「うぅ、ありがとう……おいしいですぅ」
そう言って私の首元で満足気に、ちうちうと血を啜るトガちゃん。
そして私は彼女の頭を撫でていた。
結局、私は〝あなたのそれを分かってくれる人に出会えればいいのよ。絶対にいるわ!〟と彼女をなだめ、血を分けて上げたのである。
まあ、献血みたいなものだ。
血が減ることで血流が良くなって、肩こりが良くなったりするのだ。献血、これ自体に問題はない。だが、今のトガちゃんは加減ができないのが課題だろう。このままだと私の体の血が減り過ぎる事態になりかねないんだからね。
× × ×
……ということで、
私は図書館で医学関係の本を読み漁ったのである。
生前の私も図書館は利用したものだ。人形を生き生きと動かすためには、稼働する関節とそれを動かすための筋肉の知識が必要だったのである。
だが、今回はトガちゃんへの採血を考えてのこと。
成人なら月200ml程度の採血は可能か……だが、今の私は小学生女児、大人に比して体積が圧倒的に小さいのである。まあ注射器で少量を採血するくらいなら問題なさそうである。
とはいえ、それは注射器ありきの話。
注射器のシリンジの方は、特段入手が難しいものではない。
優等生の私なら、頼み込めば保健室で備蓄をもらうことくらいできるだろう。だが、問題は注射針だ。こちらの方は女児がねだってもらえるものではない。
むむむ……
考えあぐねていた私は、はたと手を打った。
……そうだ、個性の糸で作れたりしないかな?
現実の糸だって束ねてねじることで、より強靭で強固な糸になる。つまりは時間をかけて個性の糸を束ね、どんどん撚《よ》ることで密度を上げて硬くできないか、と私は思いついたのだ。
はたして、私の皮膚を突き刺すくらいはできる糸が生まれてしまった。
やばい、私やっぱり天才かも知れない!
今までの糸とはまさに圧倒的に硬さが違う。あちらを軟らかい糸というならこちらは硬い糸と呼べるだろう。これで注射針の形を模せば、シリンジで計量しながら採血できるというわけだ。
ふぅ……
私は注射針のページを閉じて、椅子から立って伸びをした。
そして机の上に積まれた本に、私は笑みを向ける。
改めて医学書を紐解くと興味深い。今までは関節や筋肉しか見てこなかったが、それ以外にも血管や神経の配置など知識が増えて解像度が上がっていくと、面白く感じられるものである。
――――――――トガヒミコside――――――――
「……はぁ、幸せです」
くわえた注射針からイトちゃんの血を飲みながら、私はうっとりとつぶやいた。
否定の言葉によって心の奥にしまってきた私の本性、それをイトちゃんは真正面から認めてくれた。この出会いが私にとって、どれほど大切な出来事だったかは言うまでもない。きっとあの女の子は、そうやって色んな人を救っていくにちがいないのだ。
私は空になった注射器を置いて、イトちゃんへと視線を向ける。
彼女はいつもこの公園で、人形同士を動かして激しく戦わせ合っているのだ。人形劇の練習かなと思っていたが、どうにも様子がちがう。
「ねえ、それ何やってるんです?」
「戦う訓練よ、強くならなきゃいけないからね」
人形の動きを一切止めずに、そう言うイトちゃん。
その真剣そうな横顔を見て、私はふいに胸がキュッとなった。
そっか……イトちゃんがやっているのはヒーローになるための訓練なんだ。イトちゃんがずっと傍にいてくれると思っていた……でもそうじゃないことに今更気づく。
彼女と一緒にいたいなら、私だって強くならなきゃいけないんだ!
「……私もやります!」
決意とともに立ち上がった私に、イトちゃんは〝じゃあ、二人で強くなりましょう〟と笑顔を向けたのだった。
――――――――トガヒミコsideここまで――――――――