私、ヴィランを目指します!   作:Sano / セイノ

82 / 82
死穢八斎會より6

―――――――エリside―――――――

 

目的地に到着した私は、デクさんの背中からそろそろと降りる。

「エリちゃん、この人は?」

デクさんが屈んでくれながら視線を向けたのは、寝たきりになっている老人だ。その人こそが私がここに向かってきた理由なのである。

 

 

「おじいちゃんは、死穢八斎會の組長なの」

それを聞いて〝えぇ!?〟とデクさんは目を丸くする。

彼の横を通り、私は眦を決しておじいちゃんの枕元に歩み寄る。おじいちゃんは厳めしい顔つきのまま、目蓋を閉じて身じろぎ一つしない。完全に寝たきりになってしまっているのだった。

 

 

そんな状態のおじいちゃんすら、私なら治すことができるかも知れない。

治崎さんの実験で分かったことだ、私の個性は『巻き戻し』。これでおじいちゃんが元気だったころに巻き戻せれば、きっと全部を解決してくれるはず。

 

 

私はそう信じて、ぎゅっと自分の両手を胸の前で握り込んだ。

 

 

そして意を決して掌を開き、おじいちゃんにそっとかざす。

自分の中に渦巻く大きな力を、おじいちゃんの体に注ぎ始めたのだ。

 

 

よし……このまま。

このまま上手く行けば……えッ!?

 

 

途端に堰を切ったように溢れ出す力の奔流に、私は混乱してしまう。

おじいちゃんの真っ白だった髪が、まだらに、そして黒々とした色へと変わり、しわくちゃの肌にも張りと艶が戻ってくる。

 

 

戻し過ぎているッ!?

即座に悟った私は、個性を止めようとした。

 

 

――――と、止められない! 

かざしていた手を離すも、私の中で暴れ回る力がおじいちゃんを掴んで離さないのである。

私が呪われた子と、忌み嫌われた原因。お父さんを消してしまったときの光景が、私の脳裏に蘇ってくる。

治崎さんとの実験であんなに練習したのに、私はまた同じ過ちを繰り返そうとしているのだろうか。

 

 

嫌だ、そんなのは絶対に嫌だ。

自然と溢れ出る涙を、必死に歯を食いしばりながら私は耐える。

――――止まれ、止まれ、止まれ!

 

 

〝エリちゃんッ!?〟と肩を揺すられて私は振り返った。

「どうしようデクさん、個性が止められないよぉ」

 

―――――――エリsideここまで―――――――

 

 

 

―――――――緑谷出久side―――――――

 

エリちゃんの鬼気迫る表情、その額では小さな角が紫電を迸らせている。

――――これは、緊急事態だ!!

少女の個性が暴走していることを察した僕。

すぐさまエリちゃんを抱きかかえて、寝ていた老人から引き離した。

 

 

だが、それでも放たれ続ける力は止まらない。

そしてエリちゃんの個性の矛先が、僕自身にも向いたことが分かった。

疲労感が消えた途端に、体が内側からぐいぐいと引っ張られるような激痛が走る。

「うぐぐぐッ!?」

 

 

「デクさんッ!?」

「……大丈夫だよ」

降ろしたエリちゃんに根性で笑みを返すも、これはマズイと本能が警鐘を鳴らしていた。

 

 

――――どうする? 

全身を苛む激痛の中で、僕は高速で思考を巡らせる。

エリちゃんの個性『巻き戻し』、それが僕と死穢八斎會の組長に向かっているのだ。このままでは、二人ともどこまで巻き戻されるか分からない。

 

 

そんな僕の逡巡の中、ベッドに横たわっていた組長の目がパチリと開いた。

彼は若々しくなった体を起こして、繋がった医療用のチューブを引き抜くと、さっと視線を走らせる。

たったそれだけで、まるで状況が分かったと言わんばかりに鼻を鳴らして一つ頷いた。

 

 

「坊主、歯ぁ食いしばれッ!」

「へ?」

直後、とてつもない衝撃が腹部に叩き込まれたのだった。

錐もみして吹き飛んだ僕は、盛大に屋敷の壁をぶち抜いてしまう。だが、幸いなことに僕の体はエリちゃんの巻き戻しのおかげで、負傷が立ちどころに癒えてゆくのである。

 

 

「な、何をッ!?」

よろよろと起き上がって目をパチクリさせる僕に、組長はニッと笑い掛けた。

「このままだと俺も坊主もどんどん巻き戻されちまうんだろ。なら、その効果を打ち消すしかねぇよな。だからよぉ……楽しい殴り合いの時間だ!!」

「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」

あまりの理不尽さに、僕は絶叫してしまった。

 

 

いや、言っていることは理解できる。

ケガをすればエリちゃんの力は真っ先にそれを巻き戻すのに使われるということだ。

だから、お互いに殴り合って盛大にケガをしようって…………いや、やっぱりおかしいよ。どうしてそうなるのぉぉ!?

 

 

 

×    ×    ×

 

 

 

風を巻いて迫る組長を僕は睨む。

さっきから続く殴り合いで、僕は押されっぱなしだった。

個性の負荷を顧みず、僕はワン・フォー・オール フルカウルを一気に50%近くまで引き上げる。筋肉が裂け、骨にはヒビが入る。だがその焼けるような激痛を、巻き戻しが修復していくのである。

 

 

組長の姿が一瞬にして搔き消えた。

迂闊にも視線を動かした僕の前に、姿を現した組長の拳が躍る。

重い拳の連打をもらいながら、何とか防御しようとする僕。

 

 

「ぐがッ!?」

思わず呻き声が口から漏れる。

防御をすり抜けた剛拳が、僕の体に何発も突き刺さったのだ。

避けようと思っても、避けれるなんてものじゃない。組長の速過ぎるスピードに、個性を引き上げても全く追い付けないのである。

 

 

……っていうかこの人、すごく強い。

まるでプロとアマチュアほどの隔絶した力の差を感じる。

 

 

お返しとばかりに、僕は回し蹴りを狙う。

組長は避けずにそれを受け、〝がはははは〟と機嫌良さそうな声を響かせて吹き飛んだ。

そしてすごい音を立て立派なお屋敷を破壊していくのだ。

巻き起こった土煙を、荒い息を吐きながら僕は見定める。

 

 

「坊主ぅ。お前、強ぇなぁ!」

急に背後から掛けられた陽気な声に、僕は防御すらままならない。

振り返る間もなく組長の拳の連打を浴び、そして踏み込んだ掌底で吹き飛ばされる。

その勢いは壁を突き破り、柱を折り、それでも止まらず砂利が撒かれた地面を転がる程だ。僕もまたお屋敷を盛大に破壊する一因になっているのだった。

 

 

破壊音を聞きつけてだろうか、そこに駆けつけてきた影がある。

「大丈夫か、緑谷!」「緑谷君!」

それは、轟君にトガさん、そして安否を憂えていた八木さんだった。良かった、八木さんはステイン相手にも何とか無事だったようだ。

そして皆は、僕を叩きのめしている相手へと身構えたのである。

 

 

組長は足音高く歩きながら、ニッと顔を綻ばせた。

「おうおう、威勢の良い奴らは大歓迎だぜ!」

 

―――――――緑谷出久sideここまで―――――――

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ラスボスの子に転生したのでNO.1ヒーローを曇らせたいと思う(作者:タメガイ連盟員)(原作:僕のヒーローアカデミア)

なんの因果か、悪の魔王オール・フォー・ワンの子供、死柄木常夜(しがらき・とこよ)として生み出された主人公。▼はたしてお父様からのミッションをクリアし、自由と平和な暮らしを得ることができるのか?▼


総合評価:12781/評価:8.03/連載:50話/更新日時:2026年10月10日(土) 18:00 小説情報

闇なる鴉はかく語りき(作者:とんこつラーメン)(原作:僕のヒーローアカデミア)

あの日、俺が『彼女』と出会ったのは偶然だったのかもしれない。▼けど、出会ったこと自体は決して間違いではなかったと今でも思っている。▼彼女がいなかったら、色んなことが変わっていたかもしれないから。▼これは、そんな闇の中で生きて、闇の中で育ってきた『彼女』と、アングラな俺が出会ったことで始まる物語だ。▼


総合評価:1060/評価:7.71/連載:31話/更新日時:2026年09月16日(水) 21:56 小説情報

地獄の氷叢さん家(作者:M.T.)(原作:僕のヒーローアカデミア)

地獄の轟くん家以上に地獄の氷叢分家の女の子がヒーローを目指すお話。▼燈矢くんや外典くんを見て、氷叢の血が濃くなりすぎた末路が気になって執筆した作品です。▼※注意▼・女主です。▼・お話の都合上、青山くんが出てきません。すまんな。▼・他作品のクロスオーバーをやり出す可能性があります。▼・オリ主の必殺技や一部設定のみ、以下のキャラの要素があります。▼ ・クザン(O…


総合評価:2144/評価:7.88/連載:76話/更新日時:2026年10月08日(木) 20:55 小説情報

善意の剥製(作者:タロットゼロ)(原作:僕のヒーローアカデミア)

「あの子が持ち上げたのは法律じゃない。鉄の塊だ」▼九歳で奇跡を起こし。▼数カ月後に社会に疑われ。▼十四歳で、彼女は「完璧な淑女」として、かつて自分を捨てた世界を否定し始める。▼【警告】この物語に、救世主(ヒーロー)は現れません


総合評価:1432/評価:7.23/連載:33話/更新日時:2026年10月09日(金) 09:26 小説情報

治療狂人のヒーローアカデミア(作者:熊田ラナムカ27)(原作:僕のヒーローアカデミア)

▼ この世界は病んでいる。▼ ▼ あまりに命を粗末にし過ぎている。▼ ▼ 故に特効薬と万能薬が必用だ。▼ ▼ 存在しないなら私がなろう。▼ ▼ この世界全てを癒す存在に。▼ ▼「よって貴方を病源体だと判断します。直ちに治療致しますので、どうかその場を動かずに」▼ ▼「手洗い忘れただけで病源体扱い!?流石に酷くない!?直ぐ洗うから、ちょっとま──うあぁ!?」▼…


総合評価:1475/評価:7.88/連載:18話/更新日時:2026年10月06日(火) 15:57 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>