ステインと戦っていた私、そこに駆けつけてくれたのはトガちゃんと轟君。
流石に三人を相手にするのを厭うたのか、ステインは一瞥を残して去ったのだった。
そこに大きな破壊音が遠くから響いたのである。
とりあえず、そこに急行しようと私たちは頷き合った。
果たして、現場で私たちを迎えたのは、必死の形相の緑谷君と豪胆に笑う長身の男。
その二人が死穢八斎會の本拠地で殴り合いをしている光景だった。そして男は緑谷君を大きく殴り飛ばすと、まるで体をほぐしているかのように肩をぐるりと回した……っていうかあの人、若々しくなってるけど組長じゃない?
原作では寝たきり老人のはずの組長、それが今は壮年の姿となっているのである。
彼は悠然と歩みながら、私たちに視線を投げる。
これ、一体どういう状況なの?
内心首を傾げながらも、私たちは緑谷君に駆け寄った。
「大丈夫か緑谷?」
「緑谷君、平気?」
だけど、彼の返事は予想外のものだった。
瓦礫に手をついて立ち上がりながら、緑谷君は苦しそうに吼える
「こっちへ来ちゃダメだ!」
「「「うッ!?」」」
直後、私達は体に大きな変調を感じたのである。
まるで体全体が強引に押し縮められていくかのような痛み。それに二人が目を白黒させている間、私はその原因を探そうと辺りを見回していた。
そして、小さなか体を抱えてギュッと目を閉じているエリちゃんを発見したのである。
なるほど、これはエリちゃんの個性だろう。
そして私たちは目出度く、それに掛かってしまったのである。
このままでは、皆まとめて巻き戻される憂き目が待っているというわけだ。
――――そうか、だから緑谷君たちはやり合って、効果を相殺しているのか……いや、待ってよ。それって、解決方法として脳筋過ぎない!?
「なんだ、これは?」
「これって一体?」
痛みに顔を顰めながら狼狽する轟君とトガちゃんに、私は〝どんどんダメージを負って、その回復で相殺しないとマズイわ〟と今まさに脳筋どもによって行われている対処法を告げる。
「察しが早ぇじゃねぇの、お嬢ちゃん」
組長は足音高く歩み寄りながら、ニッと顔を綻ばせた。
「だから殴り合っていたのね?」
「おうよ、やることはシンプルだ。それにやるってぇなら、喧嘩は派手にいかねぇとなぁ。威勢の良い奴らは大歓迎だぜ!」
―――――――トガヒミコside―――――――
唐突に始まったおじさんとの戦いの最中、私は動きながら考える。
良く分からないけど、どうやらこの顔を歪めてしまう痛みを和らげるためには、私自身がダメージを受けて相殺するしかないらしい。
個性による治癒効果みたいなものだろうか。リカバリーガールの治癒だって、素早く体を治すのは痛みを伴うのだ。今まさに、自身がそういった系統の個性に掛かっているということだろう。
そう考えれば理解できないこともない。
だが、そんな思考が衝撃で中断させられる。
「ほらほら、遅いぞ!」
「うぐッ!?」
気づけば、和服姿のおじさんにデコピンを食らわされていたのである。
頭の勢いに体が引きずられるように吹き飛んでいく。即座に体を捻りながら受け身の姿勢をとろうとする私を、イトちゃんが伸ばした糸でキャッチしてくれる。
もうこれで何度目だろうか、あのおじさんは恐ろしいくらいに速くて強いのである。
巻き付くイトちゃんの耐久力の高い硬糸を容易く引きちぎり、焦凍君の大岩のような氷を一息に粉砕する。そのままアタッカーの緑谷君相手に殴り合っては叩き伏せ、フォローに入った私ごと焦凍君も吹き飛ばされてしまう。そして一瞬にして、後衛のイトちゃんまで抜かれるのだ。
イトちゃんも糸を腕に纏わせるマッスルフォームでパワーアップするも、おじさんとの打ち合いでは完全にパワー負けしている。
プロとアマチュアほどの差は、おじさんが技術巧者というだけじゃない。
その突出したスピードとパワーは、私達四人を凌駕しているのだ。
これだけの力を持っているのに、この人はヒーローではないのだ。だってここら辺で活動しているヒーローなら私達は知っているはずなのだから。
だとしたら……ヴィラン。
そういうことになるだろう。
「がははははッ、最近の若いのはやるねぇ! 骨があってなかなかよろしいッ!」
腰に手を当てて高らかに大笑するおじさんは、まるで私たち相手に堪えている様子がない。
ヴィラン相手に、ヒーローを目指している私たちが屈するわけにはいかない。
そう思ったのは、どうやら私だけじゃなかったみたいだ。
仲間たちと視線が交差し、あのおじさんに一泡吹かせてやろうと、言葉もなく全員が頷いた。
私は血を固めた錠剤を口に放り込み、燈矢君へと変身する。
「やるぞ、トガ」
「うん」
鷹揚と構えるおじさんに向かって、私たちは叫んだ。
「「膨冷熱波ッ!」」
焦凍の放った氷結を、燈矢君の青い炎が飲み込んだ。
そこで起きるのは、冷やされた空気の急激な熱膨張。体積変化により生じた爆風のような空気塊を叩きつけられたおじさんは、〝おうおう。いいぞッ!〟と愉快そうに態勢を低く構えて堪えている。
範囲を絞ったために、おじさんを吹き飛ばすほどの威力はないが、これでいいのだ。
――――だって足止めは出来たんだから。
そこにタイミングを計ったかのように、宙からイトちゃんと緑谷君が標的に迫る。
緑閃を走らせた緑谷君と、マッスルフォームのイトちゃん、その二人が大きく振りかぶった。
「「デトロイトスマッッッッシュ!!」」
直後、大気を震わせて大きな土煙があがる。
あの二人が全力でパンチをお見舞いしたのだ、それだけの威力だろう。
「……やったか?」
固唾をのんで見守っていた焦凍君の囁きに、私は〝それ、言っちゃダメなやつですよ〟と口をへの字に曲げる。
晴れゆく土煙の中で、ゆらりと人影が立ち上がる。
「がっはははははははッ! いいねぇ、おまえらぁ気に入ったぜ!」
やはりというか、それは嬉々として笑うおじさんだった。
再度、身構えた私たち。
そこに不意に声が響いた。
「何やってるんだ、お前らッ!!」
変身が解け、体を苛んでいた痛みが搔き消える。
これは……個性の解除だ。
聞き馴染みのある声に、振り向いた私が見たものは青筋を浮かべた相澤先生だった。
「こんなところで大暴れして、一体どういうつもりだ! それに猫との時間を返せ」
「ん、猫?」
〝いや、猫のことはいい〟と、相澤先生は咳払いして歩み寄って来るのだった。
―――――――トガヒミコsideここまで―――――――