――――――――夜嵐イナサside――――――――
眦を決して視線を向けてくる緑谷さんを、俺も睨み返す。
対峙して構えをとる彼は、超強化の個性で俺や轟さんに肩を並べる程の強者である。そう、俺の初戦の相手は緑谷さんだった。
とにかく速くて力強い、その単純な強さこそが全て。まさにオールマイトさながらの戦い方と俺の目には映った。
「緑谷さんの個性、オールマイトに似てるッスね」
「え、そ、そうかな⁉」
急に狼狽したように目をパチクリさせる緑谷さん。
「やっぱり、オールマイトのファンだからッスか?」
途端に、〝勿論! 僕の技はオールマイトの真似なんだよ!〟と、緑谷さんは眼を輝かせる。そしてオールマイトの推しシーンを怒涛の如く語り始めた彼を見て、なるほどと腑に落ちる。
大好きなヒーローを理想に据え、その鮮烈な姿を思いながら模倣する。これは幼い時分のヒーローごっこからずっと続けてきた、俺の変わらない生き方だった。
どうやら眼前の相手こそは、オールマイトを夢見て努力を重ねて来たのである。俺と同じ熱を持った、熱い相手に違い無かった。
手強いライバル……それと同時に、出会えたことが嬉しい仲間だった。
「自分は絶対的にエンデヴァーのファンッス。だからエンデヴァーの技をずっと練習してきたッス」
「そうなんだね」
今度はこちらの熱量に緑谷さんが苦笑する番だった。
俺の尊敬するエンデヴァーは最高のヒーローだ。
カッコイイだけじゃなくて、ファン対応だってめちゃくちゃ優しい。さっきも轟さんに連れられて挨拶に行ったら、なんと幼少の俺にサインをくれたことをエンデヴァーは覚えていてくれた。そして〝あの時の少年が成長したな〟とあの人は微笑んだ。
憧れた相手に昔より近づけたことを見てもらいたい、と俺の心が熱く燃え盛る。
風で空高く飛んでしまえば、試合はきっと俺が有利になる。だって相手の手の届かない空から、ひたすら攻撃すればいいだけなんだから。でもそんなのは熱いライバルへの戦い方じゃない。
勝ち負けじゃない、納得できる自分をエンデヴァーに見てもらいたかった。
だからこそ俺は緑谷さんに提案したんだ。
「全開の一撃で勝負しないッスか」
意表を突かれたように、緑谷さんは目を丸くする。
でも、すぐに〝……うん、全力でいくよ〟と不敵に笑いながら頷いた。
彼の体躯を走り抜ける幾筋もの緑電は、超強化の証だ。
きっと……とんでもない一撃が放たれるに違いない。
それを迎え撃つは俺の最強の風。
轟と唸りを上げる旋風、その尋常ならざる風量が片腕に収束していく。俺の手が纏うは極限まで圧縮された空気塊。高気密の空気は可視光を歪め、俺の手は閃光を帯びているように見えた。
「おいおい、こいつらヤベェのをぶっ放そうとしてねぇか?」
慄いたような実況の声に、〝客席は謎のヒーロー技術で安全ですので、慌てないでください〟と相澤先生も注意喚起をしている。
周囲から恐々とした眼差しが俺らに向けられていることが分かる。
そんな中でも、ここで雌雄を決するのは俺と緑谷さんだけだ。だからこそ今ここには二人しかいない。
ふいに交差した互いの視線が合図となった。
「行くッスゥ、青嵐風拳ッ!!」
雄叫びを上げながら、その超高圧縮の気圧の束を開放する。
旋風の縛りから解き放たれて、さながら怪獣が響かせた咆哮のように疾風が迸る。
これこそが風を拳に集めて相手に叩きつける奥義、エンデヴァーの真似事で培った技だ。
つむじを巻く大気の直中に、緑電が閃いた。
緑谷さんが踏み出した脚が、轟音を立てて試合場の床を割り砕く。
「セントルイススマッシュッ!! エアフォースッ!!」
そして、彼が大きく体を捻りながら放った一蹴。その圧力がフィールドの表面を剝がして巻き上げる。
互いの乾坤の一擲が衝突し、その炸裂が会場を飲み込んだ。
激しく揺れるドームに、客席から恐懼の悲鳴が上がる。それを上書きするようにマイク先生の大声が轟いた。
「ひょえー、パワーとパワーのぶつかり合いだぁ!!! でも客席は安全なので、心配無用だぜぇぇ!!」
衝突した彼我の力は拮抗しているように見えた。
互角か……いやいや、マジっすか⁉
だが、それは最初だけだった。
俺が叩きつけた暴風を割り開く様に、緑谷さんの蹴圧が瞬く間に迫って来るのである。
――――――――夜嵐イナサsideここまで――――――――
――――――――切島鋭児郎side――――――――
……やっぱとんでもねぇな。
観客席で勝敗を見届けていた俺の、背筋に冷汗が伝う。
巻き上がる土煙が薄れていくと、夜嵐がフィールド外の壁に叩きつけられている姿が浮かび上がったのだ。驚愕した顔の彼の視線の先には、何事も無かったように試合場に佇立する緑谷がいた。
対照的な両者、二人を隔てるのはフィールドの境界、即ち勝敗だった。
そして〝夜嵐君、場外!〟と試合終了が告げられる。
その審判のミッドナイト先生さえも二人の衝突の余波で、競技場のポールに引っかかりながら叫んでいたのであった。
一回戦、俺は尾白相手に勝っていた。
そして俺の次の相手がここで決まったのだ、緑谷に。
――――――――切島鋭児郎sideここまで――――――――
――――――――夜嵐イナサside――――――――
呆然としていた俺に、対戦相手が歩み寄って来る。
「すごかった! それ赫灼熱拳を元にしたんでしょ、本当にエンデヴァーみたいだったよ!」
笑いながら手を差し出した緑谷さん。〝本物はもっともっとすげぇんス〟と俺も笑って彼の手を掴んだのだった。
――――――――夜嵐イナサsideここまで――――――――