――――――――緑谷出久 side――――――――
ワン・フォー・オール、フルカウル 10%!!
試合開始と同時に、僕の総身を緑雷の閃きが飾る。
これが僕のワン・フォー・オール発動の合図だ。
そして強化された脚力で地を蹴った僕は瞬時に間合いを詰め、その勢いを乗せて回し蹴りを叩き込もうとする。
やっぱり、躱そうとしないか。
対峙した切島君は避けない選択をしたようだ。
そう、僕の二回戦の相手はクラスメイトの切島君だった。夜嵐君に勝った僕、そして尾白君を制した切島君がぶつかることになったのだ。
待ち構えていた対戦相手に、シュートスタイルのキックが轟音を響かせて炸裂する。
大威力の打撃によりびりびりと震える空気、それをマイク先生が裂いて吼えた。
「重たい攻撃がもろに入ったぞぉぉ!! 切島、大丈夫かぁぁ!?」
だが、驚愕したのは蹴りを放った僕の方だった。
お、重い!? あまりの重さに僕は瞠目してしまう。
まるで根が張ったように、びくともせず佇立する切島君。そこで初めて彼は、その相貌を不敵な笑みに染めた。
不動を貫いていた彼の手がさっと閃き、僕はそれを避けようと後ろに跳んだのである。
「へ、避けられちまったか」
気づけば、大地に赤い雫が滴り落ちている。
「ッ⁉」
慌てて頬を撫でた手が鮮血に染まり、僕は歯噛みした。
切島君の戦術はシンプルだ、僕の攻撃を硬化の防御力で受けながらカウンターを狙う。そしてそれは非常に有効なのだ。現状では僕のパワーではダメージになっていない、あるいはなっていたとしても少しだ。でも彼の攻撃は掠っただけで、僕は頬を切り裂かれたのである。
シンプルだからこそ打ち破り難い戦法だった。
破格の防御力を誇る切島君はまさにクラスでは最強の盾なのである。そして僕は打撃力においては最強のパワーを持っているのだ、まだ全然扱いきれてないけど。
言うなれば、これは…………
「おいおい、燃えるねぇ。矛と盾の対決じゃねぇぇか! 攻撃力の緑谷と防御力の切島、どっちが先に折れるか、倒れるか!?」
――――――――緑谷出久 sideここまで――――――――
――――――――切島鋭児郎 side――――――――
「ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ!! 緑谷、怒涛の連続パンチだぁぁ!! それでも切島は立ち続けているぅぅ!!」
叩き込まれる連撃に、俺は顔の前に腕を交差させ歯を食いしばりながら受け続ける。
流石は緑谷、一発一発がくっそ重てぇ…………正直、マジで効くぜ。
体より先に崩れそうになるのは心だ。だから俺はこんなんへっちゃらだぜ、と弱気になりかけてる自分に言い聞かせるように鼓舞をする。
ここで膝をついたら漢じゃねぇ!
だってあの日から、俺は守って退かねぇと誓ったんだからな。自分が心に決めた道を曲げるのだけは許せねぇ。
去来したのは、中坊の時の記憶だ。
俺がまだ意志も弱く、個性だって全然ダメダメな時だ。
そこで俺は、クラスメイトが大男に襲われそうになっていたところに出くわしたんだ。その時の俺は、怯える級友を守って立とうとすることが出来ない腑抜けだった。
そして後から、同じ中坊だった緑谷が友達を助けにヴィランに立ち向かったと知ったんだ。
緑谷、お前はすげぇヤツだよ。
そして、間違いなくお前は今の俺よりも強ぇ。
だからこそ、俺はお前相手に気持ちで、漢気では負けたくねぇ。
絶対に退かねぇんだ、俺の後ろにはあの時からずっと守るべき相手がいるんだ! だから死ぬ気で立ちはだかるんだよ!
――――――――切島鋭児郎 sideここまで――――――――
――――――――緑谷出久 side――――――――
飛び退りながら、僕は皮膚を浅く裂かれた腕を抑える。
また切島君の攻撃が掠ったのだ。
明らかにこちらが攻撃しているはずなのに、傷を負っていくのは僕ばかり。既に全身切り傷だらけなのである。
蹴りの衝撃を和らげるためのサポートアイテムは、切島君のあまりの頑健さゆえに壊れてしまった。そして僕の拳も既にボロボロだ。
……このままじゃ、マズイな。
切島君の防御力を突破するためには、ダメージの蓄積だけでは不十分なのだ。つまりは、もっと高威力の攻撃を繰り出すしかないのである。
でも、ワン・フォー・オールの出力10%が今の僕が何とかコントロールできる上限だ。
そんな苦境の中なのに、僕は挑戦的な笑みを浮かべてしまう。
焦燥とともに沸き上がった来たのは、切島への畏敬の念だった。10%とはいえ、オールマイトのパワー、それに彼は屈することなく立ち向かい続けているのである。そればかりか雄叫び上げながら、こちらを制そうと攻撃してくるのである。
その気迫に、僕は心の底から感嘆してしまう。
だからこそ、こちらも全力で応えたいと心が熱くなるのだ。
だったらやるしかない!
僕は上限を振り切った力を発動させたのだ。
体表から緑の閃光を迸らせながら、疾駆する。迎え撃つように腕を振りかぶる切島君の懐に飛び込んだ。
ワン・フォー・オール……20%。
「セントルイススマッシュッ!!」
鋼の体躯に僕の蹴りが弾かれて、足の骨にヒビが走った。
ズシンッと競技場が揺れる中で、僕は眦を決する。
まだだ! ワン・フォー・オール……25%。
「テキサススマッシュッ!!!」
硬化した胸板に左の拳を叩き込んだ。そのインパクトに左手の骨が折れる。
そして再び、衝突がフィールドを鳴動させるのだ。
まだだ、もう一発! ワン・フォー・オール……30%。
「デトロイトスマッシュッ!!!!」
彼を殴りつけた僕の右腕の骨が弾けて粉砕する。そのあまりに膨大な力学的エネルギーが。まるで大きな地震のように競技場が激しく揺れ動かした。
マイク先生が〝おいおい、やべぇんじゃねぇの!?〟と慌てたように叫び、相澤先生も〝そこまでだ!〟と実況者席から僕に掣肘を入れる。
僕は膝をついて喘いでしまう。
先生たちに止められなくても、今できる全力を出し切った僕はもう何もできない。
見上げれば、切島君は何事も無かったかのように変わらず屹立している。
す、すごい…………ん?
いや彼とて無事ではない。
切島君は仁王立ちしたまま白目剝いているのだった。
「ちょっと大丈夫? 切島君!?」
駆け寄って来た審判のミッドナイト先生が彼の様子をうかがい、〝……良かった、気絶してるだけね〟と安堵の息を吐いた。
そして審判はこちらに視線を送る。
「緑谷君は動ける?」
「……無理そうです」
僕の返事を聞いて、ミッドナイト先生は頷いてサッと両手を翻した。
「両者、行動不能! というか二人ともボロボロだから担架チーム来て頂戴!」
呆然と会場を見守る中、実況者の声が勝敗を高らかに宣言した。
「矛と盾、そのどちらも壊れたぁぁ!! っつうことで、引き分けだぁあ!!」
――――――――緑谷出久 sideここまで――――――――