―――――――緑谷出久side―――――――
アクロバットな動きから滑らかに着地を決める。
そして駆け寄った僕に、トゥルーフォームのオールマイトが笑みを零した。
「うん、だいぶ安定してきたね。今の緑谷少年ならもう少し出力を上げても大丈夫そうだ」
「よしッ!」
その言葉に、僕は歓喜を噛み締めながらぐっと拳を握る。
オールマイトとの運動場での補習という名の特訓。
定期的に行われているこの訓練で、僕のフルカウルは練度を着実に上げている。もうすぐワン・フォー・オール20%も視野に入って来るだろう。
「そう言えば、緑谷少年。職場体験の行き先は決めたかい? 君にも多くの指名が来ていたはずだけど……」
そう問いかけてくるオールマイトに、僕は〝はい、もう決めてます!〟と力強く頷いた。
幸いなことに、体育祭での活躍を目にしてくれたプロヒーロー達は多く、僕のところには指名がそれなりに多く舞い込んでいる。
指名とは言っても、三年生での事務所所属へのドラフト指名とは異なり、僕ら一年生のは将来性に対する興味に近い。
その指名をもらえたヒーロー事務所へ、今度の職場体験ではお邪魔することになるのだ。
「へぇ、どこにしたんだい」
「ナイトアイ事務所ですッ! かつてオールマイトとコンビを組んでサイドキックを務めていた人なんですよね?」
勢い込む僕に対して、オールマイトは表情をこわばらせる。
「きっとサー・ナイトアイなら、オールマイトと比べた時に僕に足らないものが何かを、指摘してくれると思うんですけど」
「…………うん、緑谷少年の考えは間違ってないよ。ただ、私がちょっと気まずいだけでね」
〝あんなに仲が良かったのに、喧嘩別れになってしまったんだ……〟、そう前置きしてオールマイトが語ってくれたのは、未来を予知することで引退を強く勧めたサー・ナイトアイ、その願いをオールマイトが撥ねつけた過去だった。
『予知』、その個性でサー・ナイトアイは目を背けたくなる未来を見たのだろう。サー・ナイトアイは彼のことが大切だったから、もう十分だと引退を勧めたのだ。
そして誰よりもヒーローたらんとしたオールマイトは、その予言を飲み込んだうえで退くことを拒否したのである。
きっと遠くない未来で、サー・ナイトアイの予知は現実になるのかも知れない。
そんなのは僕だって嫌だ。
オールマイトを止められるとしたら彼と同等の者だけだ。だからこそ、僕は少しでも早くオールマイトの代わりになれるように、と決意を新たにしたのであった。
―――――――緑谷出久sideここまで―――――――
「ここがサー・ナイトアイの事務所ね」
私がビルのエントランスを指さすと、隣で緑谷君が緊張したように〝う、うん〟と頷いた。
数ある指名の中から、職場体験先をナイトアイ事務所に選んだ私。どうやらクラスでは緑谷君も同じ行き先だったようで、一緒に挨拶に来たのである。
すでにフルカウルを習得している彼からは、グラントリノの元での職場体験もとい修行という原作イベントがすっ飛ばされたのだろう。
原作からの変更点といえば、他にもある。
飯田君はステインを探さずにお兄さんの元へ行っており、トガちゃんは轟君と一緒にエンデヴァー事務所が受け入れ先だ。だから、飯田君と緑谷君、轟君がステインとエンカウントして戦うということにはならないはずである。
カクカクとぎこちなく歩くクラスメイトに、私はやれやれと息を吐く。
「ねぇ、肩に力が入り過ぎじゃない?」
「だって、サー・ナイトアイといえば、かつてのオールマイトのサイドキック。自分にも他人にも厳しくてストイックなヒーローで有名なんだよ。映像で見たあの鋭い眼差しもちょっと怖いし、緊張しちゃうよ……」
確かにサー・ナイトアイは原作でも変人・奇人の類だ。
報告にユーモアが足らないとサイドキックをくすぐりの刑に処し、インターンを希望した緑谷君に雇うメリットが無いと堂々と言い放つ程。そして重度オールマイトのオタクでもある。
とはいえ、私達には向こうからの指名があるので、断られるはずがない。
そう踏んで、私たちは扉を潜った。
「「職場体験に来ました、よろしくお願いしますッ!」」
私たちを迎えたのはオールマイトのグッズが整然と並んだ空間、その奥で細身の男性がパソコンから顔を上げ、その怜悧な眼がジロリと私たちを見据えた。
スーツで身を包んだ彼こそがこのヒーロー事務所の主、サー・ナイトアイだった。
そしてサー・ナイトアイは、眼鏡のレンズ越しに目を細めて言い放つ。
「……八木と緑谷だな、職場体験の件は承知している。だが元気とユーモアが足りない、一人ずつやり直し」
そうして、私たちは〝準備ができたら入ってくるように〟と扉の外に追い立てられてしまったのである。
〝えっと……〟とドアの前で困惑している緑谷君に、私は肩を竦めてみせる。
「一芸あるいはそれ以外で彼を納得させる何かを見せろ、ってことよね」
「一発芸かぁ」
緑谷君は困惑したように頭を掻きながら呟いた。
だが早くも彼の脳内は高速で回転しはじめ、お得意のひとり言が彼の口から漏れ出てくるのだ。
「……でも部屋の中のオールマイトグッズは周年記念の非売品もあった……ということはディープなオールマイトオタクなんだ……うん、オールマイトのサイドキックをやっていたし、それは間違いない……」
ブツブツと囁くクラスメイトを横目に、私は〝じゃあ、お先に〟扉に手を掛ける。
「えぇ!? 大丈夫なの!?」
「考えがあるわ」
そして、ニヤリと微笑みを残して私は扉を潜ったのである。