「「「テストお疲れ様でしたッ!!!」」」
休日の学生寮に楽し気な声がこだまする。
普段は休みの日には実家に戻る面々もおり、閑散としていることだってある。だが、今日は皆が揃って高らかに声を上げていた。
中間テストが無事終わったこと。上鳴君や芦戸ちゃんといった勉強苦手勢も、何とか赤点を回避したこと。そして、勉強会で教師役を務めたヤオモモちゃんや飯田君を労おうとしたこと。それら一切合切をひっくるめて、祝い讃えるために集ったのである。
「パーティーの始まりだぜー!」
歌い上げるように笑いながら、上鳴君と瀬呂君がどろりとした黄色い液体を、油のひかれた無数の球形の窪みへと注いでいく。
ジューと耳に心地よい音を響かせるのは、たこ焼きの生地だ。そう、私たちはお疲れ様会と称してタコパを企てたのである。
宴を開くにしてもタコパか、はたまたバーベキューかで悩んでいた面々。
それに決着をつけたのは、〝……たこ焼き、食べたことありませんわ〟とぽつりと囁かれたヤオモモちゃんの一言だった。
みんなが互いに視線を合わせて頷き合う。そして瞬時に一致団結した結果、世間知らずのお嬢さまにたこ焼きをお見舞いしてやろうとなった訳である。
「「「タコパに決定ッ!!!」」」
たこ焼き用のプレートは、家にある人達が持ち寄ったものだ。
「じゃあ、好きな具材入れていいぞー」
頃合いを見計らって切島君が号令を発すると、各々が持ち寄った具材を窪みを満たした生地へと放り込み始めた。
そして焼くのはピックを手にした障子君と尾白君、それに轟君だ。複製腕で手を増やした障子君はいくつものピックを操りながら、くるりくるりと丸めていく。尾白君も尻尾を含めた三刀流で器用に扱っていた。対して轟君は不慣れなようで、手つきがぎこちない。
「貸せッ! 下手くそがッ!」
そんな轟君を見かねてか、爆豪君がその手からピックを取り上げる。
そして彼は、物凄い勢いでくるくると生地を丸めていくのである。しかもその仕上がりはひどく丁寧で美しい。
「おぉ」
轟君が感嘆の声を漏らすと、周囲も〝出たぞッ、才能マン〟とツンツン頭を囃し立てる。それに爆豪君が目を剥きながら、〝うるせぇ!!〟と吠えて返すのがいつもの流れだ。
「イトちゃんは何入れたん?」
焼けるのを待ち遠しそうに眺めていたお茶子ちゃんが、ふいに水を向けてくる。
「チョコレートよ。お茶子ちゃんは?」
「ああ、それもいいよね。デザート系はあり! 私はお餅。お餅、美味しくて好きなんよ」
既にして食べている想像を膨らませているのか、お茶子ちゃんはへにゃっと表情を崩した。
× × ×
たこ焼きがどんどん大皿に移され、湯気を上げるそれらが皆の前に鎮座する。
あとはそれを適当に各々が取って、ソースなり何なりをかけて食べるのだ。勿論食べてみるまで中身は分からない。私が持ち寄ったチョコレートかも知れないし、お茶子ちゃんのお餅の可能性だってある訳だ。
「代わってもらって悪かったな」
轟君が未だ焼き続けている爆豪君に、取り分けた小皿を差し出した。
フンッと鼻を鳴らしながら、爆豪君はその中の一つに楊枝を刺す。そして口に放り込んだ途端、〝ぶほッ〟と大きく咽たのである。
「クソ苦ぇ!! んだこれッ!!」
「あ、それ私が入れたゴーヤかも」
嬉々として声を上げた透ちゃんに、たこ焼きを持ち上げたまま皆が凍り付いた。
てへッと茶目っ気を振りまきながら、彼女はさらに〝どっかにハバネロも入ってるよ〟と無慈悲な宣告をする。
タコパを楽しもうと集った私達はやんちゃな透明少女の手によって、いつしか地雷原の奥深くへと導かれていたことを知ったのである。
唐突なロシアンたこやき、その一気に高まった緊張感に顔を強張らせた面々。
そんな状況でも、〝面白くなってきたー〟と愉快そう先陣を切るのが芦戸ちゃんだ。彼女は一つを口に入れてもぐもぐと噛み締めた。するとピンク色の肌がさっと赤くなり、〝超辛~いッ〟と顔を歪めてのたうち回る。
「なるほど、この恐怖との戦いこそがたこ焼きですのね」
それを一瞥して感慨深げにつぶやくヤオモモちゃんに、〝いやいや、ちがうからね〟と耳郎ちゃんが苦笑している。
いかに地雷を踏まないかのゲームと化した今、私は大人げなく勝つ心づもりだ。戦場とは非情なところなのである。
もともと見えないくらい細い糸を周囲に張り巡らせている私からすれば、徹ちゃんのたこ焼きがざっくりとどこら辺にあるのか目星がついてしまうのだ。だから安全圏から選んで取り皿に入れれば、外れを引くはずが無いのである。
私は安全が確約された一つに楊枝を刺して、口の中に放り込んだ。
カリッと油で揚げられた香ばしい表面を歯で割り開けば、ふわトロの生地が溢れ出す。仄かに出汁の風味を帯びたそれは、調和された美しい世界となって私の口内を満たした。だが、その向こう側から突如として襲い掛かってきたのは、青臭さと強烈な苦みだった。
「……うぐッ」
私は思わず呻いてしまう。
包み隠されていた中身、その正体は透ちゃんのゴーヤだろう。尋常ならざる苦みを噛み締めながら、一体なぜ外れを引いたのだろうと目を白黒させる。
「実はイトちゃんが食べようとした直前に、私のとさっと入れ替えました」
悪戯っぽく笑うトガちゃんを、私は涙目で睨んだ。
私の糸の知覚すら掻い潜って、たこ焼きを交換してくるとは油断も隙もない。どうやら我が幼馴染は、雄英でさらに才能を開花させているようである。トガちゃん、恐ろしい子……!