――――――――オールマイトside――――――――
それは一つ騒動を解決して、飛んで帰っている最中のことだ。
私はまた一つの事件を目にしてしまった。少女が、ナイフを手にした少女に襲われているのである。
む、これは危険だぞ!
素早く現場に急行した私は、刃物を振りかざしている少女の腕を抑えた。
急な闖入者《ちんにゅうしゃ》に目を丸くしている少女。
彼女には少し酷かも知れないが、私はその背を軽く撫でて気絶させる。ヴィラン犯罪では姿形で惑わされてはならず、なによりもまず無力化することが先決なのだ。
そして、私はサムズアップしながら襲われていた被害者に笑みを向けた。
「少女よ、大丈夫だ! 私が来た!」
だが彼女は私の口上に驚いた素振りをしながらも、抱えたナイフの少女を指さした。
「あの……その子、友達」
「む?」
「あなたが気絶させた女の子は、ただ私と訓練をしていただけなのよ」
〝……ナイフは?〟と問う私に、彼女は〝イミテーション〟とあきれ気味に返す。
なん……だと……
――――――――オールマイトsideここまで――――――――
私が告げた真実、それはヒーローのただの勘違い。
自身の誤解を悟って、白い歯を見せたまま固まるオールマイト。
そして彼はトガちゃんをベンチに横たえ、〝あのぅ、すまないが、状況を聞かせてくれないか?〟と私に困ったような顔を向けた。
オールマイト、拳一つで絶望すら打ち砕くと絶対的な正義の味方。
その存在一つで犯罪を抑える平和の象徴だ。この世界でオール・フォー・ワンを除けば、最も強い人物だろう。
そして、彼は一般人が気楽に接点を持てるような人物ではない。
だけどそれが今、目の前にいた。
――だったら、私の試金石になってもらうしかないじゃない!
だって私が目指すのは最強で最凶で最恐のヴィラン、そのための腕試しと洒落込みましょう!
――――――――オールマイトside――――――――
いくつもの人形を宙に浮かべて、少女が不敵な笑みを投げかけてくる。
「いい? オールマイト。あなたはやんちゃな子どもの悪戯の被害者。ただ無鉄砲に挑んできた悪ガキに付き合っただけ。これでいいわね?」
「ちょっとッ!」
臨戦態勢の少女は、慌てた私の制止を振り切って人形を操り始める。
複雑な軌道を描きながら飛来する人形たちが視線を誘い、その奥で少女の姿がブレた。
そして、気づけば彼女は私の頭上で足を振り上げていたのである。
――速いッ⁉
咄嗟に防御に上げようとした腕、それが思うように動かない。
見れば、地面から腕へと伸びた糸がピンと張られている……なるほど糸を操る個性か……ベストジーニストの個性ともよく似ている。
そしてズシンと響くような、少女の矮躯わいくから放たれたとは思えない重い蹴りが肩に入った。
腕の糸を強引に引き千切って、彼女を捕まえようと手を伸ばした。
だが宙で動きが急変した少女、その体は私の腕を嘲笑うかのようにすり抜ける。
その軌道はさながらグラントリノのようだ。
もう私の手が空を切ったのは何度目だろうか。
――まるで捕まえられない……何と熟達した動きだッ!!
接近しては一撃を入れて離脱する、というシンプルな戦術。糸で私の動きを遅らせ、人形を衝突させて私の正確さを乱す。
そして悠々と、まさに宙を自在に舞うように、私に打撃を浴びせ掛けてくるのである。
――――――――オールマイトsideここまで――――――――
……か、硬ぇ!
全然びくともしないじゃん、オールマイト。
私の攻撃はまるで石像でも叩いているように弾かれてしまう。
これでも、私が今考え得る限り出せる全力だ。
私とオールマイトを繋いだ糸を引いて打撃の相対速度を上げ、インパクトの瞬間には手足に纏った軟糸の表面を硬糸に置き換えている。スピードも重量も、今出せるMAXなのである。
これで全く歯が立たないのでは、オール・フォー・ワンの打倒など夢のまた夢。
何か根本的な部分での戦い方を改めなければならないだろう。私は口元を悔しさに歪めながら、毒づいてしまった。
「こんなじゃ、オール・フォー・ワンに勝てないじゃない!」
――――――――オールマイトside――――――――
オール・フォー・ワン⁉
私の耳が聞き捨てならない言葉を拾い上げた。今、眼前の少女は確かに、オール・フォー・ワンと言ったのだ。
知らず全身の血が沸き立って、鼓動が激しく胸を叩く。
迂闊にも動揺から、手に力がこもってしまった。
振り上げた手が、生じさせた風圧。
それによって少女は。一片の木の葉さながらに宙空で弄ばれる。
し……しまったッ!!
舞い上がった少女を跳んでキャッチし、私はほっと一息吐いた。
だが気絶している幼い顔に視線を落として、私は考え込んでしまう。
なぜオール・フォー・ワンを知っているのだ……彼の関係者何だろうか……この少女は何者なんだ……それにあの強さは一体……。
ぐるぐると巡る乱れた思考に私は頭を振った。
気になる女の子であることは間違いない、ここは警察の塚内君に協力を仰ごう。
――――――――オールマイトsideここまで――――――――