――――――――耳郎響香side――――――――
ロボットの巨腕を回避しながら、それに耳のプラグ突き立てる。
そこから伝わるのは、増幅・変換されたウチの心音だ。
ドクンドクンという音が周囲に漏れると同時に、巨大ロボからパーツがバラバラと落ち始める。振動が共振点に合致し、ロボを内部から崩壊させたのだ。
そして姿勢を傾がせてゆくロボの巨体を、麗日が軽々と片手で受け止めた。
何トンにも及ぶ機械の重量も、彼女のゼログラビティの前では形無しだ。その指先の肉球が触れたものは、個性を解除するまで無重力状態になってしまうのである。
そして麗日は機械の巨躯をそのままひょいッと後方に放り投げ、手を合わせた。
すると、荷重を取り戻したロボが重力に引かれて落下し、轟音とともに砂埃を巻き上げる。それに慌てふためく生徒達の姿が、揺らめく砂塵の向こうに見え隠れした。
「よし、行こう!」
ウチらは頷き合って、第一関門のロボ・インフェルノを走り抜ける。
「これはナイスな即席コンビネーションと判断だ、1-A耳郎そして麗日! どけた障害物をそのまま後ろのライバル達にプレゼントッ! さあ、どうするよ、後続のリスナー諸君。ロボは動いても動かなくてもチョー邪魔だぜぇ!」
マイク先生の実況に活躍を拾われ、ウチらは二人して観客席に手を振った。
障害物競走は、チーム競技ではなく個人戦。
それでもウチらが協力し合っているのは、その方が障害を素早く突破できるからだ。
それに気づいたクラスメイト達が咄嗟の連携で突破し始めており、その後ろではB組や普通科の人たちが単身でロボを相手取ろうと未だ右往左往していた。
先頭集団はもはや見えない。
単体でロボゾーンを突破していった何人かが、轟に追いすがっていることだろう。
ウチらもなるべく急がないといけない。
とはいえ、焦りは禁物だ。
体育祭の第一種目は少数を残すための関門なのだ。
そもそも多くの人は篩い落とされてゴールすらできない。だからこそ自身に合ったやり方で、着実に進んでいく方が良いのである。
ふいに驚愕したような叫び声に背中を押され、ウチらは後方を振り返った。
「何アレ?」
目を凝らせば、幾条ものレーザーを閃かせてロボゾーンを突破した何かが、高速で迫って来るのである。
次第に大きくなっていくその姿に、ウチらは警戒して身構えた。
そんなウチらの横を少女の影が爆速で通過し、〝くははははははッ!〟と高笑いを吹きつける風に乗せてただ残していく。
「え、八木?」
「イトちゃん?」
思わずウチらは顔を見合わせたのであった。
――――――――耳郎響香sideここまで――――――――
――――――――骨抜柔造side――――――――
……手強いッ!
地中をサポートアイテムの力を借りて高速で泳ぎ進みながら、俺は地上のライバルたちを睨む。
俺の柔化でドロドロになった地面を避けるように、前を走るのは飯田だ。
そして俺の横では、八百万が水上スキーよろしく俺の個性を利用しながらジェットパックの推進力で滑るように進んでいる。
二人を地中に沈めてやろうとした俺。
だがその企みは飯田にあっさりと見切られ、あまつさえ八百万には利用される始末だった。
B組の級友たちとの明らかな対応スピードの違いに、俺は唸ってしまう。
先頭集団だってそうだ。
これから俺らが差し掛かる第二関門の綱渡りゾーンを、突破しているのはB組では夜嵐しかいない。対してA組は轟、爆豪、緑谷が最後の障害物へと差し掛かり、既にして四人四つ巴の様相を呈していた。
後ろを振り返れば、追い縋って来るのは常闇や芦戸をはじめとしたA組の面々ばかりなのである。
……こんなにも違うもんかね。
入学した当初は差なんか無かったはずだ。唯一の違いは、ヴィランの襲撃を経験しているかどうか。戦いから生き延びたA組は、飛躍的に能力を向上させているのである。
そして俺は綱渡りゾーンへと到達して、泥濘の中から這い出した。
第二関門ザ・フォール――深く大きな谷を越えなければならない第二関門。その谷の中には岩の柱がいつも屹立し、それらがロープで繋がれている。要は綱と岩を足場に向こう側まで到達せよ、ということだ。
さて、どうしたもんか……
生憎と俺とは相性が良くないステージだ。突き立った岩を柔化させるにしては、距離が遠すぎる。つまりは、素直に綱にぶら下がりながら渡るしかない、ということになるのか?
俺が攻略に迷っている間にも、八百万は生成したトロリーを綱に掛けてジップラインの要領で渡り始めている。そして飯田は、エンジンの推進力を乗せた跳躍で近い足場まで一気に到達していた。
まったく、こういうところだぜ……大きく息を吐きながら、俺は頭を掻いた。
その時、俺の横を何かが高速で掠めた。
見れば、ジェット噴射で爆走しながら哄笑を上げる少女が一人。
俺や夜嵐と同じく推薦組の八木だ。
彼女はワイヤー式アンカーを射出して、谷中の岩に突き立てる。そしてそれを高速で巻き取ることで、加速を繰り返しながら渡っていくのである。
「おおっと! 1-A八木、前代未聞のバーダック抜きで順位を上げるッ!」
興奮気味に叫ぶマイク先生、それに〝バーダックとは、ごぼうのことだ〟とイレイザー先生が真顔で謎の補足説明を添えている。
「ぶふふッw」
大地を滑走していた芦戸が、そのシュールさに噴き出した。
そして彼女は俺の横を通過した足をそのまま滑らせ、笑いながら深い谷底へと落ちていく。
まったく、こういうところだぜ……俺は雄英のノリの良さに大きく息を吐いた。
――――――――骨抜柔造sideここまで――――――――