――――――――トガヒミコside――――――――
「明らかに種類の違う個性を操るぞ、トガ。おいおい、一体どうなってんだ……っていうか、君たち攻防速すぎない?」
驚きを滲ませながら実況者が叫ぶ。
この能力は『変身』の応用だ。
複数の変身を同時に重ねる多重変身、名付けてキメラ。『硬化』は切島君から、『爆破』は爆豪君から、『蒼炎』は燈矢君から、そして『糸』はイトちゃんからの借り物だ。全てが持ち主には及ばないながらも、上手く組み合わせればきっと本気のイトちゃんとも戦える。
私のとっておき……だったんだけど、イトちゃんには初見で奇襲を躱されてしまったのである。
「驚いたわ。随分器用なことするじゃない」
「…………多重変身キメラと言います。でも簡単に防いでおいて、何言ってんるです」
冗談めかした口調のイトちゃんに、私は肩を竦めて苦笑を返す。
そして私の片腕が青い炎を纏ったのを見て、彼女は目を細めた。
イトちゃんは、火炎には布の盾で応じてくる。
なぜならその遮断力に自信があるからだ。だからこそ、そこに付け入る隙ができる。
炎から障壁で体を隠すということは、即ちこちらへの視線が途切れるわけだ。火炎を放つふりをして、『ゼログラビティ―』で障壁を空へ飛ばしてやればいい。そうすれば、その虚を突ける。
――――――――トガヒミコsideここまで――――――――
吹き上げる青炎で虚空に軌跡を描きながら、地を這うように疾駆するトガちゃん。
それを私は睨みながら、思考を巡らせる。
火炎相手なら、硬糸で織った布で直撃を防げばいい。だからそれを、私の想定していないやり方で突破してくる…………そういう算段がおそらく彼女にはあるんだろう。
全く、いつもながら一筋縄ではいかない幼馴染である。
私は答えを弾き出す。
だったらこっちも、トガちゃんよろしく新技を投入しよう!
USJ襲撃事件以来、私にも考えていたことがあったのだ。
布の盾をフィールドに突き立て、その裏で自分の両腕に軟糸を高速で纏わせていく。
今までは皮下の筋繊維を糸で補強するだけだったが、よくよく考えたら外付けの筋肉を増やせば攻撃力上がるんじゃね、という単純極まりない発想だった。
思い返せば、原作ではマスキュラ―だって筋骨隆々の巨躯にひたすら筋肉を後から追加していたようなもんだしね。
そう、これは一部分だけのマッスルフォームなのだ。
いつもの私がトゥルーフォーム、そして軟糸の外付けで筋肉を増強した状態がマッスルフォームと言うわけだ。
俊典さんにあやかっていて、ちょっと気が利いているでしょ。
不可視の幻糸がトガちゃんの接近を察知し、私は糸でかたどった巨腕を構える。
すると突然、布の盾がふわりと浮き上がったのである。
……なるほど、お茶子ちゃんの無重力化か。
浮き上がった障壁の下を、潜り抜けながら飛び込んで来たトガちゃん。
彼女に向かって私は巨大な拳を振り抜いた。
だが彼女は体を捻りながらそれを躱してしまう。
そして、そのまま私の腕に触れたのである。私の重さを消して腕を引きながら、トガちゃんは巴投げの要領で私の体を高々と蹴り飛ばしたのだった。
――――――――トガヒミコside――――――――
イトちゃんの異様な腕に目を奪われるも、私はそれを回避する。
勢いよく突き出された剛腕を捌き、そのまま私は旋転しながら投げ技へと移行した。
そして、イトちゃんを『蛙』の脚力で蹴り上げたのである。
よし、このまま場外まで飛んで行っちゃえ!
勢いよく放り上げられる幼馴染の体を、微笑とともに私は見送った。
だがその直後、私は突然宙へ投げ出されたのだった。
体勢を崩しながら回転する体に、私は慌ててしまう。
「トガ、相手を蹴り飛ばしたぁああ!! これは決まるか? いや、蹴られた側の八木も上手いぞぉぉおお!! ただではやられるつもりがない!」
見れば、いつの間にか体中に糸が巻き付いている。
さっきの投げ技のタイミングで絡んだものだろう。全く、油断も隙も無い。
つまりは対戦相手を蹴り飛ばした梅雨ちゃんのパワーが、私ごと吹き飛ばしているというわけだ。
……このままでは私も場外に出てしまうのである。
私は燈矢君の姿を借りて、炎を纏うことで絡んでいた糸を燃やす。
そして束縛から解放された私は、すとんと大地に降り立ち安堵の息を吐いた。
あとは場外へと飛んでいくイトちゃんを見送ればお終いだ。
だが、解放されたのはイトちゃんとて同じだったのである。
変身を解いたことで『ゼログラビティ―』の影響を逃れたイトちゃん。彼女はいつの間にか私の横に肉薄し、巨大な腕を振り上げていたのである。
目を瞠って凍り付いた私。
だからこそ不覚にも回避が遅れてしまったのだった。
「デトロイトスマッシュ!」
―――ぐぅぅッ⁉
咄嗟に硬化して防御するも、凄まじく重たい衝撃が硬化を突き抜けて体に響く。
「デカいパンチがモロに入ったぁあ!!」
苦悶の呻きを漏らしながら、吹き飛ばされた私。
大地に体を幾度か跳ねさせ、転がることで勢いを殺して、私は跳ね起きた。
……超……強い。
幹のように太い腕を具現化したイトちゃんを、私は睨んだ。
だが、審判のミッドナイト先生がさっと手を上げて、〝トガさん、場外〟と試合終了を告げる。足元を見れば、剛腕の怪力によって私をフィールド外へと押し出されていたのである。
「これは決まったぁぁぁあああ!! 勝者は八木イト、二回戦進出だぁぁあ!!」
――――――――トガヒミコsideここまで――――――――