初戦でトガちゃん、二回戦でヤオモモちゃんを破った私。
回原君、次いで瀬呂君を下した相手が私の前に立ちふさがった。
準決勝の相手は轟君だ。
No.1ヒーローの娘とNo.2ヒーローの息子が対決するというわけだ。
彼の鋭い眼光を、私は不敵な笑みで受け止める。
「障害物競争の時も言ったが、負けねぇぞ」
「私――――」
宣戦布告を返そうとしたところに、観客席からの大音声が割って入った。
「焦凍ぉぉぉぉ!! 応援してるぞぉぉぉ、絶対に勝てぇぇぇ!!」
見れば、立ち上がったエンデヴァーが観客席で咆哮を上げているのである。
呆気に取られている周囲の反応をよそに、轟君の父親は鼻息荒くブンブンと大きく腕を振っている。
――おお、流石は親バカ。スゴイ応援だなぁと感心してしまう私。
だがそれも、冷さんの一睨みが制したのである。
奥さんの冷ややかな眼差しに、エンデヴァーは背を丸めていそいそと席についたのであった。
あまりに形無しの父親の姿に、轟君は恥ずかしそうに顔を逸らしている。
「……八木、すまねぇ。あれでも父さんは、本当はカッコイイヒーローなんだ」
「ふふ。でも、家族の仲が悪くなくて良かったわ」
「ん? ウチの家族が中悪くなることなんかねぇだろ」
分からないとばかりに首を傾げる彼に、私も〝そうね〟と微笑んだ。
―――――――轟焦凍 side――――――――
八木、お前はすげぇ。
入学早々の戦闘訓練で大敗を喫し、人知れず目標と見定めた相手。
糸を操る卓越した技術に、その糸の変幻自在さ。今回は人形を取り上げられているため戦力が大きく減じている……とはいえ、トガ戦で新たに見せたマッスルモードなる攻撃力強化があるのだ。
やはり、強い……俺は、どこまでお前に近づけただろうか。
ギリッと歯を噛み締めて、拳を握り込む。でも、そんなお前が相手だからこそ、俺は全力で勝ちたいッ!
父さんに鍛えられた炎熱、母さんから受け継いだ氷結。
強力な力をただ徒に振るうだけでなく、上手く操る。きっとそれが強者と戦う時の必要となるだろう。だからお前に負けて以来、俺はずっと試行錯誤してきたんだ。
試合開始と同時に、右の体から生み出される氷塊が軋みを上げた。
初手は、圧倒的大質量の氷結攻撃だ。
「穿天氷壁ッ!!」
「轟、またもや大規模氷結だぁぁぁぁ!! さきの瀬呂戦のように、これで決まったかぁぁぁ!!」
マイク先生が愉快そうに叫んだ。
分かっている、八木には防がれるだろう。
しかもこの規模の氷塊だと、視界を遮られるという弱点だってある。
……でも、今回は関係ないッ!
左の体躯から勢いよく火が吹きあがり、凍えた空気に灼熱の炎をかざす。
これは単純な炎や氷とは訳が違う。
父さんと母さんの力の結晶。氷を炎熱で急速に温めて溶かし、それをさらに水蒸気へ揮発させることで熱膨張させる。炎熱と氷結、高い水準での二つの技術が無いと出来ない技だ。
名付けて……
「膨冷熱波ッ!」
凍っていた水分が高温に晒されて、瞬時に気化して水蒸気へと変わる。
1000倍以上に膨張した体積が、まるで爆風のように周囲へと即座に伝わるのだ。
―――――――轟焦凍 sideここまで――――――――
―――――――セメントス side――――――――
おいおい、これ学生の力じゃないでしょ……
「まじぱねぇぇぇぇ!」
逆立った髪を揺らして昂ぶるプレゼント・マイクの隣で、イレイザー・ヘッドが〝セメントスッ!!〟と焦ったように叫んだ。
大丈夫、分かっているよ。
既に体が動き出しており、地に手をついて個性を発動させようとしていた。
そして観客席を覆うように、厚さ1mは超えようかというコンクリートの壁を即座に作る。
唸りを上げる爆風が、競技場の内外を遮断するコンクリの障壁へと叩きつけられた。
そこに居合わせた観客たちは、まさに破壊の具現と呼べる音を聞いたのだった。コンクリの壁にひびが走り、吼え猛るように大きな軋みが鳴り響く。
そして、聴衆の眼前で砕け散りながら、分厚い壁はその役割を全うしたのであった。
―――――――セメントス sideここまで――――――――
―――――――轟焦凍 side――――――――
俺は自身の背後に新たな氷壁を作り、体が風圧で吹き飛ばされるのを必死に耐える。
だが、その衝突の激しさを俺と同じく予測して動いていた人物がいた。
硬い糸を織った防壁を、力を逃がすように流線型の形に幾重にも重ねているのである。ひしゃげたり割れたりしているが、それでも防壁は膨冷熱波の爆風の一撃を辛うじて受け流せている。
……これでも倒せないか。
そして、欠けた隙間から覗く少女の眼光が鋭く細まった。
その視線は獲物を見定めた猟犬のようだ。
……何か、狙っているな。
でもな、そんな隙は与えない。もう一撃叩き込んでやる!
再び氷結を浴びせかけようとした時、ふいに周囲に気を取られたのだ。
コンクリの瓦礫が舞う中、張り巡らされた無数の糸が光っている。その光跡に導かれる様に、瓦礫が全方位から飛来してきたのであった。
―――――――轟焦凍 sideここまで――――――――