――――――――緑谷出久side――――――――
時に絶叫を挟んだ賑やかなタコパ、それが終わったら後片付けだ。
峰田君が運んできたお皿を受け取って、僕は洗剤のついたスポンジで擦る。
「なんだかんだ楽しかったな」
「そうだね」
隣で一緒に皿洗いをしているのは轟君だ。
轟君は当初はたこ焼きを焼く担当をしていたが、かっちゃんと交代したので片付けに回ってきたのである。
「これで鉄板は全部よ」
抱えたプレートを流し台に下した蛙吹さんに、轟君は〝そうか〟と頷いた。
彼女も腕まくりして、轟君の横に立って皿洗いに加わる。慣れた手つきでテキパキとこなす彼女は、きっと日頃から家でもやっているのだろう。
……そういえば、長女で下に弟や妹がいるって言っていたっけ。
「こっちはお姉ちゃんがやっておくわね」
そういって轟君のところからプレートをひょいッと掴んだ蛙吹さんに、彼も〝すまない、姉さん〟とごく自然に応じる。
「「……………ん?」」
感じた違和感に二人は互いに顔を見合わせた。
方や長女が長女らしく振舞い、方や末っ子が末っ子らしく振舞った結果であった。
「つい間違えちまったな」
「そうね」
真顔で事実を確認するだけの淡々としたやり取りを経て、洗い物に戻った二人。
それを、グラスを片付けてきた峰田君が見咎めて叫んだ。
「そんなあっさりと終わらすんじゃねぇよ!? 今の絶対なんかのフラグだろッ!!」
「「フラグ?」」
頭上に疑問符を浮かべる二人に、峰田君は目をカッと見開いて吠えたてる。
「今のは、間違えちゃったって赤面するところだぞ。そしてそれを見た相手が、アイツ可愛いところあるじゃん、ってなるんだよ! 分かんだろ? こんな冗談みたいなフラグなかなか立たねぇんだからな。それを気づかずへし折るだぁ? これだからトーシローはよぉ!!」
烈火のごとく怒る峰田君に、轟君と蛙吹さんはなおも首を傾げ続けるのだった。
――――――――緑谷出久sideここまで――――――――
――――――――相澤消太side――――――――
普段はがらりとしている休日の職員室、だが今日は出勤している面々も多い。
その理由はもうすぐ雄英体育祭が迫っているからだ。
競技や競技場の担当だけでなく、観客の誘導やマスコミへの対応など競技まわりのことも一切合切を学校側、ひいては教員たちが取り仕切る。勿論、プロのヒーローやそのサイドキックらに既に協力依頼は通っているが、彼らは生徒の個性を全く知らない。
強力な個性を有する生徒も多く、その衝突が大きな事故につながる危険も高い。
場合によっては我々が止めるケースや、外部の協力者の手を借りる不足の事態だって起こり得る。つまり、そんな危険と隣り合わせの体育祭を無事に進行させる、そのための資料を作っているわけだ。
特に重要な共有事項は、生徒の個性とそれに付随した能力、そしてサポートアイテムだ。
ウチのクラスは良くも悪くも突出している奴が多いのが問題だ。
緑谷も最近はオールマイトとの補習により、身体強化の負荷をコントロールすることを学び始めているようだ。サポートアイテムでは新たに蹴りの衝撃を緩和する脚部装備を申請してきている。
爆豪も以前なら緑谷相手に見境がなくなっていたところだが、自身の感情をコントロールする術を得たのか成長著しい。
蛙吹や渡我、それに推薦組の轟や八百万は元から大きな欠点が無い生徒たちだったが、八木の存在が良い影響をもたらしているようだ。その卓越した技量を肌で感じて奮い立っている。
そして、問題はその八木だ。
俺は八木の共有事項をまとめていて天を仰いでしまう。
何だこのサポートアイテムの数は……全部で四十個、それらを人形に装備するだと? 前代未聞のサポートアイテム申請に頭を抱えていた。基本的にはサポートアイテムの使用は、申請すればそのまま通る。なぜならサポート科の努力の見せ場でもあるからだ。
とはいえ、これがそのまま許されて良いものかは判断に困ってしまう。彼女は現状でも十二分に力を持っているのである。
ふぅ……少し休憩でもしようか。そういえば、小腹が減っている。
俺は職員室の冷蔵庫を開ける。
ゼリー飲料に満たされた一画、その美しい光景が俺を迎えてくれた。
こいつらは素晴らしい発明だ。作業中でも食べられ、それなりに美味いし栄養素も添加されている。そして何よりその簡便さ故に、完成された合理性があった。
ゼリー飲料を一つ取り出したそうとしていた俺に、声が掛けられる。
「「「相澤先生、いらっしゃいますか?」」」
見ればドアから顔を覗かせているのは、芦戸や葉隠、麗日といった女生徒たちだ。〝あ、先生いるー〟と、彼女らは手を振って俺を呼びつける。
「何だ?」
「先生、タコパしたんでお裾分けです!」
そう言って、彼女たちは持っていたビニール袋を嬉々として俺に押し付けた。中にはたこ焼きに満たされたプラスチックのパックが入っている。
「わざわざ悪いな」
頭を掻く俺に、彼女らは〝当たりのたこ焼きは美味しいですよ〟と笑いながら去っていく。
当たり?……たこ焼きに当たりや外れがあるのか?……よく分らん。
まあ、ちょうど小腹も減っていたしせっかくだから頂くか。
生徒からのお裾分けを手に戻った俺に、プレゼント・マイクが顔を上げる
「おいおいイレイザー、リスナー自慢か」
マイクの軽口に、俺は〝人徳の差だ〟と応じて薄く笑う。どうやらアイツもたこ焼きを食べたいらしい、サングラス越しに視線がたこ焼きに注がれていた。
「いいぞ、お前も食え」
付属の爪楊枝を一つ差し出すと、マイクは逆立った髪を大げさに揺らした。
「それでこそマイフレンドだ。それじゃ、お言葉に甘えちゃうぜ!!」
俺らはたこ焼きに爪楊枝を突き立て、それを口に放り込んだ。
「「ぶほッ」」
――――――――相澤消太sideここまで――――――――