそうに鼻を鳴らすと、〝まあ、そうだな〟と切島君も苦笑しながら肩を竦めた。
そんな私たちがいるのは、USJ内の倒壊ゾーンだ。
黒い煙によってここに飛ばさせられた私たち三人は、すぐにヴィラン相手に共闘し始めたのである。
「ねぇ、早くみんなを助けにいかなきゃ!」
「必要ねぇ」
否と断じる爆豪君に、〝ええ!?〟と私は目を剥いてしまう。
「麗日、爆豪はこいつら相手ならA組の皆は大丈夫って信じてんだよ」
「いちいち解説すんじゃねぇよ!」
お見通しだとばかりに笑い掛ける切島君に爆豪君が吼える。気心の知れたようなやり取りを見せる二人である。
「ねえ、じゃあどうするん?」
「黒いモヤモヤの野郎を殺りに行くぞ。アイツがワープの個性を持ってんだ。出入り口をぶっ潰さねぇと、逃げられちまうだろ」
歯を剥いて凶暴に笑う爆豪君。暴力的な言動とは裏腹に理知的な意図による彼の提案、それに私は感心してしまう。
「爆豪君ってそんなに周りを見れる人だったっけ?」
「おう、意外だろ。でもコイツはそこらへんちゃんと出来るんだぜ」
友を自慢するように笑う切島君に、私も〝意外やね〟と頷いてしまう。だが褒められた当人は、〝意外とか言うじゃねぇ!!〟と不機嫌そうにまなじりを吊り上げたのだった。
――――――――麗日お茶子sideここまで――――――――