―――――――バブルガールside―――――――
「そろそろだよね? 職場体験で来る子たち、どんな子かな?」
ウキウキと声を弾ませた私に、サイドキックルームにいた二人が顔を上げた。
「緑谷と八木と言ったな」
落ち着いた調子で言ったセンチピーダ―は同僚のサイドキックだ。それに、頼れるインターン生のミリオ君が〝ですね〟と頷く。
応接室兼サーの仕事部屋では、現在顔合わせが行われていることだろう。
きっとあのサーのことだ、笑顔とユーモアが足りないと無茶ぶりをしているに違いない。
そんなことを考えていたら、ガチャリとサイドキックルームの扉が音を立てる。
「八木イトです、今日からよろしくお願いします!」
そして開かれた扉から姿を見せたのは、柔らかそうな長髪を揺らした可愛らしい女の子だった。童話の中から出て来たような少女は人形を引き連れており、まるでお人形さんがお人形を伴っていると錯覚してしまう。
「良かった。サーとの面接は大丈夫だったんだね」
笑みを浮かべたミリオ君の声が、ぽかんと少女に見惚れていた私を引き戻した。〝はい〟とふわりと笑う彼女は、どうやらサーのテストを無事突破したようである。
私たちも自己紹介すると、彼女は私を先輩と呼んで微笑んだ。
先輩……先輩! そうだ、私も先輩なのである!
その事実に気づくと、途端に歓喜が沸き上がった。
「やった! 私も先輩風を吹かせられる!」
諸手を上げて喜ぶ私に、〝おいおい〟とセンチピーダ—が肩を竦めて息を吐く。
「僕だってバブルガールの後輩ですよ」
「ダメダメ! ミリオ君は頼りになり過ぎて、可愛らしい後輩感が全然ないんだもん!」
自身を指さしながら、ツッコんで来るミリオ君。それを私は頬を膨らましながら睨む。そんな私たちのやり取りを見て、八木さんはくすくすと笑った。
良かった……これで緊張も解れるかな?
そうして、新人に学校の事とかを聞いて雑談に花を咲かせていた私達。
だが、もう一人の緑谷君がいつまで経っても現れないのである。
「ちょっと様子を見てくるよ」
気を揉んだ私は、サーの執務室へと行くことを買って出る。
果たしてそこで、私はくすぐりマシーンに餌食になっているくせっ毛の少年を発見したのであった。
目じりに涙を浮かべながら笑い声を漏らしてる彼に、私は慌てて走り寄る。
「ちょっとちょっと、どうしたんです?」
そんな私に、サーは不機嫌そうに眉根を寄せた。
「彼は私に向かって、あろうことかオールマイトのものまねで勝負を挑んだのだ」
「……あちゃあ」
どうやらサーの地雷を踏み込んだらしい。よりによってこの重度のオールマイトオタクに、オールマイトネタで挑むとは、あまりにも怖いもの知らずが過ぎる。
サーはメガネに指を当て、〝ふむ、それ自体は悪くなかったのだ〟と薄く笑う。
……およ?
意外にも好評で戸惑う私に、サーはなおも淡々と続ける。
「緑谷の顔真似は、確かに米国でのビネガースーサイド事件時のオールマイトの表情をよく再現している。だが、その身から溢れる活力という点では話にならない。そもそも声量が如何にも自信なさげだ……つまり、元気が足らなかったのだ!」
苦しそうに身を捩る被害者を捉えている装置、それを私は憎々し気に見つめてしまう。
私だって何度このマシーンの餌食になったか分からない。元気が足らないと判断される度に、無理やりくすぐられて笑わされるのである。
その度に私は誓ってきたのだ……もうくすぐりなんかで笑わされてなるものか、と。
その甲斐もあってか、最近はとんとこの装置の標的にはならなくなってきたのである。
だがここで突然、サーから無慈悲な宣告が突きつけられる。
「緑谷、君は大声で笑うのが下手だな……ふむ、バブルガール、手本を見せてやるといい」
「……へ⁉」
反論を口にする間もなく、くすぐりマシーンは緑谷君を開放し、代わりに私を掴まえたのである。
そして猫じゃらしの軟らかい刺激が、首筋や脇の下、足裏を撫で、全く身構えていない私に襲いかかってきたのである。
身もだえしながら、私は引き攣る声で吼えたてる。
「ちょ、ちょっと!……あひゃひゃひゃ!……ま、待って、ひひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
「うむ、お腹から声が出ていてよろしい。上出来だ」
にこやかに笑む上司を、私はキッと睨みつける。とはいっても、大笑いしながらなので全く様にならない。
くっそぉ。
もうこんなくすぐりマシーンで笑わされてたまるか、と思っていたのに……あひゃひゃひゃひゃひゃ!
かくして、サーの執務室にはしばらく私の笑い声がこだましたのである。
―――――――バブルガールsideここまで―――――――
「……なんか絶叫、いや笑い声? みたいなのが聞こえますね」
「ああ、またバブルガールが何かやらかしたのだろう」
首を傾げる私に、センチピーダ―が〝懲りないヤツだ〟と息を吐いた。
そっか、あのくすぐりマシーンって本当にあるのね。