バブルガールと並んで街中を歩く私。
お昼を過ぎているためか、商店街を行き交う人々はどこかのんびりとしている。
〝町の様子に気を配るのもヒーローの役目。パトロールだってちゃんとした仕事だよ〟と、微笑んだ彼女は私を連れ出したのだ。
緑谷君の方は、この間にルミリオンこと通形先輩と別ルートを警邏している。
現在のナイトアイ事務所は、指定ヴィラン団体の一つを監視しているようだ。
指定ヴィラン団体とは、昔ながらのヤクザ組織のことである。名前自体は名言しなかったが、死穢八斎會のことだろう。
パトロールとは言っても、私達みたいな職場体験できた学生を危険にさらすわけにはいかず、重要な仕事なんて任せることができるはずがない。だから巡回ルートでも、死穢八斎會の拠点には全く近づかないように設定されている。後進を育てると言えば聞こえは良いが、私達用の仕事をわざわざ忙しい中で作ってもらっているのは心苦しいところだ。
二人で歩く私たちに、気のいい声が精肉屋のカウンター越しに投げかけらる。
「あらあら、今日は可愛い子連れてるじゃない」
おばさんの笑顔に、バブルガールも〝そうなんです。職場体験でウチに来てくれた子なんです〟とにっこりと笑みを返した。
「町の平和を守ってくれるヒーローたちに、サービスよ! パトロール頑張ってね!」
そう言って、おばさんは私たちに熱々のメンチカツを紙の袋に入れて手渡してくれる。
お礼を言って受け取り、私たちは歩きながらふぅふぅと冷ます。
そして、かぶりついた。
さっくりとした衣に歯を立てると、柔らかい中身から脂が口の中に溢れ出す。
それはほのかな醤油の風味が引き立てる、合いびき肉と玉ねぎの旨味の奔流だった。
「お、美味しい!!」
目を丸くする私に、〝ね、美味しいでしょ〟とバブルガールももぐもぐしながら微笑んだ。
〝ここら辺のお店は、全部把握してるからね。ちょうど揚げたての時間を狙ったのよ〟と彼女は得意げに胸を張る。
まるでメンチカツをたかりに行ったかのようであるが、住民と気軽に会ったり世間話したりできる関係が大事なのだろう。ちょっと困ったことがあると相談してくれるから、町の異変を素早く見つけるきっかけになるのだ。
× × ×
職場体験で来た学生の見回りで、事件なんてそうそう起きない。
そんなわけで私たちは、メンチカツの食べ歩きをしただけでナイトアイ事務所に帰還したのである。
だが、私はそこで信じられないものを見てしまう。
話しかけている通形先輩の明るい笑みと、少女の表情は対照的だった。
目を伏せて、来客用のソファーにちょこんと座っている白髪の幼い女の子。うな垂れる彼女の額から小さく屹立する角を見間違えるハズはない。
――――エリちゃん!?
原作の死穢八斎會編におけるキーパーソン。
彼女の個性『巻き戻し』が研究される過程で、その個性の有用性に気づいた治崎はエリちゃんの肉体を個性消失薬の原料にする、という悪魔の方法を思いついたのである。
だけど原作のインターンとは時期が異なり、今は職場体験だ…………まだこの時点では薬は完成していないはずである。
「迷子の子を見つけたから保護したんだ」
緑谷君が小声で私たちに耳打ちすると、〝迷子の子って……〟とバブルガールが眉根を寄せた。
簡素な服に包まれた包帯がだらけ手足は、明らかにただの迷子のものではない。
原作でも死穢八斎會の施設から脱走してきた彼女。おそらく今回は、それを都合よく治崎がいないタイミングでパトロール中だった二人が保護したのであろう。
ただの迷子ではないと判断したらからこそ、二人はエリちゃんを連れ帰ってきたのだ。
だが判断を下せるボスことナイトアイは、今は不在。
だからその間、通形先輩が何とか元気づけようとエリちゃんに話しかけているのだろう。
その努力も虚しく、少女の張り詰めた表情には全く笑みがきざさない。
なら思い悩める少女にちょっかいを掛けるのは、ヴィランを目指す私の仕事だろう。
私は息を吐きつつ、糸を手繰る。
私が操るドールが歩み寄って、エリちゃんの膝をポンポンと叩く。
そして人形を素早く隠すと、エリちゃんは顔を上げて不思議そうに周囲を見回すのだ。
そこで通形先輩の頭の上からひょっこりと人形が少しだけ顔を出すと、エリちゃんが〝あッ、お人形さん!〟と声を上げた。
次いで肩口からも別のドールがまたちょびっと顔を覗かせる。〝あ、こっちも〟〝あっちにもいる〟と少女のキラキラとした目で次々に見つかるドール達は、エリちゃんに指を向けられたら、見つけられたぁ~降参!というジェスチャーを取るのだ。
まあ、ようするに、子供向けのかくれんぼである。
そして人形の数が足らなくなった私は、申し訳ないがナイトアイのオールマイトフィギュアを借りることにした。関節部が稼働するアクションフィギュアなので、私が操ればちゃんと動くのである。
そして頭だけを隠して体全体が見えているィギュアに、エリちゃんが小さく噴き出した。
「ぜんぜん隠れられてないよ」
その小花が咲いたような笑みに、通形先輩が〝……笑ってくれた〟と安心したように微笑んだのだった。
× × ×
完全に余談だが、
帰って来たナイトアイに、勝手にコレクションを弄ってしまったことを詫びた私。
だが彼はエリちゃん以上にキラキラした目で、私の肩に手を置いた。
「八木、オールマイトのこの動きをフィギュアにさせたいんだが、出来るか?」
そっちかい、と私は内心で大きなツッコミを入れてしまったのであった。