――――――――轟焦凍side――――――――
氷壁を割り砕くダークシャドウに、俺は思わず顔を顰めてしまう。
飯田と緑谷、アイツらの速すぎる足を止められなければ勝負にならない。
だから自由に走り回れるスペースを、俺の氷壁で徐々に狭めていこうとしたのである。
逃げ続ける常闇チームを足止めして掴まえられるかどうか、これが勝敗の別れ目だった。
だが、こちらの手は想定内だったらしい。
進行方向に生成した氷塊を彼らはするりと躱し、そしてすれ違いざまに常闇の黒影が砕いていくのである。
これでは障害物でどんどん追い詰めていく作戦は成り立たない。
氷壁を生んでは、それを壊されてしまう。
繰り返される鼬ごっこに、時間ばかりが過ぎていく。
それが俺たちに焦りを募らせてゆくのだった。
そんな中、変わらない膠着状態に突然の闖入者が割って入った。
炸裂音を響かせながら爆豪が宙を駆け、飯田と緑谷のスピードに追随しているのである。
両者が争えば、追い付ける余地はある!
「よし、追いかけるぞ!」
――――――――轟焦凍sideここまで――――――――
――――――――緑谷出久side――――――――
迎撃で振るわれたダークシャドウの腕を、かっちゃんが爆裂でいなす。
その閃光で黒影が怯んだ隙を、彼が見逃すはずがない。かっちゃんの執念が、常闇君から1000万pの鉢巻を奪い取ったのである。
舌打ちする常闇君に、かっちゃんが不敵な笑みを投げ返した。
その瞬間、彼の胴回りに巻かれていたテープがピンと張る。
そして、そのままかっちゃんの体は、瀬呂君に巻き取られて馬上へと戻っていくのである。
「すまん、やられた! もう一度、奪うぞ!」
気炎を上げる常闇君を見上げながら、僕は思考を巡らせる。
光が苦手なダークシャドウでは、かっちゃんの爆破を相手に鉢巻を奪取するのは無理だ。つまり夜嵐君の時のように、横を駆け抜けながらダークシャドウを伸ばすだけでは不十分なのである。
つまり、かっちゃん相手には常闇君自身の手で鉢巻を取らなければならない。
「……うん、このまま体当たりしよう」
「しかしッ!」
言い差した飯田君を僕は制した。
彼の言いたいことは分かる。騎馬の崩しだけを狙った意図的なアタックは違反だ。でも僕には、それが大丈夫だと確信があったのだ。
「大丈夫、切島君なら絶対に崩れないよ」
「そうか、なるほど」
腑に落ちたように頷いた飯田君、彼は標的を見定めながら足を速めた。
きっとそれだけで、こちら狙いは分かったのだろう。
切島君が硬化した足を大地へと突き立て、真っ向勝負を歓迎するかのように挑戦的な笑みを浮かべる。
そして僕たちは、かっちゃんチームの騎馬へ正面から体当たりしたのであった。
体と体が勢いよく衝突し、ドンッと空気を震わせる鈍い音が響く。
そして、僕たちの騎馬は完全に受け止められていた。
揺らぐことない切島君の防御力は、クラスでも随一だろう。
……ここまではいい、あとは騎手同士の争いだ。
常闇君とダークシャドウの連携攻撃がかっちゃんに迫る。
馬上では回避の余地はない。それでもその身を飾る爆破の火花で、手数の差を埋めて渡り合っているかっちゃんは流石だった。
だがダークシャドウの牽制で、遂には常闇君の手がかっちゃんが握る鉢巻を掴んだ。
「それを返せッ!」
「渡すかよ、鳥頭ッ!」
一つの鉢巻を二つの手が引き合っている。これを取った方のチームが一位になるのだ、互いに譲ることなんて出来ないだろう。
その時、突如として空から小さな缶状の物体がフィールドに降り注いだのである。
――――――――緑谷出久sideここまで――――――――
――――――――拳藤一佳side――――――――
もうすぐ終了時間だ。
相手の鉢巻を狙って攻め掛かるチーム、そのアタック側の隙を狙ったのが私達の作戦だ。
お蔭でいくつかの鉢巻を無事奪取したのである。
これなら、次の種目への出場も大丈夫だろう。
そう思って息を吐いた途端、空か急に何かが落ちてフィールドを跳ねた。
そして紫煙を吹き出したその正体は、小型の発煙弾だった。
「な、な、何ごとッ!?」
慌てる希乃子を、私は〝落ち着こう〟と諭す。
続けざまに降り注ぐ発煙弾に、フィールドが朦々とした煙に覆われていく。
視界を奪われた状況下で下手に動くの事故の元だ。
「ここにきて変化球、発煙弾の雨だぁぁぁああ! ちなみにこれは個性で作られた物だぜぇ!」
マイク先生の実況でようやっと現状を把握できた。
どうやらいずれかのチームが発煙弾を撒いたのである。
しばらく周囲を警戒していると、夜嵐が吹かせた風が立ち込めた煙を追い払っていく。
ほっとしながらも、一体何だっただろうかと首を傾げた私。
「な、無いッ!?」
だがそこに、狼狽した切奈の声が頭上から聞こえたのである。
見上げれば、これまで奪って切奈が首に巻いていた鉢巻が全て消えているのであった。
――――――――拳藤一佳sideここまで――――――――
――――――――夜嵐いなさside――――――――
俺は風を吹かせて、視界を奪う煙を散らそうとした。
だが、次から次へと落ちてくる発煙弾の煙が、それを許さない。結果、自身たちの周囲のみ紫煙の目隠しから逃れることが出来ていた。
でも、これじゃあ1000万pを追えないじゃないか。
歯噛みしている俺の視界に、その時キラリと光る何かが掠めた。
見れば、額の鉢巻にいつの間にか銀糸が絡みついているのである。
それは忘れもしない第一種目の最後、俺の前進を妨げた八木さんの糸だった。
「ッ!?」
咄嗟に俺は自身の鉢巻を強く押さえた。
直後、鉢巻がするり解かれ、それが糸に引かれて俺から離れようとしたのである。
その僅かな時間の差が明暗を分けていた。
俺は煙幕に紛れた鉢巻を狙った奇襲を阻止したのである。
――――――――夜嵐いなさsideここまで――――――――
……仕掛けは上々だ。
私はほくそ笑みながら、チームメイトに指示を出した。
「落としてちょうだい」
「おうッ!」
お茶子ちゃんが指を合わせると、上空に浮かんでいた発煙弾がフィールドに落ち始める。
開始早々にポイントを投げ捨てた私たちが、何をやっていたかって?
戦列にも加わらず、ただただこの場に留まっていたのである。
ヤオモモちゃんにひたすら煙幕弾をいくつも生成してもらい、それをお茶子ちゃんが次々に空に浮かしていたというわけだ。
そして終了時間が迫った今。
発煙弾の煙がフィールド全体を包み込んだ。
そして私は皆の鉢巻に結んだ見えないくらい細い糸を、このタイミングで撚って太く丈夫にして引っ張るのである。
そうすれば、あら不思議!
たくさんの鉢巻がいつの間にか集まって来るのである。大量の鉢巻を抱えながら、私たちのチームは試合終了を迎えたのだった。
「すごいよ、イトちゃん!」
「まさかこんな方法であるなんて、驚きですわ!」
驚きを口にするのはチームメイト達だ。
……ふふ、もっと私を褒めてくれたっていいのよ。
そして最終的な順位は、
一位は1000万p鉢巻を最後まで二人の騎手が掴んでいた、常闇チームと爆豪チーム。
二つのチームがその半分ずつの点数を獲得したのである。ちなみにこの二チームそれぞれの鉢巻は私の手元にある。
三位は私たち。
一位が二チームなので、三番目だ。ほぼ全ての鉢巻を奇策で奪い取った結果だった。残念ながら一位にはなれなかったけど、奪った鉢巻の数ではダントツだ。
そして四位は、夜嵐チーム。
彼らは獲得した鉢巻を私の奇襲から守ったのである。
この四チームのメンバーが第三種目へと駒を進めたのである。
原作では心操君が占めていた枠を、残念ながら私が奪ってしまった形だ。でも彼の力なら、いずれヒーロー科へと編入してくるだろう。