――――――――耳郎響香side――――――――
梅雨ちゃんの舌が掴むも、常闇のダークシャドウに叩き落とされた1000万pの鉢巻。
地面に落ちる直前のそれを、ウチが伸ばしたプラグが他に先んじて掬い上げた。
そして、ここぞとばかりに逃げに徹する私達。
「よっしゃ! 1000万pゲットだね!」
「やった!」
「ケロケロ!」
ウチが手にした栄光に、下から次々と歓喜の声が上がった。
このチームはウチが騎手で、騎馬は梅雨ちゃんと芦戸、そして葉隠だ。言うなればA組女子チーム①、ちなみにもう一つの女子チーム②は八木たちだ。
後は逃げ切れば勝ちなんだけど、そうは問屋が卸さない。
他の騎馬たちが、こっち目掛けて迫っていた。
「足止め行っくよー!」
芦戸がフィールドに撒いた溶解液、それが追って来る騎馬の足を滑らせる。
体勢を崩す後続を後目に、私たちは距離を離しに掛かった。
突如として、肌を刺す冷気が私達を包む。
そして進行方向をふさぐように、音を立てて氷壁が現れたのである。言わずもがな、轟の個性だ。
「やっぱ来たか……」
私は焦りを滲ませながら呟いた。
そんな私らの前に現れたのは、B組の夜嵐を騎手にして、騎馬が轟、尾白、そしてB組の回原のチームだ。
人数的にクラスを跨いだ混成チームになったのだろう。でも、それにしたって轟と夜嵐のセットは如何にも強力だった。
チームメイト3人の荷重を抱えてはキツイと思うが、ここは梅雨ちゃんにジャンプして氷を飛び越してもらうしかないだろう。
「梅雨ちゃん、お願い!」
「…………」
応じない梅雨ちゃんに代わって、葉隠が慌てたように叫ぶ。
「ヤバい!? つゆちゃんが寒さで冬眠しかかってる!?」
「ええ!?」
見れば、梅雨ちゃんは微睡んだように瞼を閉じかけ、体をゆらゆらと揺すっているのである。
砂埃を巻き込みながら吹き付ける烈風、それに思わず私は顔の前で腕を交差させながら目を眇めてしまう。
これは風を操る夜嵐の目くらましだろうか。
そして、いつしか眼前に迫っていた敵影。
咄嗟に応じることもできず、私たちは1000万pと共に自分たちの鉢巻も取られてしまった。
追い縋るように伸びるウチのプラグを、尾白が振るう尻尾が弾く。
「もらってくっス!」
置き土産とばかりに戦利品を首に掛けて笑う夜嵐を、私たちは悔し気に睨むことしか出来ない。
だが、そこにまた突風が吹きつけた。
戦場を吹き渡った一陣の飄風は、夜嵐が起こしたものではないだろう。だって、彼はキョトンとした表情を浮かべてるんだから。
その発生源は、ウチらの横を猛スピードで駆け抜けた騎馬だった。
常闇を乗せた飯田と緑谷の三人騎馬、それが爆速で大地を疾駆しているのである。
そして常闇のダークシャドウが、たった今夜嵐が奪ったばかり1000万pを高らかに掲げているのだった。
――――――――耳郎響香sideここまで――――――――
――――――――物間寧人side――――――――
「……クッソ速いな」
フィールドを高速で駆けまわる常闇チームの騎馬に、僕は目を細めた。
スピードで勝負じゃ話にならない……やるとするなら絡め手だ。
――――フッ、思いついた。
第一種目の意趣返しをしてやろうじゃないか。開始早々に僕らは足元を氷漬けにされたんだ。だったら今度はそれをA組にお見舞いしてやろう。
A組の個性がA組の首を絞めるなんて、何とも愉快な光景だ。
「よし! 僕が轟の個性であの爆走している奴らの足を止める!」
「なるほど、ありだな」
「おう、頼んだぜ!」
そうやって口々に僕の背を押すのは、騎馬を組んでいるB組のチームメイト達だ。
僕の個性は『コピー』。
時間制限はあるものの、触れた人間の個性を写し取るまさに最強の能力だ。
轟に触れたのは騎馬戦の開始前、まだ十分使える時間だった。
……ククク、氷漬けになりやがれ!
溢れ出る冷気に僕はほくそ笑む。
僕を中心に氷結が生じ、気づけば僕らの騎馬の足が氷に閉ざされていた。
「……お、おい、動けなくなったぞ」
焦ったように円場が僕を見上げる。
「悪い、どうやらこの個性はコントロールがすごく難しいみたいだ」
「「「……」」」
鷹揚に髪をかき上げる僕に、チームメイト達が非難がましい視線を向けた。
つまり僕らは悪逆非道のA組の策略に掛かり、この場に足止めを食らってしまったのである。
「……A組の奴らめ、僕らを罠にはめるなんて許せないなッ!」
「「「お前の自爆だ!!」」」
――――――――物間寧人sideここまで――――――――
――――――――飯田天哉side――――――――
「こいつら、マジで早すぎるぅぅぅぅぅ!!! 駆けっこの中に、レーシングカーでも参戦してんのかよぉぉぉぉお!!」
昂るマイク先生の実況が会場に響き渡る。
その大音量に隠れながらも〝下が二人の騎馬は変則的な組み方だが、スピードを優先した結果だろう〟という相澤先生の解説がボソボソと聞こえてくる。
その通りだ。
俺と緑谷君のスピードを最大限に生かす戦法がこれだった。
「飯田君、エンジンもちそう?」
「試合の時間程度なら問題ないさ」
後ろから掛けられる緑谷君の声に、俺は笑って応じる。
すると、〝いい作戦だったな。流石に轟たちも騎馬ではこの速度に追い付けまい〟と馬上で常闇君が鼻を鳴らした。
平地を走るのなら俺は速度で後れを取るつもりはない、即ちこの騎馬は最速だ。
この戦術は打ち破り難いに違いないのである。
緑谷君の観察眼と、作戦立案能力には目を瞠るものがあるのは気づいていた。だからこそ、これを彼が提案してきた時、俺はその才能に唸ってしまった。
それに個性の操作だって、顔を合わせたばかりの頃の緑谷君ではない。
個性を暴発させて先行きが危ぶまれていた彼は、いまやその超強化で、最高速度ではないとはいえ俺のレシプロにぴったりと追随しているのである。
彼の成長ぶりには舌を巻いてしまうな。
……いや、俺も負けていられない!
そんなことを考えながら走っていたら、ふい視界の端を何かが掠める。
「ッ!?」
驚愕に目を見開いた俺。
その視線の先にあったのは、火花を散らしながら飛ぶ人影だ。
それは、〝そいつを寄こせやぁぁぁああ!!〟と狂暴に歯を剥く爆豪君だった。
――――――――飯田天哉sideここまで――――――――