「……お前は本物か、偽物か? ヒーロー足り得るのか?」
路地の向こうから、幽鬼の如く歩み寄るステイン。彼は狂気を孕んだ血色の瞳で私を見定める。
ヒーロー殺しのステイン、連続ヒーロー襲撃犯として知られる男。
ステインは自己犠牲を問わないオールマイトだけが本物のヒーローであると心酔し、その他のヒーローたちを偽物と断罪して回っているのだった。
原作では飯田君のお兄さんを再起不能にし、お兄さんの仇を討とうと飯田君は復讐心を燃やしたのだった。そして、飯田君や合流した緑谷君、轟君の三人を相手に個性『凝血』と体術のみで渡り合った実力者。
ステインが持つヒーロー観は歪んでおり、その独善的な行動は過激の一言に尽きる。だが、そのヒーロー観が腐敗しているという問題定義に関しては、正しい面があったからこそ、世に信念のある犯罪者として影響を与えたのだった。
同じオールマイトの信者でも、こうも異なる。
ナイトアイや緑谷君がオールマイトを敬愛しているとすれば、ステインはまさに狂信者だ。
〝お前には、生かす価値があるのか?〟、そう問掛けてステインは刀に舌を這わせる。
そんな彼に、私は不遜な笑みを投げかけた。
「あら、こちとらヒーローなんかじゃないわ」
「なに?」
「逆に聞くけど、あなたの信念は本物? それとも偽物? その信念は本当に世界を変えるに足るものなの?」
ステインは足を止めて、〝……何だと〟と相貌を歪ませる。
「だってあんたのやり方は、全然お話にならないんだもの。ヒーローは本物だけで良い、だから偽物のヒーローを減らす。端的に言えば、それがあんたのやってることでしょ? でもね、それってあんたが忌み嫌う偽物を増やす行為なのよ」
「どういうことだ?」
「はぁ、やっぱり賢くないみたいだから教えてあげるわ。あんたみたいな無法者が好き放題すると、人々は不安になるのよ。そしてそれはよりヒーローを増やそうって力学が働くの。結果として、あんたが望まないようなヒーローたちがどんどん増えるのよ」
「……ふん。だったら、それだけ狩れば済む話だろう」
「はぁ。だから、あんたは二流なのよ」
鼻を鳴らして眦を吊り上げるステインに、私はやれやれと挑発的に肩を竦める。
〝所詮、口先だけに過ぎんな〟と私の挑発を鼻で笑って、ステインは白刃を閃かせながら踏み込んで来た。
―――――――ステインside―――――――
こちらを恐れるでもなく、腕組みして構える少女。
胆力はあるようだ、それに小娘が言っていることは確かに理にかなっていた。
俺のやっていることなど、大局的には全く意味は無いのだろう。だが、俺は偽善者を狩る以外のやり方を知らないし、俺が出来ることはそれだけだ。
……だから、続けるのみ!
「所詮、口先だけに過ぎんな」
言葉に力など無いのだ。
若い頃には街頭で英雄回帰を説いたが、それに振り向いてくれる人間などいなかった。はたして、偽善者を狩っていくことこそが、自身の犠牲の果てに成し遂げるしかない正義であると悟ったのである。
俺が振り上げた刀が宙空で固定される。
見れば、白銀の糸がいつの間にか腕と刀に巻き付き、その動きを封じていたのだ。
ふん、糸の個性の時間稼ぎに付き合わされたというわけか。どうやら小娘は相当頭が回るらしい。
そんな俺を、小娘は小ばかにしたように笑う。
「あんたのやってることはね、英雄的行動ではなくただの弱い者いじめの犯罪。あなたはオールマイトから、最も遠いところにいるのよ」
――――な、何だとッ!?
オールマイトという俺の琴線に、敢えて無造作に触れるように小娘は愚弄する。
確かに俺は、自身と誰にも理解されないオールマイトの無私の英雄性をどこか重ねていた。だからこそオールマイトから遠いという批判に、怒りが沸騰する。
サバイバルナイフを抜いて拘束を切断、そして瞬時に間合いを詰めながらナイフを投擲した。
だが、その鋭利の刃は空を切る。
少女はまるでこちらの動きを分かっていたかのように、体を捌いて躱したのだ。
するとその陰から潜んでいた人形が現れ、俺を迎えるかのように飛来する。
バチバチと紫電を走らせる人形を素早く一刀両断した。
おそらく高圧電流でもこちらにお見舞いしようとしたのであろう。全くやること、為すこと、全てが小賢しい娘である。
片手で大上段から薙いだ刀は、またも娘に体捌きで躱される。
もう一方の手で引き抜いたナイフを振るうも、瞬時に張られた銀糸に食い込み、少女の矮躯には届かない。
こちらの手が尽きただろうとニヤリと笑う小娘、それに俺も不敵な笑みで応じる。
自身の痩躯を旋転させながら、足に仕込んだ刃を叩きつける。
だが、それが貫いたのはまたもや人形だった。
人形に守られた小娘が、背後へと飛び退る。
それと同時に、その人形が爆発を起こしたのだった。
爆風に吹き飛ばされた俺は、地を這うように姿勢を低く着地して視線を走らせる。
……チッ、目くらましか。
立ち込めた爆煙が周囲を覆っていた。
煙の僅かな挙動から気配を探り、俺は上方を逆袈裟に切り上げた。
その先に黒煙の帳を裂いて、娘が姿を現す。
「デトロイトスマッシュ!」
「なッ!?」
糸を腕へと束ね、大きな拳を作った娘。
その銀糸の拳と俺の刀がかち合った。
刀をへし折り、轟音とともに路面に大きなヒビを走らせて娘の拳が突き立つ。
拳圧が巻き起こした風が吹きつけた。
即座に予備の刃を抜こうとした俺の動きを、娘の囁きが制した。
「数年待ってなさい。お手本を見せてあげるから」
……何を……言っているんだ。
刃物を手にたじろぎながら、俺は娘の顔をまじまじと見てしまう。
〝大丈夫よ、だって私がやるんだから〟と娘はニッと花が咲いたように笑ったのだった。
―――――――ステインsideここまで―――――――