目を開けると、見知った天井が視界に収まっていたのだ。
結局あの後、私は警察によって孤児院に運ばれたようである。どうやら私もトガちゃんも、トップヒーローに出会って興奮しすぎて倒れたことになっているらしい。
〝大人びて見えるイトちゃんにも、そういうところがあるのねぇ〟と愉快そうに保育士さんは笑う。
内心憮然としながらも、私はその時の戦いを思い返していた。
実際は、オールマイトに相手にもされなかったわけだが……よくよく考えてみれば、今回の件は輝かしい勲章なのかも知れない。だって私の最強で最凶で最恐のヴィラン人生の初戦が、VSオールマイトなんだよ!
これは将来、伝記に書けるくらいのイベントだ。
きっと作劇の展開上、どんどん力をつけた私が最終的には仲間とともに打倒に至る、という物語の流れに違いない! 友情、努力、勝利……うん、スゴくいい!
立派なヴィランになった大人の私が、平和の象徴たるトップヒーローを打ち破る妄想。
だが自由奔放に膨らませていた私の空想を破って、保育士さんから声が掛かった。
「イトちゃん、お客さんよ。八木さんって方」
「はい、今行きます」
ああ、もう……今いいところだったのに。
虚空に描いていたオールマイトと私の最終決戦、私はそれを中断して応接部屋に向かう。
乙女の妄想を邪魔する奴なんて、オールマイトにでもしばかれるがいい!
「やあ、八木俊典です。君がイト少女だね」
「――ッ!?」
孤児院の応接室で、にっこりと優し気な笑みを浮かべて私を迎えた男性。
私は彼を見て立ち竦んでしまった。
その見覚えのある痩躯はオールマイトのトゥルーフォーム。そうか、八木って……オールマイトの本名だ。
……一体、オールマイトが私に何の用だというんだろう。
昨日の件を責めにでも来たのかな。しかも私はさっきまでオールマイトを倒す想像を繰り広げ、なんならそれを邪魔した本人にオールマイトをけしかけようとしていたのである。
気まずげに視線を泳がせながら、私は彼の対面に陣取った。
「突然すまないね、ちょっと聞きたいことがあって」
「オールマイトが何の用ですか?」
「……やっぱり、私がオールマイトって分かっているんだね」
私の一言に表情を険しくした八木。あちゃあ……これは機密性の高い情報なんだった。私は口を滑らせた自身の迂闊さに歯噛みをする。
「昨日、君が私に挑んできた時に、私は聞いたよ。君は間違いなくオール・フォー・ワンと言っていた。だから私は君が、私とオール・フォー・ワンの確執を知っているのだと思った……君はオール・フォー・ワンに何かされているんじゃないかい?」
私に向けられる彼の不安げな眼差しで、ピンと来てしまった。
きっとこの人は私を心配している。
そしてオール・フォー・ワンに関わり、自身の手から零れ落ちてしまった人たち全員に心を痛めている。だからこそ、これからも救いの手が届かない人たち、その存在に彼は怯えているんだ。がむしゃらに救う、それでも助けられなかったら、と……
ひょっとしたら、これがオールマイト自身の弱さなのかも知れない。
ここで私が正直に話そうが嘘を吐こうが、何も解決しない。結局、彼は失望と悲嘆とが待ち構える先に、ただヒーローとして実直に走り続けるしかないのである。
――何よ、これじゃあオールマイトだって被害者みたいなもんじゃない。
私は頭を掻きながら大きく息を吐き出し、そして立ち上がった。
驚いたように見上げる八木に、私は不敵な笑みを投げかける。
「私はね、最強で最凶で最恐のヴィランを目指しているの」
急な告白に〝は? えっと……〟と目を白黒させる八木、私は彼にさらに告げたのだ。
「だから安心して、オールマイト。オール・フォー・ワンは私が倒す!!」