私、ヴィランを目指します!   作:Sano / セイノ

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USJは燃えているか6

――――――――耳郎響香side――――――――

 

「……わりぃ、待たせたな」

上鳴が済まなそうな顔をウチらに向ける。

ヴィラン達をまとめて電撃で行動不能にした上鳴と砂藤、ヤオモモ、それにウチ。放電でウェ~イとなった上鳴の回復を待って、皆で土砂ゾーンを出てきたところだった。

 

 

ふと地面に投げ出されているドールに目を留めて、拾い上げる。

「これって八木のだよね? ってか重ッ⁉」

予想外の重量に顔をしかめるウチに、上鳴が〝俺が持ってやんよ。後で返してやろうぜ〟と笑いかける。

 

 

そして広場を視界に収めたウチらが見たものは――唸る大気の直中に乱れ閃く銀糸の輝きだった。

ウチらは驚愕に息を呑んで足を止めていた。気色の悪い大男のヴィラン、それを相手取る八木の姿が苛烈を極めていたからだ。

 

 

全員が呆然と見入っていた中、はっとしたようにヤオモモが声を上げる。

「ドールを渡さないといけませんわッ!」

その一言に、上鳴が抱えている人形にウチは視線を移した。そうだ、これは八木の武器なんだ。ただのドールじゃないのは、その異様な重量も物語っている。

 

 

「で、でもよ。あんなとこに割り込めねぇぞッ!」

慌てたように言う上鳴に、ヤオモモは頷いてみせる。そして彼女が個性で胸元から作り出したのは、大きなスリングショットだった。なるほど、それで戦場へ人形を飛ばそうというのだ。

「砂藤さんが引いて飛ばして下さいませ!」

「おう!」

ヤオモモの意図を了解したウチらが発射台を支える中、砂藤がぐいぐいゴムを引き絞った。

 

――――――――耳郎響香sideここまで――――――――

 

 

 

幻糸の知覚圏内に飛来物を察知……え、失くしてた私のドールじゃん!

脳無の上空に飛び上がりながら人形に糸を繋げて、私はニヤリと笑う。だってこの人形には、初芽さん謹製の凶悪アイテムが搭載されているのである。

 

 

そう、電流だ。それもスタンバトンの比にならないくらいの出力まで上げられる。

いくら膂力に優れ耐久力に秀でようとも、究極的には人体を動かしているのは電気信号なのである。

それを乱されれば、思うようには動けまい。

 

 

人形を飛ばしながら、敵から離れて降り立つ私。

糸で操られたドールは、まるで避ける気のない脳無の背中に張り付いた。

がばっと人形の背面が開き、圧縮窒素により射出された電極が黒い巨体の四肢に突き立てられる。それは電極付近を局所的に麻痺させる、いわば人形型のテーザー銃だ。

 

 

だが、電極からほとばしる紫電ですら標的の動きを封じるには至らない。

脳無は背中の邪魔者を取り除こうと、平然と手を伸ばしたのである……これでもまだ動けるの!?

 

 

私が一気に引き上げた電流出力に、流石の脳無も体を震わせ引き攣らせた。その動きを阻むためには、ほぼ限界まで電流機構を酷使する必要があった。

はたして、白煙を上げ始めるドールは長くは持たないだろう。

 

 

仮初の均衡に過ぎないとはいえ、何かと足止めまでは持ち込めている。

だけど……ここからどうする? どうすれば勝ちになるのか、悩んでしまう。 

そもそも足止めしても、原作と違って飯田君がピンチを知らせに脱出していないのだ。先生たちの援軍は期待できない。このままでは級友たちが集まって来たところで脳無が解放される、という最悪の事態すら起きかねないのである。

 

 

額から滴る鮮血を拭って、私は唇を噛んだ。

その時、轟音を立てて天井が崩れ、覗いた蒼穹へと火柱が立ち上る。

 

 

 

――――――――死柄木弔side――――――――

 

絶望と慟哭でヒーローたちの庭を染めてやろう。

ヒーローの眼前で、その救いの手が届かない生徒たちがでてしまう。それがオールマイト相手ならば言うことなしだ。

 

 

そんな企てで侵入した雄英高校だったが、始まって早々に俺は頭が痛くなっていた。

ゲームバランスとしてこれは駄目だろ、ってくらい連れて来た仲間が弱すぎたのである。

対オールマイトとしてドクターが託してくれた脳無でさえ、女生徒一人に止められる始末である。

 

 

むしろNo.1ヒーローが不在で正直助かった。

恥をかかせる分には襲撃した事実だけでもいいが、ここまで準備したなら生徒の一人くらいは殺しておきたい。とはいえ眼前のイレイザー・ヘッドの手強さは、それを許してくれそうになかった。

 

 

救援を呼ぶ火柱が立って、ものの数秒。

たったそれだけしか経ってないにも関わらず、轟音を立てて訓練施設の入口がぶち破られた。衝撃で立ち込める土煙、その中から姿を見せたのは最強のヒーローたるオールマイトだ。

「私が来たッ!!!」

 

 

あーあ、これで完全にゲームオーバーだ。

彼は軍神もかくやと見紛う立ち姿で、燃える双眸を脳無に据えていた。俺ですら、その威圧に打たれ息苦しく喘いでしまう程だ。

 

 

視線を束の間外したイレイザー・ヘッドの不意をついて、俺は地面に手を当てる。

路面をヒビ割れ崩壊させながら、〝黒霧ッ!〟と仲間を呼びつけた。

生徒にしてやれていた黒霧も、崩れる足場に拘束を弱めた相手の虚をついてワープで俺を回収しにやって来る。

 

 

「帰るぞ」

「残念ながらそうしましょう」

黒煙のワープゲートで戦場を後にしながら、俺は振り返った。

見えたのは、オールマイトから迸った雄たけびと脳無への打撃の炸裂。万全を期していたはず脳無の衝撃吸収すら、ヒーローの打撃が上回っているのだ。そして〝スマッシュッ!!〟という彼の咆哮と共に、吹き飛んだ脳無が天井にもう一つの大穴を穿ったのだった。

 

……なんだよ、オールマイトはやっぱりバグキャラだろ。

 

――――――――死柄木弔sideここまで――――――――

 

 

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