―――――――爆豪勝己 side――――――――
いけるッ、体は十分に温まっている。
汗が滲んだ掌に向けていた視線を、対戦相手へと移した。
体操着姿の小柄な少女は、年の割に大人びた雰囲気を纏っている。絹糸のような黒髪はふわりと流れ、肌は白磁のように白く透き通っている。整った造作の冷ややかさはまるで人形のようだ。
だがその薄く笑んだ相貌に、俺は百戦錬磨の不穏さを見定めていた。
八木、お前には今まで勝てたことはねぇ。だがな、今日こそは勝つ!
だから俺も歯を剥いた粗暴な笑みを、少女へと投げ返すのだ。
「さぁ、いよいよラスト!! 雄英一年の頂点がここで決まる!! 決勝戦、八木イトVS爆豪勝己!!! それが今、始まるッ!!」
ミッドナイト先生の試合開始の合図、それをマイク先生の大声がかき消した。
いくぜッ!
俺は先手を取って、瞬時に突き出した両手の指で汗の粒を弾く。
水滴は虚空で幾つにも分かれ、その無数の爆裂の飛礫が八木へと襲い掛かった。
少女の指から伸びる銀糸が光る。
だが、その姿を覆い隠したのは、絶え間のない炸裂音とともに吹きあがった爆煙だった。
まさかこれで勝てるとは思わねぇ。
そよいだ風で煙幕が流され、無傷の八木の姿が露になる。
やっぱりか……小さな爆発では糸に阻まれて届かねぇんだ。
目を怜悧に細めた八木は、そのまま流れるような動作で腕を振るう。
「チッ」
途端に体に絡みついた糸、それに向かって俺は舌打ちしてしまう。
自身に向けた爆風で束縛を吹き飛ばす俺。
だがそこに、体操服の青い残影を残しながら間合いを詰めた糸遣いの少女。彼女が敢然と躍りかかってきたのである。
予想を遥かに超えた速度に、俺は瞠目してしてしまう。
―――――――爆豪勝己 sideここまで――――――――
頭上から放たれる高速でしなる脚線、それ爆豪君はすんでのところで躱してしまう。
これで当たらないなんて、どんなバグキャラだよ!
私は相手の尋常ならざる反射速度に、舌を巻いてしまう。
訓練の時の成長速度といい、身体能力といい、流石は主人公のライバルキャラだ。それだけずば抜けたスペックを彼は誇っている。
そしてお返しとばかりに、彼の手が派手に火花を爆ぜさせた。
私はそれを糸による変則機動で回避――――だがそこに現れたのは、頭上より落下する雫と、前方から飛来する汗滴。重力に引かれた雫の描く放物線が檻のように背後を囲っていると気づき、私は彼の策を知る。
……動きを縫いに来たのかッ!
―――――――爆豪勝己 side――――――――
対する八木の動きは軽捷の極み。
炸裂する爆炎の間で体を躍らせながら、自在に糸で飛び回る。肌すれすれを擦過していった爆炎への恐怖も、彼女の意中にはない。
そして地上から高度を上げいく少女に、俺も追随した。
宙空でかち合った二人の視線が、第二ラウンドの始まりを告げる。
マッスルフォームで肥大した少女の腕、それが鋭い一薙ぎを仕掛けてくる。
そのシンプルな攻撃をするりと躱しながら、俺は掬い上げるように掌を当て、爆破で筋繊維と化した糸を吹き飛ばす。
途端に露になった八木の白い腕。
だが、それが合図だったかのように、細腕が纏っていた糸の残骸が途端にぶわりと広がった。
そして、俺に巻き付いて虚空に縫い留めようとしたのである。
ふんッ、やっぱ誘いだったかッ!
網目を描く銀糸の軌跡を即座に見切り、俺はその隙間に身をねじ込ませるように潜り抜ける。
だが全てを避けることが叶わず、足を取られてしまった。
八木はその好機を過たない。
アイツは虚空で全身を、ぐるんとコマのように捩りながら高速で旋転させる。
つられて、俺の体躯も爆風による機動が乱れて、荒れ狂うかように放り投げられてしまう。
その勢いが殺しきれずに、俺は競技場の床に墜落した。
―――――――爆豪勝己 sideここまで――――――――
爆豪君を競技場の床へと叩きつけた私。
その眼前で置き土産とばかりに、汗滴が爆発した。
肌を焼く爆炎に、私は思わずニヤリと笑ってしまう。
ここまで実力が拮抗しているとは思わなかった。正直に言うと、ちょっと楽しい。
「ははッ、やるじゃない」
双眸に熱狂の色を帯びさせて、私は眼下の対戦相手へと声を上げる。
地上で立ち上がった爆豪君が、私をジロリと仰ぎ見て歯を剥いた。
そこにあるのは、爆炎へと込める無言の闘志のみ。
——二人の視線が再度火花を散らしたのだった。