私が操る人形2体が左右から振り下ろした木の枝、それをトガちゃんは旋転して躱す。
そして着地先で待ち構えてた人形の攻撃すら、彼女は右手に持ったナイフの刀身で滑らせるようにしていなした。一応断っておくと、ナイフといっても彼女が持っているのは刃のないイミテーションである。
その陰から現れたのは、追撃を狙った4体目の人形。
その斬撃はトガちゃんが体を捻ることで空を切り、さらに足元に迫っていた5体目の人形を足場に少女は宙を舞った。
トガちゃんの動きは、まさに軽捷の極みだった。
……身のこなしがやっぱり素質だね。私との訓練を重ねる度に、動きに磨きが掛かっている。
これに変身という個性も加われば、原作ではプロヒーローたちが苦戦するのも頷ける。
彼女はすとんッと華麗に宙返りの着地を決めて、即座にこちらに駆け出した。
私を守るように展開された人形たちに、彼女は素早く目を走らせる。
ふふふ、トガちゃん。
こいつらの突破に時間を掛けてられないよ。だってあなたの後ろには、先の人形たちが追いすがっているんだからね。
ここで、にわかに信じ難いことが起こった。
歓迎のために得物の木の枝を振り上げた人形たち、そこにトガちゃんが飛び込んだ。
そう見えた途端に、視界から彼女の姿が忽然と消える。
えッ!?……どこにッ!?
そして、いつの間にか私の死角に現れていたのである。
勝利を確信した笑みでナイフを構える少女。
その瞳に映るのは、驚愕に目を見開いた私自身。
——だが、勝ったも同然と思うのはまだ早い!
本当は彼女の挙動を私は把握していたのである……でも確かにその動きには驚いたけどね。
私の体が糸に引っ張られて動き、その空いた空間に人形を引き戻して高速で突っ込ませる。
慌てながらも辛うじて人形の体当たりを躱したトガちゃん。
だがその人形は軌道を急変させて、彼女の眼前へと接近した。そして、トガちゃんはおでこをぺしんと木の枝で叩かれたのである。
「あぅー、また負けたー」
しゃがんでおでこを擦りながら、トガちゃんは可愛く口を尖らせる。
そう、これはずっと続けていたヴィランになるための訓練の一幕。
トレーニングを通して分かったことは多い。
私はどうやら、設置キャラの戦いが向いているようだ。人形を操っている糸とは別に、実は私は縦横無尽に見えないくらい細い糸を周囲に張り巡らせているのだ。
これは細すぎて見えないし、私以外は触っても気づかない。
だが操り手である私には相手が接触したことが伝わるのである。まさに相手には幻のような不可知の糸、これを私は軟糸《なんし》と硬糸《こうし》とも区別して、幻糸《まぼろし》と呼んでいる。軟糸をどんどんねじって硬糸に出来たように、逆に軟糸をほぐすような試みで生まれたものだ。
だからこそ、こっちの視線を搔い潜るような、トガちゃんの挙動をも把握できたのである。
そしてこの幻糸は変幻自在な人形の挙動の秘密でもあった。
幻糸はもちろん人形たちと周囲をも繋いでいる。そのため、幻糸を瞬間的により合わせて軟糸として扱うことで、人形は慣性や重力を無視した縦横無尽な動きをするのである。そう、どこか調査兵団の立体機動みたいなもん。
「もう一回です!」
立ち上がって眦《まなじり》を釣り上げたトガちゃん。
意外と負けず嫌いらしい、そんな彼女に私は挑戦的な笑みを返したのだった。
× × ×
白刃を閃かせて、私に切り掛かったトガちゃん。
いつもなら、結局は私の人形に阻まれて悔しがるのが一連の流れ。
だがこの時は想定外の出来事が起こった――――
――――ダンッ!!!!
勢いよく空から何かが落下して、大地を震わせる。
そして、立ち上がる砂煙の向こうから現れたのは、隆々と盛り上がる筋肉を誇る巨躯。彫の深い濃い顔立ち、そしてピンと天を衝くかのように伸びる二つの前髪のトレードマーク。
それは圧倒的なオーラを放つ、名実ともにNo.1ヒーローの姿。
オールマイトがそこにいたのである。
「少女よ、大丈夫! 私が来た!」