交わる爆豪君の閃光と私の糸。
汗粒と銀糸の衝突、それが虚空に無数の爆炎を狂い咲かせる。
「速い、速過ぎる攻防!! もう何が何やら、わからねぇがド派手だぜぇぇぇ!!」
昂るマイク先生に、相澤先生が〝互いに二手三手を読んで動き、それをすぐに修正する。その繰り返しになっているな〟と冷静に解説を加える。
そう、まるで無作為に見える雫の煌めきと糸の乱舞。
だがそのことごとくが、私達の意識に統べられているのだ。果たしてそれを、どれだけの者が十全に見極められるだろうか。
互い以外の全てを置き去りにした空中の激闘だった。
―――――――死柄木弔 side――――――――
カウンター席で頬杖付きながら、俺はテレビのくるくるとリモコンを弄ぶ。
たまたま変えたチャンネルに映し出されたのは、生徒同士の戦いだった。
そういえば、雄英体育祭の時期だったな……
ふいに、その画面の中の女生徒に目が留まった。
忘れもしないその姿に、思わず俺は目を見開いてしまう。
銀糸を操り縦横無尽に動く戦い方を間違えることはない。それは以前の雄英への襲撃時、こちらの切り札として連れ出した脳無を一人で足止めした少女なのであった。
アイツ……
だが、カウンターの内側でバーテンダーよろしくグラスを磨いてる黒霧は、もう一人の方に目を付けたようであった。
「おや、あの少年。私に一杯食わせた少年の一人ですね」
その動きを目で追い、〝ふん、確かになかなかやるな〟と息を吐く。
「だが、脳無とやり合ってたのはあの女の方だった」
「……ほう、あの少女が」
パソコンの黒いモニターから、老齢の男のしわがれた声を上がる。
その正体不明の声の主、ドクターこそが脳無を作成した人物なのである。
「なんだ、ドクター。知っているのか?」
「ふむ、知らなんだか。まあ非公開情報じゃからの」
「何?」
そして俺は、ドクターから聞き出した情報に口元を歪めた。
そうか、アイツがオールマイトの娘!
もし、そんな正義の象徴の娘がヴィランにでもなったら……
くくく、こいつは面白くなってきた。
―――――――死柄木弔 sideここまで――――――――
私と爆豪君、その実力は伯仲していた。
素早い機動は、互いにステップの定まったダンスでも宙で踊っているかのようだ。その高速の舞踏に、添えられ続ける爆音の協奏。それが次第に大きくなっていく。
戦いの最中で、爆豪君は凄まじい勢いで調子を上げているのである。
爆炎自体の火力が高まれば、必然的に回避しきれなくなる。
ならば、活路は短期決戦!!
爆破をあえて受ける覚悟を瞳に宿し、私は眦を決した。
先の爆破で小さな雫の軌道が変わり、それが回避していた私の方に飛来する。
破壊に特化した爆発の個性とは裏腹な、あまりにも繊細が過ぎる技の冴え。
対して、着弾面を糸で覆って爆炎を最低限防御する私。
爆発音に顔を顰めながら、私は爆煙に中で体勢を整える。
――――さて、当たってやったわよ。
こちらの変えた手に彼はどう応じるかしら。
張り巡らせた幻糸が相手の動きを感知する。
来たッ……やっぱり特攻ね。
爆豪君は猛スピードで錐もみしながら、回転人間ミサイルさながらに突っ込んで来る。
「食らえッ!! ハウザーインパクトッ!!」
こちらに叩き込もうとする爆破の特大火力、それを迎えるの糸で肥大した私の拳である。
「デトロイトスマッシュッ!!」
煙幕の中で、私はマッスルフォームで左右の腕に糸を纏わせていた。
彼の突進攻撃を片手で相殺し、そしてもう一方の手で殴りつける、そんな腹積もりをしていたのである。
両者の激突に、耳を劈く轟音と激しい爆風を巻き起こった。
爆煙を吸い込んだ私の喉が焼けるが、次の一撃をすぐに振りかぶる。
「必殺技同士が衝突だあぁぁぁぁ…………ん?」
呆然として固まったマイク先生。
眼前の爆豪君も〝あッ!?〟驚愕に目を大きく見開いて凍り付いている。
見れば、私はいつの間にか半裸を晒していたのである。
体操着はぼろ布と化し、辛うじて私の体を覆っている。これまでに爆破ダメージが蓄積し、最後の激突に体操服は耐えきれなかったのだろう。
そして、先ほどまでの勢いはどこへやら、狼狽の色を浮かべる爆豪。
だが、赤面しながらも私から視線を外さない彼は純情ボーイの極みだった。
ふふふ、まさか自分がラッキースケベの餌食になるなんて思わなかった。まるでラブコメの世界線のような出来事である。
だが、そんなラブコメの波動なんて、私は断固してお断りだ!
だって私がなるのは、最強で最凶で最恐のヴィラン。物語としては、悪者が活躍するピカレスクなのだ。
滾る怒りを拳に乗せて、私は隙を晒している対戦相手を殴りつけたのだった。
「ラブコメデストロイスマッシュッ!!」
鼻血を吹きながらぶっ飛んだ爆豪君に目を細め、ミッドナイト先生が〝爆豪君、場外!〟と試合終了を告げる。
「今年度雄英体育祭一年、優勝は――――A組八木イト!!!」
× × ×
新しい体操服に着替えて、表彰台に立った私。
私は当初の予定通り優勝を勝ち取ったのである。あとはここでヴィランを目指すと宣言してやるだけだった。
ふふ、誰もが目を剥いて慌てふためくに違いにない。まさにヴィランに相応しい所業である。
オールマイト姿で、〝優勝おめでとう〟とメダルを掛けてくれる俊典さん。
「頑張ったね、イト少女」
嬉しそうににっこりと笑う彼に、私も微笑みを返した。
よし、今だッ!! 高らかに歌い上げてやるッ!!
だが、ヴィラン宣言をしようと口を開いた私は、声が思うように出ないことに気づく。
ゴホゴホと咳き込んだ私を、〝大丈夫かい?〟と俊典さんが労わってくれる。
先の戦いで爆煙を目一杯吸い込み、私は喉を傷めてしまっていたのである。
かくして、ただ仏頂面をさらして押し黙る私。
それが後日、実力だけでなく未来のヒーローに相応しい凛々しさと称えられたのである…………どうしてこうなった?