――――――――爆豪勝己 side――――――――
激闘の行く末を、控室のモニターで見届けた俺は席を立つ。
フンッ……切島、やるじゃねぇかよ。
はっきり言って、デクは強ぇ。大抵のものを強引に突破できちまうパワーとスピードは、オールマイトを彷彿とさせる身体強化だ。そのデクを相手にして、一歩も引かずに全ての攻撃を受け切ったんだ、アイツは。
俺はぐっと拳を握りながら歩く。
八木たちとの特訓、その休憩時間には切島は俺に事あるごとに話しかけてきた。毎度ぶっきらぼうに応じる俺にもめげずにな。
そしてアイツは自身が目指す漢気溢れるヒーローを語り、何が相手でも倒れねぇ奴こそが一番かっけぇんだと笑うんだ。
正直、漢気云々はピンとこなかった。でもよ、さっきの試合を見て奮い立たねぇ奴なんかいねぇだろ。その戦い方はスマートじゃねぇし、むしろダセェ。でも今も目に焼き付いてやがる、あの鮮烈な姿がな。
切島を乗せた担架が、俺の横を通っていく。
気絶しているアイツに目を向けた。
すれ違いざまに、〝お前、最後まで倒れなかったぜ〟と俺は呟いて、担架からはみ出している切島の手にこつんと自身の拳を当てた。
過ぎ去った担架を背に独り言ちる。
「見てろ、切島。お前の漢気にも俺は負けるつもりはねぇ」
そして、俺は二回戦目へと向かうのである。
――――――――爆豪勝己 sideここまで――――――――
――――――――切島鋭児郎 side――――――――
「あ、目ぇ覚めた?」
朧げな視界に映ったのは、俺を覗き込んでにっと笑う芦戸の姿だった。
周囲を見渡せば、どうやら保健室のような雰囲気。体育祭の時に一時的に建てられる出張救護所のどれかだろうか。
そんなことを思いながら体を起こそうとすると、全身の鈍い痛みに顔を顰めてしまう。
そうだ、緑谷との勝負は…………考えるまでもないか。俺がこうして寝かされていたということは、俺はぶっ倒されたということだ。
ちくしょう、俺はまた自分で決めたことを守れなかったのか。
悔しさに顔を歪める俺に、芦戸が機嫌よさそうに声を掛けてくる。
「切島、すごかったじゃん! 緑谷の超パワーと正面からぶつかって引き分けるなんて!」
「……引き分け?」
俺はぱちぱちと目をしばたかせた。
聞けば、俺を気絶させた攻撃の反動で緑谷も大怪我を負っちまったらしい。俺なんかより、むしろアイツの方が重傷で今リカバリーガールの治療を受けてるんだとか。
「そっか、俺は退かなかったんだな……」
そっと噛み締めるように呟いた。
俺の肩を、芦戸は相好を崩しながら〝そんな辛気臭い顔してないで、胸を張りなよ〟とばんばんと叩く。
「あんたが前に立てば、後ろの人は絶対に安心だね!」
芦戸は優しい、どこまでも他人を気づかうヤツだ。きっと中学時代のあの事件が、俺のヒーローへの動機だけでなく、強烈なトラウマにもなっているからこそ、そんな風に言ってくれるのだろう。
「ありがとな」
不器用に微笑んだ俺に、彼女はムッとしたように表情になった。
「もう、全然分かってない! 切島、あんた最高にカッコよかったって言ってんの!」
「…………は?」
怪訝な視線を向ければ、芦戸はしまったとばかりに口元を押さえる。
そしてジワジワと顔が赤らんでくるのを、俺はまじまじと見つめてしまう。
〝やっぱさっきの無し。もう知らない!〟と慌てたように救護所を飛び出していく芦戸、その背を俺は呆然と見送ったのだった。
――――――――切島鋭児郎 sideここまで――――――――
――――――――トガヒミコ side――――――――
誰もが雄英生たちの戦いや露店の活気に吸い寄せられる中、校舎の影になったひっそりとした場所に私は体育座りして小さくなっていた。
熱気を遠巻きにできる場所で、悔し涙は流されるのだ。
今日、私はイトちゃんと本気で勝負をした。
幼い日から一緒に特訓し、互いの手の内も何でも知っていると思っていた。だから、本気の勝負でも負けないと思ったのだ。
せっかく応援に来てくれた燈矢君に、良いところを見せたい。カッコいい私を見てもらいたいと思っていた。それに、今回は何としても頑張りたいだけの理由があった。
燈矢君は私の彼氏だ。
いつもは休日にお茶したり、時々轟家にお邪魔してご飯を食べたり、その行き帰りの道で手を繋いだり。子どもの時から知り合いの二人にはそれは自然で、中学生の私はそれだけでも十分だった……でも、今はもう少し先に進みたいと思ったんだ。もう子どもじゃないんだから。
だから、イトちゃんと勝負して勝てたら、チュウして欲しいってお願いするつもりだった。
でも結果は、私はイトちゃんにあっさりと負けちゃったのだ。もうこんなの、勝ってお願いする以前の問題なのである。
燈矢君に〝ちゃんと見ててくださいね、試合が終わったらお話があります〟なんて啖呵を切るんじゃなかった。
あまりにも自分がダメダメで、私はつい逃げ出してしまったのである。
あっさりと負けちゃったのはカッコ悪い、でも一層カッコ悪いのはこんな場所で膝を抱えながら涙している自分の存在だった。やっぱり私はまだ子どもなのかも知れない。
ふいに濃い影が差した。
見上げれば、燈矢君が〝ヒミコちゃん、探したよ〟と微笑んでいる。
ポロポロと涙を零している私と、彼の眼が合った。その気まずさが私に、体育座りした膝の間に顔をうずめさせる。
隣に腰を下ろした燈矢君、彼の手が優しく私の頭を撫でた。
「ヒミコちゃん、頑張ったね。カッコよかったよ」
私は単純かも知れない。たったそれだけで、好きという気持ちが体から飽和して溢れ出す。
座ったままもたれるかかると、燈矢君は〝これはもっとっていうことかな〟と小さく笑いながら、頭を撫で続けてくれる。
私は袖で涙を拭って、顔をそろそろと上げた。
そこで私を待ち受けていたのは、おでこへの不意打ちのキスだった。
目を丸くした私から、途端に恥ずかしそうに視線を逸らす燈矢君。もしかしたら私同様に、彼もきっかけを探していたのかも知れない。
――――――――トガヒミコ sideここまで――――――――