よーいドンと同時の氷結攻撃を、私は予期していた。
だってこれ程使い勝手の良い技は無いんだもの。
私は即座に硬糸で防壁となる布を織って、その直撃を凌いだのだった。
分厚い氷の向こう側に対戦相手を見定めて、薄く笑む。
糸で模した筋繊維を外付けしてパワーを上げるマッスルフォーム、それで氷を打ち砕いて、そのまま仕掛けた本人にぶつけてやろうかしら。
そんなことを考えていたとき、ふいに氷表面に滲んだ水滴の多さが目に留まる。
ふと気づけば、周囲の気温が急上昇しているのだ。
ちょっと……これって……原作で絶大な威力を誇った轟君の膨冷熱波じゃない?
やばッ、風を受け流せる形の防壁にしないと!?
慌てて紡錘形のシェルターの硬糸を織って作り、私はその中に身を隠した。
次いで耳を劈くほどの凄まじい爆風が叩きつけられる。
「これ、ヤバすぎでしょぉぉぉ!?」
私は頭を抱えながら叫んでいた。
吹きすさぶ暴虐の風のあまりの威力に、私は守護が突破されないことをひたすら祈ることしかできない。
その威力たるや、私の硬糸の多重障壁すらひしゃげさせ、そしてセメントス先生が客席を守るために作ったコンクリートの分厚い壁をも崩壊させる。
辛うじて凌いだ私は安堵の息を吐いた。
だがそんな私を迎えたのは、再度大規模な氷結を繰り出そうと構える轟君だ。まさか膨冷熱波を連続でぶつけてこようとしてる?
流石にそれは勘弁しほしい!!
私は崩れているコンクリの瓦礫を糸で操り、それを轟君目掛けて投げ放ったのである。
いつもならあんな重量を動かすことはできない。でも今はマッスルフォームで、私は段違いの膂力を発揮しているのである。
―――――――轟焦凍 side――――――――
「チッ」
舌打ちしながら、咄嗟に自身を守る氷壁の守護を作り出す。
前後左右に展開された氷塊に、鼠色の残骸が衝突して深々と突き立っていく。
技の出掛かりを潰され、俺は防御に回ってしまっていた。
……これを八木はチャンスと捉えるに違いない。
図らずもその時、眼前の氷が粉々に打ち砕かれたのである。
糸で象られた巨腕を振りかざして、飛び込んで来た少女の姿。
トガを吹き飛ばす威力を秘めた拳を掲げた八木は、それで俺を殴りつけようというのだろう。
逆光に浮かぶ小柄な影に、俺は目を細めた。
だが、これはピンチではない。むしろチャンスだった。
なぜなら……俺の誘いにまんまと八木は乗ったのだから。
吹きあがった炎は既に拳に収束し、灼熱の熱気を伴って解放を待っていた。
決め手を振るおうとしていたのは、何も八木だけではない。
防御のためと張った氷壁は、炎熱の拳を溜めていた俺の姿も相手から隠していたのである。
轟と猛りくる炎の奔流を、正面のライバルへと叩きつけんと眦を決す。
「赫灼熱拳ッ!」
炎が奔る、紅蓮が唸る。
――――さあ、どうする?
流石に新たに重厚な防御壁を作り上げるのは間に合うまい。
だとしたら、体に繋いだ糸を引いて不規則な動きで回避か、どの方向にだ?
だが彼女は、俺の予測を鮮やかに裏切った。
糸遣いの少女は身に迫る危険をまるで意に介していないかのようだった。
端正な眉を顰めることなく、そのまま炎へと踏み込んでくる。
ふいに八木の大きな腕が輪郭を崩し、解けるように広がった。
それが刹那の内に炎を遮る障壁となったのである。無論、糸なので燃え始めるが、如何せん高密度なので燃え尽きるまでは時間が掛かる。
その時間の差を利用して、八木は俺の懐にするりと入り込んで来たのである。
そこで初めて俺は相手の意図に察した。
そもそもが巨大な腕で殴りかかろうとするのことすら、フェイントだったのである。
いまさらそれを理解したところ、もう遅い。
八木の脚がヒュンと空気を裂いて唸りを上げた。
それを、俺は腕を交差させて防御する。勢いの割に衝撃が軽いのは、彼女のウェイトの問題だろう。そして立て続けに放たれた少女の細腕の突きも、俺は腕で弾いた。
だが肉薄した部分を起点として、八木は打撃に付属して関節技を仕掛けにきたのである。
腕の関節を破壊されれば、これまでのように個性を操作できなくる。
絡めとられかけた腕を、咄嗟に側転して振りほどいた。
そして、距離を取ろうと跳んで後退しようとした俺。
だが、それが思うようにできず、たたらを踏んでしまう。
見れば、自身の体に糸が絡んでいた。
少女は俺が不得手とする間合いを維持する気なのである。
襲い掛かって来る打撃の連打の最中、時に関節技が牙を剥く。
その猛攻に、俺は反撃の糸口がまるで見出せない。
個性に頼った力技が多い俺は、すぐに防戦一方へと追い詰められていくのであった。
―――――――轟焦凍 sideここまで――――――――
「さっきまでの個性ぶっぱのバトルはどこへやらッ!! ここにきて殴り合いだぁぁぁあ!!」
マイク先生が愉快そうに吼えた。
ふふん、こちとら体術自慢のトガちゃんとずっとやり合って来たのである。
そんな動きで私から逃れようとは百年早いッ!
パンチを防御された私は、地面を強く踏み込みながら肩をぶつけて、相手の姿勢を崩す。
そして間合いが僅かに離れた刹那を狙って、糸を束ねた鞭を振るったのだった。
鞭が轟君の胴体に巻き付き、私は体を捻った回転力で彼を投げ飛ばそうとする。
その時、氷が鞭上を走り抜けた。
轟君の凍結攻撃が私の半身を襲ったのだった。
「やっと掴まえたぞ」
不敵に笑みを投げかけてくる轟君に、私も流し目で応じる。
「こっちもよ」
縛られた鞭ごと凍らせたのでは、彼もその束縛からはすぐには逃げられない。
だから私は、氷結を察知した時点でマッスルフォームの準備を始めていたのである。氷に閉ざされていない側の手を、糸の屈強な筋肉で肥大化させる。
そして、瞠目している対戦相手へ、それを叩きつけたのである。
その衝撃で轟君の体は、虚空に大きな放物線を描いて吹き飛んだ。
「重たいのが入ったぁぁああ!!」
高らかに響く実況の声を浴びながら、私の決勝進出が決まったのである。