――――――――飯田天哉 side――――――――
人数調整のためにシード枠となった俺。
二回戦から参加のはずだったが、その相手は緑谷君と切島君の勝った方。激闘の末に二人とも継戦不能となってしまったため、またまた俺は戦わずして不戦勝となったのである。
今まで皆の戦いを見守っていただけだったが、やっと出番が回ってきたわけだ。
その相手は爆豪君だった。
一回戦で麗日君を破り、二回戦で常闇君を制した爆豪君。彼からすると三戦目ということになる。
試合会場で向かい合った俺と爆豪君。
片や毅然と立ち、片や腰だめに構えて邪悪な形相を浮かべている。
「君は口は悪いが、その実力は本物だ。俺も本気で立ち向かう、正々堂々と戦おう!」
真正面からを見据える俺を、彼はジロリと睨む。
「はッ、言葉はいらねぇだろ」
「それもそうだな」
そう言って俺は薄く笑う。
彼は誰にでも喧嘩を売っていくが、それは裏を返せば誰よりもひた向きということだ。
最初こそは態度から彼を見誤っていたが、共に過ごしていく中で分かったことだ。だからこそ口上ではなく、試合の中で語れと彼は言っているのだ。
「さあ、ベスト4が出揃ったぞ! 炎と氷で他を圧倒する轟、変幻自在な糸を操る八木、えげつない爆破攻撃で相手を沈めてきた爆豪、そして運良くで戦わずして勝ち上がってしまった飯田! 準決勝で初めてその実力が明らかになるか、飯田天哉VS爆豪勝己!!」
実況席から声を響かせるマイク先生、その俺の紹介はあんまりであった。だが戦わずここまで来てしまったのは事実。
せっかく応援に来てくれた兄さんも見ているのだ、ここは力を出し切りたい。
試合開始と同時に、俺はエンジンを吹かして飛び込んだ。
踏み込むと同時に体を捻り、運動量の乗せて放たれた回し蹴り。
それを爆豪君は屈んであっさりと躱す。
……だが、それは俺も予想できたことだ。
俺はそのまま体を空中で旋転させ、裂帛の気合とともに上段から蹴りが相手を襲う。
それを爆発の反動で回避しようとした爆轟君。
俺はモーションの途中からエンジンを瞬間的に吹かし、蹴りのスピードが急変する。速度が跳ね上がった脚が、ギリギリのところで首を捻った彼を掠める。
「チッ!」
舌打ちと共に、彼の眼がジロリと俺を捉えた。
そしてお返しとばかりに、彼の手がかざされる。
その手から湧き上がる爆炎をスピードで振り切った俺、それに彼は〝くそがッ〟と悪態を吐いた。
あのスピードを避けられるとは……
今の一当てでも分かる、爆豪君はセンスの塊だ。
それに身体能力や個性にも隙がない。
俺は先の騎馬戦を思い起こしていた。緑谷君と二人で走る爆速の騎馬に、追い付いてきたのが爆豪君なのである。まさか追い付かれるとは思わなかった。
だったら俺はより速いスピードで翻弄するだけだ。
スピードは絶対に譲らない、それがターボーヒーローの家系の意地だ。
「トルクオーバー・レシプロバーストッ!」
爆発的なスピードを生み出すが、長い時間は維持できない邪道な技。
段違いの速度で瞬く間に回り込んだ俺に、彼が振り向きざまに瞠目した。
ここまで間合いを詰めてしまったら、もうは回避はできまい。エンジン音を唸らせた俺の蹴りが彼の胴に入る。
「重そうな蹴りがヒットォォォ!」
高らかに告げるマイク先生。
だが、俺は予想外のインパクトの軽さに察してしまった。
刹那の内に爆破を生み、その勢いを俺の蹴りの方向と重ね合わせることで衝撃を軽減しているのである。
上手いな。
感嘆しつつもこのチャンスを俺は手放さない。
体勢を崩した相手へこのまま畳み掛けようとする。
その瞬間……俺の腕で、ぽとんと水滴が跳ねた。
それが妙に俺の気を引いたのだ。
雨粒?……今日は晴天なのに?
いや、待て、この雫は……
爆音とともに俺の体が、小さな爆発にゆすぶられる。
慌てて飛び退った俺が目にしたのは、歯を剥いて凶暴に笑っている対戦相手。
つまりこれは、爆豪君による攻撃だったのである。
――――――――飯田天哉 sideここまで――――――――
――――――――爆豪勝己 side――――――――
はッ、そいつは汗滴による時間差の攻撃だ。
予め動線を読んで手の汗を弾いて飛ばしておき、そして起爆させたのである。
こんな冗談みたいなことがあんのかと思うが、実際にできんだからそれ以上の説明のしようがねぇ。八木の縦横無尽に襲い掛かる鞭の相手をしていたら、次第に相手がどう来るかが読めるようになってきたのである。
「何だ、急に爆発したぞォォ!」
怪訝そうな声を上げる実況に、相澤先生が〝爆発する汗の粒を飛ばしているだろう。器用な奴だ〟と感心したように解説している。
踏み込もうとする飯田を、俺の汗滴の爆破が阻んだ。
アイツは正直だから動きが読みやすい。
たとえフェイントを入れて左右に走ったとしても、そこには爆発する滴が必ず飛んでくるのである。
出鼻を挫かれ続ける飯田は、何とか爆破を堪えて肉薄してくる。
だがそのままキックしても、後ろへ跳ぶ俺へのダメージは最小限にならざるをえねぇ。しかも攻撃時はこちらが弾いた汗滴を避けることは出来ねぇんだから、ダメージは蓄積していく一方だ。
ニヤリと笑う俺を、飯田は歯噛みして睨む。
アイツも分かってんだ、このままではマズイってな。
だとしたら、俺を一撃で倒す手段を取らざるを得ないはずだ。
――――ッ来た!
飯田は大きく後ろへ跳び退って、屈んで構えながら速度を乗せて飛び出そうとエンジン音を高らかに響かせ始める。つまりは最高速で、勝負を決めに来たということだ。
そして、こちらの動きを少しでも見逃さないように、注意深く睨んできやがる。
ははッ、それを待ってたぜ!
今までは俺は、飯田と俺の間に汗滴を飛ばしてきた。
それは、ほぼ直線状の軌跡に描く様に弾いていたからだ。
でもな、飛ばし方次第ではこんなことだってできるんだぜ…………飯田の背中に天から降ってきた滴が炸裂した。
「なッ!?」
驚いたように目を剥いた飯田。
アイツが警戒する手前から、上へと飛ばした汗滴が落下しながら爆発したのである。背後からの爆風に背を叩かれ、飯田は前方へとたたらを踏んでしまう。
それは、みすみす俺に無防備な姿を晒すようなものだ。
そこに、俺が素早く飛び込んでいた。
爆風で錐もみしながら体当たりし、両手で飯田の胴を押し上げ爆発を叩き込む。
耳を劈くような轟音を響かせながら、爆炎が巻き起こった。
朦々と立ち込める煙に、誰もが目を凝らす。
煤に巻かれながら吹き飛ばされた飯田は、虚空に弧を描きながらフィールドへと落下し、その勢いのまま転がっていく。
目を細めた審判のミッドナイト先生が、手を上げて吼えた。
「飯田君、場外ッ!」
「隙をついてデカい一撃を叩き込んだ爆豪、勝利ィィィ!! 決勝進出だァァァ!!」
――――――――爆豪勝己 sideここまで――――――――