――――――――轟炎司side――――――――
焦凍が無事最終種目に進めることになり、俺は握っていた拳を緩めた。
見れば、随分ときつく握り込んでいたようで手のひらには指の跡がついている。
いつの時代でも子どもの頑張りを見届ける親は、その子以上に一生懸命になってしまうものだろう。
だから息子の姿に手に汗握ってしまうのは、仕方がないのだ。俺は荒ぶる興奮に競技中立ち上がっては、冷に窘められて座り直すのを繰り返していた。
大きく息を吐いて汗を拭う俺に、燈矢が呆れた顔を向けてくる。
「落ち着けって、父さん。ヒートアップしすぎだよ。ちょっと散歩してきたら?」
そうなのだ……今日はヒーローの仕事はサイドキック達に任せ、あくまで家族の応援として来校していた。なるべく個性は出さないようにしていたのだが、時に興奮して漏れ出てしまっていたのである。
「むぅ、確かにそうだな。少し風にあたって来る」
ちょうど体育祭も休憩時間に入ったため、俺は席を立って競技場の外へと向かったのだった。
そして、俺は外へと繋がる階段で出会ってしまったのだ。
ヒーローコスチュームこそ纏っていないが、眼前の偉丈夫を俺が見間違えるハズがない。
それは不倶戴天の我がライバルであり、俺の変わらない目標でもある男、オールマイトだった。
「やあ、エンデヴァー。久しぶりだね、お茶しよ!」
そう言って彼は白い歯を見せて、二ッといつもの笑みを浮かべたのだった。
× × ×
体育祭の熱狂とはうってかわって、眼前には涼やかなアイスコーヒー。
そのグラスの中で氷がからんと音を立てる。
案内されたのは教職員用のテラス、そこで俺はオールマイトと向き合っていた。
一体何を思って、この男が俺を誘ったのかは分からない。
だが息子がここの生徒であること、そしてオールマイトが教員であることを踏まえれば、保護者への相談という可能性が最もありそうだった。
「焦凍が、いや息子がどうかしたのか? 何かマズイことでも……」
言い淀みながら、俺の中で嫌な想像が燃え上がり始めた。
焦凍は優等生だ、息子から問題を起こすとは考えにくい。だからこそ思い当たったのはイジメだった。
……優しい焦凍はクラスの中でイジメられているのかも知れない。
そんなことは断じて許せん!!!
俺の顔から炎が勢いよく噴き出し、オールマイトが慌てて首を振る。
「いや、そんなことないよ。轟少年に問題はないさ」
「むッ、そうか……てっきり焦凍が、イジメにでもあっているかと思ってな」
一瞬ときょとんしたNo1ヒーローは、それから〝全然全然! 彼はクラスメイトたちとも仲良しだよ! 全く親バカだな、君は〟と愉快そうに大笑いしている。
そうか、焦凍はイジメられて無かったか…………良かった。
もしイジメられでもしていたら、俺の家族愛《プロミネンスバーン》が吹きあがるところだった。
「じゃあ、一体何だ。こんなところに連れて来て?」
俺は未だに体を震わせ笑うオールマイトを睨んだ。
すると彼は、息を整えながら〝まあ、保護者同士の世間話さ〟と言って、アイスコーヒーを啜る。
「先日、イト少女が轟家で焼肉をご馳走になったね。ありがとう、そのお礼をまだ言えてなかったからね」
今度は、こちらが腑に落ちない表情になってしまった。
八木イト、我が家に訪れたことがある焦凍のクラスメイトだ。そして第一種目と第二種目でも活躍を見せた、小柄でお人形のような少女だった。
その女生徒が我が家で夕飯を食べたこと、それをなぜオールマイトが気に掛けるのか。
……ん?
八木イト…………八木? その苗字に俺ははたと思い当たった。
眼前の人物の本名こそは八木俊典なのである。
「そう、イト少女は私の娘なんだ。あ、これはオフレコで頼むよ」
いつもの笑顔を浮かべるオールマイトを、俺は驚愕の眼差しで見つめてしまう。
馬鹿な!? この筋肉達磨とあんな可愛らしい女の子が親子だというのか!?
でもそうか、即ちオールマイトの娘が俺の息子とクラスメイトということなのだ。
そして俺は閃いてしまう!
俺がいずれオールマイトを超え、そして焦凍も体育祭決勝でオールマイトの娘を破る。これこそが完全なるライバルへの勝利の形だった。
――――――――轟炎司sideここまで――――――――