私、ヴィランを目指します!   作:Sano / セイノ

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突風にして君を離れ2

――――――――爆豪勝己side――――――――

 

手にしているのは現像から帰ってきた一枚の写真、俺はそれに視線を落とす。

本を持ち柔和な笑顔でこちらを見返す八木。

黒を基調としたひらひらとした服から彼女の白い肌が覗いている。むしろその装束の黒さは、儚げな白さが消えてしまわないように包み込んでいるかのようだった。

 

 

じれったい胸騒ぎような……それでいて不安なような……

あぁ、クソッ。やっぱ感情の正体が分からねぇ。

抽斗から写真を取り出してしばらく眺めては戻し、また思い出したように繰り返しているのだ。

 

 

ツンツン頭を掻きむしっていた俺のかたわらで、部屋の窓が風に叩かれて勢いよく開いた。

窓から舞い込んだ一陣の突風、その強さに俺は目を閉じてしまう。

「ったく、何なんだ!?」

風に対してか、はたまた自身の心に対してか毒づきながら、俺は写真を仕舞おうとした。

 

 

――ねぇッ!?

いつの間にか手中から消え失せてしまった写真。

きょろきょろと視線を巡らせた俺は、窓の外を見て目を剥いてしまう。なぜなら八木の写真は風に攫われて、ひらひらと雑木林の方へと舞い出てしまったのであった。

 

――――――――爆豪勝己sideここまで――――――――

 

 

 

――――――――緑谷出久side――――――――

 

風に運ばれてきた写真をキャッチした僕。

写真の中では笑みをこちらに投げ掛ける少女は、クラスメイトの八木さんだ。

後で本人に返してあげよう…………でも、ちょっと待てよ、と自分の思考に待ったを掛けた僕。

 

 

八木さんが被写体というだけで、そもそも彼女が持ち主ではないかも知れないのである。だとしたら、皆が集まる夕ご飯のときにでも話を振ってみる方がいいかな……

 

 

「動くんじゃねぇええ!!!」

頭を捻っていた僕に、突然の怒声が降りそそいだ。

見上げれば、かっちゃんが爆炎の軌跡を引きながら迫っていたのである。

その勢いと憤怒の形相が僕に危急を告げる、これで動かないなんて絶対に無理だ。

 

 

僕はフルカウルを発動させて、彼の手を掻い潜るように跳んだのである。

 

――――――――緑谷出久sideここまで――――――――

 

 

――――――――爆豪勝己side――――――――

 

デクから写真を取り戻そうと伸ばした手。

だがアイツはそれを躱して、予想を遥かに超えた跳躍で高い木の梢に跳び移った。

 

 

驚きに目を見開きながらも、俺は手中に生んだ火花を激しく爆ぜさせる。

着ているシャツの残影を残して、俺は刹那の内に間合いを詰めて逃げたデクへと躍りかかったのである。

だが、アイツだって大人しくやられるだけじゃねぇ。高速で迫る俺の動きを見切きるようにデクも跳ぶ。

 

 

信じられない速度で風を巻きながら、二つの影が木々を飛び交った。片や直線的な跳躍を繰り返し、片やそれを連続的な爆発の変則軌道で追いかける。

 

 

標的を狙って吼えようとした俺の手を、まなじりを決したデクは体を旋転させた風圧で以て躱してしまう。

勝利を期していた俺の方が、その尋常じゃねぇ身体能力に目を瞠る。

そこにあるのは、以前のように個性をただ暴走させていた幼馴染の姿ではなかった。

 

 

「急に何なんだよ!?」

虚空での幾度もの交差を経て、着地したデクは不満そうな視線を向けた。

「……そいつを渡せ」

俺が睨みながら写真を指差すと、デクは〝これって、かっちゃんのなの?〟ときょとんとする。

 

 

「悪りぃかよ!」

そう言いながら歩み寄って、俺はデクの手から写真をひったくった。

「全然そんなことないよ……すごく良く取れてるなって感心したんだ。ひょっとしてかっちゃん、八木さんのことが好きなの?」

 

 

「俺が……八木を?」

デクの一言に、怪訝な顔を返してしまう。

 

 

好き?……俺が? 八木を? 

好き……好き……そもそも好きって、何だ?

 

 

そのどこか確信めいた言葉が飛礫となって、俺の内なる水面に大きな波紋を立てる。幾度も打ち寄せる漣が俺に、謎めいていた感情の正体を否応なく囁くのであった。

 

 

だがそれを、デクを前にして認められるわけが無かった。

「んなわけねぇだろッ!」

 

――――――――爆豪勝己sideここまで――――――――

 

 

 

――――――――緑谷出久side――――――――

 

分かりやすいなぁ、かっちゃんは。

赤面した顔でそっぽを向きながら、大声で否定する幼馴染の姿に、僕は思わず笑みを誘われる。

 

 

だがここで笑ってしまっては、ますます火に油を注ぐだけだろう。

僕はさも気にした風もなく相槌を打つのだった。

「そっか、そうだよね」

すると彼は気まずさに話題を逸らすように、〝それよりお前、その力〟と僕を睨んだ。

 

 

僕の力はオールマイトから譲渡された個性に由来するものだ。

でも、それは誰にも明かすことはできない秘密だった。だから昔から僕を知る彼には、僕が無個性を装っていただけに見えてしまっていたのかも知れない。

 

 

「ごめん、黙ってたわけじゃないんだ。本当に、急に発現した力なんだよ」

「はッ、そんなん疑ってねぇ。お前が人を騙すような奴じゃねぇのは知ってらぁ」

僕の心中を射抜くように彼は目を細めて、〝じゃあ、本当に目指すんだな?〟と訊ねてくる。

 

 

No.1ヒーローを目指そうと、二人して無邪気に笑い合ったのは幼少の頃だ。

個性の有無という刃に絶たれていたその約束を、かっちゃんは歳月を経た今問い質しているのだった。

 

 

「うん」

「No.1になるのは俺だ!!」

大きく頷き返した僕に、彼は歯を剥いて暴力的な笑みで吼える。これはかっちゃん流の仲直り、もとい一緒に頑張ろうって意味なのだ。

――僕も、負けないよ!

 

――――――――緑谷出久sideここまで――――――――

 

 

 

吹き抜けた突風、その強い勢いはきっとどこかで何かを攫い、またどこかで何かを結び直す。

 

 

幼馴染の二人が向かい合っている間に、実はとある事件が起こっていた。

それは共有スペースでテスト勉強中の面々、その中の女生徒が干していた洗濯物が飛ばされたのである。

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