積みあがったヒーロー活動の報告書類をバリバリと片付けていく私、その眼前でトゥルーフォームのオールマイトはうんうんと唸りながら手を動かしている。
やっぱり予想はしていたけど、オールマイトって……事務作業が苦手なのね。ぐずぐずと所定欄に書き込んでいる彼を、私は半眼で睨みながら口を開いた。
「俊典さん……あなた、書類仕事をしなくていいわ」
「……いや、流石にそうはいかないよ」
苦笑しながらも聞き流そうとする俊典さんに、私は左右を見るように促す。
そこにはいくつもの広げた長机の上で、私の操る人形たちが書類をせっせと作っているのである……しかも明らかに俊典さんより早く。まあ、こちとら事務仕事については百戦錬磨。前世は個人事業主の劇団員、それに人形劇団の事務方すら兼務していたことだってあるのだ。確定申告だって怖くない。
「イト少女に手伝ってもらっているだけでもありがたいよ」
すまなそうに目を細める彼に、私は席を立って蹴りを入れた。
「痛ッ、急に何をするんだい?」
「あなたの手はつまらない書類を埋めるためにあるの? それとも助けを求める人たちに伸ばすためにあるの?」
俊典さんに指を突き付けながら、私は吼える。すると彼は筆を止めて、虚を突かれたように目を見開いた。
「ほら、分かったらさっさと休みなさい」
「そうだね……ありがとう、イト少女」
× × ×
「おはようございます、俊典さん」
翌朝、私は俊典さんにコーヒーを勧めながら、後は提出するだけの書類の束を押し付けた。
「ありがとう」
そう言って彼は微笑んで受け取る。
そして俊典さんは一口啜って、〝……真剣に聞いて欲しいことがあるんだ〟と切り出した。
「……私の個性ワン・フォー・オールはね、聖火のごとく引き継がれて来たものなんだ。個性を引き継ぐ個性、それこそがワン・フォー・オールの本質……」
つらつらと語る俊典さんを、私は怪訝そうに見つめてしまう。
――なんだって、改まってワン・フォー・オールの説明なんか話し出すんだろ?
さながら物語中で、主人公の緑谷出久にワン・フォー・オールを譲渡する場面。……まさかとは思うけど……ひょっとして、私に個性を渡そうとしている?
私は俊典さんを制して、意図をたださずにはいられなかった。
「ちょっと待って! それは私にワン・フォー・オールを継がせたいってことかしら?」
「うん。そうなればいいなって思っているんだ」
力強く私を見据える俊典さんを、私もそれに応えるかのように見返した。
だって答えは決まっている。
「――だが断る!!」
「ええぇぇぇぇぇぇえぇえ!?」
驚愕に口をあんぐりと開ける俊典さん。
この私が最も好きなことの一つは、絶対に断られないと思っているやつにNOと言ってやることさ!……というのは、さておき。私が目指しているのは最強で最凶で最恐のヴィランなのに、そんな正義の結晶みたいな個性なんかいるか!
私の中では、やっぱりワン・フォー・オールには緑谷出久こそが相応しいって思いが強い。
それにそんなに万能の個性はいらないよ。私に足りない所は、きっと友達や仲間が支えてくれるんだから。
「ありがとう、でもごめんなさい。私の個性は一つでいい」
「……そっか、分かったよ」
私の意志に、彼は微笑みながら力を抜いた。
――大丈夫よ。あなたはそれを求めている人を、絶対に見つけられるから。