―――――――ステインside―――――――
娘の笑みに半ば呆然と見入っていた俺。
だがそこに闖入者が現れ、俺は即座に飛び退って距離をとった。
見れば、学生のような少年と少女が駆けつけてきたのだった。
「大丈夫か、八木ッ!?」
「イトちゃんッ!?」
二人は俺を認めた途端、表情を険しくする。
片や少年は氷を纏いながら冷気を迸らせ、片や少女は俺が投げたサバイバルナイフを拾って糸遣いの娘を庇うように立った
どうやら新手は、この娘の知り合いらしい。
「……ふんッ」
俺は鼻を鳴らして、やつらに背を向ける。
そして勢いよく建物壁面を駆けあがり、その場を離れたのだった。
ビルの屋上を跳び渡りながら、考えてしまう。
常の俺なら、三人相手に戦うところだ……なぜ退いた?
釈然としない感情に首を捻りながらも、俺は小娘の笑みを思い起こしていた。
こちらを安心させるような笑い方だった。
まるでオールマイトのような……いや、そんなはずは無い。オールマイトは唯一無二の存在だ。
だが一つ気づいたことがあった。
娘は、俺をただの排除すべきヴィランとして相対していなかった。
まさかとは思うが……ひょっとして俺に手を差し伸べようとしていたのではないか。まるで誰も彼も救わないと気が済まない無私の英雄のように。
そう思えばこそ、挑発めいた助言にも意味があるように感じるのだった、
そんなあり得ない可能性すら見出してしまい、俺は〝ふッ、まさかな〟と失笑を漏らしたのだった。
―――――――ステインsideここまで―――――――
―――――――緑谷出久side―――――――
エリちゃんを抱えて、僕は後ろ髪を引かれながら走っていた。
殺気を漂わせたヴィランを、八木さん一人に任せてしまったからだ。
あれは連続ヒーロー襲撃犯のステインだろう。そんな凶悪犯相手に彼女は一人で大丈夫だろうか。ラインで位置情報の送付を連打しながら、僕はクラスの誰かが駆けつけてくれることを祈らずにはいられない。
八木さんを何とか助けたい、きっとそんな僕と心情は一緒だったのだろう。
背中のエリちゃんが声を掛けてきたのである。
「他のヒーローたちがいれば、イトさんを助けてくれるかな」
「それはもちろん!」
でも、今は事務所襲撃に近隣のヒーローたちは泡を食って駆けつけているに違いない。
手が空いてるとしたらヒーローじゃない人たちだけだ。それが理由で僕は、クラスのラインに頼ったのである。。
「ならデクさん、こっち!」
エリちゃんが僕の肩越しに、手を伸ばして指をさす。
「えっと……」
どういうつもりだろうと目をパチクリさせる僕を、〝こっち!〟と再度エリちゃんは促したのだ。
エリちゃんの強い意志に僕は頷き、指し示された方へと足を動かしたのだった。
果たして、彼女に従って到着した先は大きなお屋敷だった。
門扉に掛かる死穢八斎會の文字に、僕は息を呑む。
ここは、現在ナイトアイ事務所を襲撃している、死穢八斎會の本拠地そのものだったのである。
―――――――緑谷出久sideここまで―――――――
―――――――エリside―――――――
私がいたヒーロー事務所を襲ったのは、死穢八斎會のみんなだ。おじいちゃんがいれば、きっと止めてくれるはずだ。
おじいちゃんが元気になれば解決してくれる。
きっとそれが唯一の正解だ。
だって私を逃がしたクロノさんは、いつも言っていたもん。
「すんません、お嬢。こんな役目を押し付けてしまって。本当ならあっしらが 廻を止められればよかったです。でも、あっしらは 廻についていこうと決めたんです。やっぱりアイツを一人にしたくなかったんでしょうねぇ」
間違っているとは分かりつつ、それに従う。
クロノさんの相反する葛藤が、私を逃がすという矛盾を生んだのである。
クロノさんたちはきっと治崎さんが好きで大切だから、治崎さんだってみんなが大切だから。何とかみんなの組を存続させようとしていたのだ。そのことを、私はクロノさんから聞いていた。
大好きなおじいちゃんが大切にしているものを、治崎さんだって守ろうとしているのだ。きっとどこかでボタンが掛け違ってしまっただけなんだ、だって私には悪い人なんかいないと思えてしまったから。
私の個性が組の役に立つなら良い、と思っていた。
みんなが笑い合っていた居場所があり続けるなら良い、と思っていた。
でも一人に無理を強いるようなやり方を、おじいちゃんは許さなかった。そこで治崎さんと喧嘩になっちゃったんだ。
結果としてだけど、私は自分の個性が『巻き戻し』だと知った。
だから私も、自分ができそうなことをするんだ。
頼れそうな人に頼んで、おじいちゃんの元まで来る。そしておじいちゃんを私の個性で治せば……
―――――――エリsideここまで―――――――