「今日のヒーロー情報学の授業は…………ヒーローネームの考案よ!」
「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!」」」
ミッドナイト先生が告げたビッグイベントに、皆が雄叫びを迸らせる。
それに先生は微笑みを返しながらも、〝この時の名前が世に認知されて、そのままプロでも使い続ける人も多いの。だから、適当なものをつけるんじゃないわよ〟と注意を加える。
ヒーローネームとは、ヒーローとして活動する際のコードネーム。
まさにヒーローとして、名は体を表す大事なものというわけだ。現時点で名前を定めるということは、将来の自身の姿を新たな名に託すということである。もちろん変更は出来るとはいえ、それだけの重要なイベントなのだ。
人によっては、この時が目指すヒーローの誕生の瞬間となるのだろう。だからこそ、胸を躍らせるほどのイベント足り得るのだ。
ちなみにここで決めるヒーローネームは、これから始まる職場体験で実際に私たちが使うものになる。
人々に認知され、その名を呼ばれてなんぼということだろう。
だから今回の名前決めでは、それぞれが前でヒーロー名を書いた紙を見せての発表形式となった。
すぐさま青山君が颯爽と進み出て、優雅に頭髪を掻き揚げながら紙を黒板に貼った。
「I can not stop twinklingキラキラが止められないよ☆」
「「「文章ッ⁉」」」
皆が唖然とする中、ミッドナイト先生が〝ちょっと長いわね。それならIを削ってCan’tにする方が呼びやすくなるわ〟と的確なツッコミを入れる。
梅雨ちゃんが『フロッピー』、お茶子ちゃんが『ウラビティ』、ヤオモモちゃんが『クリエイティ』と可愛い感じの名前で即GOサインが出される中、芦戸ちゃんの『エイリアンクイーン』や爆豪君の『爆殺王』は敵役すぎる名前にリテイクが突き付けられる。
切島君の『烈怒頼雄斗《レッドライオット》』のように、既存のヒーローの名前にあやかってつけるパターンもある。飯田君が出した『リトル・インゲニウム』に、ミッドナイト先生はインゲニウムが現役で活躍していることを指摘した。
「わかっています。兄と一緒にダブル・インゲニウムを目指したいんです」
「ならオッケーね」
飯田君が強い意志と共に胸を張ると、先生も納得して頷いた。
原作ではお兄さんがステインにやられ、インゲニウムの名を兄から継ぐという重みに耐えかねていた飯田君。だが今回は、お兄さんは体育祭を応援に来ていてステインで邂逅していない。だからインゲニウム襲名を覚悟させる事件はなく、一緒にヒーロー活動が出来るという希望に満ちた表情なのだろう。
対して、シンプルにそのまんまの名前でいく派もいる。
轟君は『ショート』だったし、トガちゃんは『トガヒミコ』だ。
彼女曰く、〝トガヒミコって響きはかぁいいので、これで!〟とあっさり決まってしまった。
そして私の方は絶賛苦戦中なのである。
私としては、ヴィランとしていかにも強く凶悪そうな名前にしたいのだ。だが、意外と常識的な枠内に収まる名前しか思いつかないのである。
私が頭を抱える中、爆豪君が『爆殺王』と宣言するも、一瞬で先生に却下されている。
席に戻る爆豪君に、〝それ、すごく強そうね〟と私は感心を漏らした。
「だろ。次は爆殺卿でいく」
凶悪そうに歯を剥いて応じるの彼、そのネーミングセンスは天才的。どっからどう見ても痛々しいが、いかにも悪役でしかも超強そうなのである。
まさに私が目指すヴィランにぴったりだった。
私も人形から着想を得て『傀儡無情《かいらいむじょう》』と出す。
漢字四文字の並びとか、私のこれまでの経験上絶対強いに決まっている。だがミッドナイト先生を前に、〝字面がネガティブ過ぎる!〟とあえなく却下されてしまう。
……でもいいのだ。
このまま押していけば、いつかは先生もいずれ諦めて納得してくれる。
「ふん、お前のネーミングも悪くねぇな」
鼻を鳴らして不敵な笑みを浮かべる爆豪君に、私も〝でしょ〟と笑い返す。
席に戻って、再び筆を手に取った私。
だが、それを阻もうとする者達が現れたのである。
「いけませんわ、八木さん。もっとあなたに似合う可憐な名前の方がいいですわ」
「まったくです。もっとかぁいいヤツにして下さい」
後ろから眉を顰めたヤオモモちゃん、横からは目を三角形にしたトガちゃんである。
だがなんのその、私は私のヴィラン道をひた走るだけ。
ふふん……よし、これは我ながら強そうだ! その名も『傀儡太后《くぐつたいごう》』!
その渾身の作が横から攫われて、大きな溜息と共にトガちゃんの手でクシャクシャにされてしまう。
「却下です」
そして、憮然とした顔の私を前に、ヤオモモちゃんとトガちゃんが私のヒーロー名について意見を交わし始めるのである。
…………これはヒーローコスの時とまるっきり同じ流れである。
そんな私を後目に、『爆・殺・神』とあくまで我を通そうとする爆豪君。
流石のミッドナイト先生も諦めて、〝あなたがどうしてもそれにしたいなら、もう何も言わないわ〟と肩を竦めている。
結局私のヒーロー名は、友人二人により『アリアドネー』と決まったのだった。
アリアドネーはギリシャ神話に登場する娘で、彼女の糸を辿ることでテセウスが無事迷宮から出られたという逸話が残っている。
私の糸から連想したのだろうが、普通に洒落た良い名前だ。
でも正直なところ、もっと残忍極まる凶悪な名が欲しかったのである。
仏頂面を晒す私に、『爆・殺・神』こと爆豪君が勝ち誇ったような顔を向けた。
……く、すごく負けた気がする。