私、ヴィランを目指します!   作:Sano / セイノ

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じょうずな家主のつかまえ方4

――――――――緑谷出久side――――――――

 

「ほらッ! 見たらとっとと出てけや!」

吠えたてる家主に追い出された僕たちは、最後に砂籐君の部屋に向かう。

 

 

なんとそこでは、オーブンから漏れる甘くて香ばしい香りが僕たちを包み込んだ。

砂藤君のお菓子作りは趣味と個性の練習を兼ねたものだ。それが今回訪れた僕らのために、焼きたてのシフォンケーキとして遺憾なく発揮されたのである。

 

 

「「「甘くて、美味しいー!!!」」」

一口食べて、プロ顔負けの出来栄えに目をキラキラさせる皆。

その破壊力たるやすさまじく、普段はニヒルにしか笑わない八木さんでさえ、周囲に小花を浮かべながら満面の笑みでケーキをもぐもぐしている。

 

 

 

×    ×    ×

 

 

 

「では全員の部屋を回った我々審査員が、第一回A組お部屋選手権、最も個性的なお部屋は誰のだ! の優勝者を発表したいと思いまーす!」

「ダララララララ……ジャン!!」

手にしたケーキを天に掲げながら芦戸さんが高らかに告げると、葉隠さんがドラムロールを真似て囃し立てる。

 

 

「優勝者は……砂籐君! 理由はケーキが美味しかったからだー!」

「何だその理由! 個性的な部屋はどこいったー!」

主に男性陣からのツッコミに、芦戸さんが〝個性に優劣をつけるなんて野暮だからさ〟と茶目っ気たっぷりに笑いながらケーキを頬張る。

 

 

そして視界の隅では、峰田君が〝なあ、女を篭絡するテクを教えてくれよ。本当はケーキだけじゃないんだろ?〟と優勝者に揉み手で擦り寄っているのだった。

 

――――――――緑谷出久sideここまで――――――――

 

 

 

――――――――爆豪勝己side――――――――

 

学生寮に引っ越したからといって、マイトタワーでの放課後訓練は変わらねぇ。

定められた門限までの過ごし方に縛りはねぇからだ。

 

「結構上手くいったと思ったんだけどな……」

「はッ、まだまだだろ」

がばりと身を起こした俺に、切島が頭を掻きながら手を差し出した。

爆破の変則起動と切島との連携により、防御を掻い潜って八木を狙った俺たち。だが、二人して糸につかまって放り投げられたのである。

 

 

先日のUSJ襲撃事件で浮き彫りなったのは、恐ろしい敵には未だ到底及ばないという事実だ。チンピラの喧嘩とはわけが違ぇ、実際に対峙した黒いモヤモヤ野郎のヴィランには、一人では手も足も出なかった。

 

 

「今のは悪くなかったわよ」

涼しい顔で称賛を投げかけるのは、俺らをぶん投げた張本人だ。

確かに八木の言う通り、俺の手はアイツの袖を掠めるに至った。だが、八木の動きは次なる俺らの連携攻撃に備えたものだった。まるで予知されたように捌かれて、驚愕に僅かに体を強張らせちまった俺。その隙を突かれて今回もまたやられたわけだ。

 

 

「全部見切ってたじゃねぇか」

「よく見えているわね。それだけあなたも大分上達したってことよ」

切島の手を取りながら睨む俺に、八木は満足そうに頷いた。

その上から目線も、それを裏付けるだけの力量あってのことだ。

 

 

個性を用いての鬼ごっこでは、未だに八木を掴まえられた例がねぇ。

それほどまでに俺とアイツの技量には隔たりがあるんだ……聞けばヴィラン襲撃時は、オールマイトにこそ倒されたが、やたら強いヴィランを単身相手取っていたらしい。

 

 

八木イト、今の俺にとっての身近な目標。

いずれはオールマイトを超えるためにもまずはアイツを掴まえてやる、そう俺は闘争心を燃やしたのだった。

 

 

 

×    ×    ×

 

 

 

〝どうぞ〟と招かれた室内を俺はぐるりと見回した。

「……本ばっかだな」

「いろんなことを知っているのが大事なのよ」

本を開いたまま八木は、まるで年長者のようなことを言う。そしてアイツは俺の首から提げたカメラを一瞥して〝何、こんな本だらけの部屋でも撮りに来たの?〟と剽げたように肩を竦めた。

 

 

父親に持たされたPENTAXは、古めかしいフィルムカメラだ。

デジタルでは出せない色と質感が良いと太鼓判を押されたが、正直俺には良く分からん。でも寮の生活の話を楽しみにしている、と送り出されたからには写真を撮っておいてやってもいいだろう。

 

 

「寮内を色々撮っておこうと思ったんだよ!」

ぶっきらぼうに応じる俺に、アイツは〝だったら私でも撮る?〟と何でもないことのように言った。その不意打ちのように花を咲かせた笑みが、俺をどういうわけかドギマギさせた。

 

 

「……ふん、しょうがねぇな」

内心の動揺をひた隠し、俺はカメラを構えた。

〝最強で最凶で最恐な感じに撮りなさい!〟と阿保なことを言っている八木をファインダーに映す。

訓練ではまるで捉えられなかった八木、その姿を俺は確かに捕まえていた。

 

 

いつも頼もしいばかりの眩さを放つアイツは、ファインダー越しにふっと表情を緩ませた。

――ふいに湧き上がってきた感覚に俺は戸惑ってしまう。

 

 

カシャッカシャッとシャッターを切る音が、本に満たされ空間にこだまする。

それが違和感を告げる残響となって、俺の胸腔にも響くのだ。

ただの対抗意識、じゃない……憧れ、でもない。何なんだ、コレは? 胸に宿った正体不明の感情に俺は面食らっていた。

 

――――――――爆豪勝己sideここまで――――――――

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