従姉弟の山姥切たちのままならない関係について   作:りんか5434

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その手を離さないでほしくて⑨

 しばらく思考をぐるぐると巡らせていたが、手に持っていたスマホの重さで長義に課せられた約束を思い出した。それなりの時間、放置していたがパスワードがかかっていないおかげで問題なく触ることができた。いや、だからといってパスワードを解除するだけではなくパスワード自体を外すなんて馬鹿げている。もっと問いただすべきだったな、と長義は人知れずぼやいた。

 開かれているサイトは旅行の予約サイトのようだった。スクロールすると今日泊まるであろうホテルの名前が書かれている。名前の欄をコピーして、マップを開いて検索する。ここから二時間はかかりそうだった。そのうえ、またバスを使うらしい。なんだかここに来てからずっとバスに乗っているような気がする。変化しない雪景色を眺めるのも楽しいのでさして気にならないが。

 

 大方調べ終わってうつらうつらとしていると、丼の乗ったお盆を手にした国広が戻ってきた。覗き込んでみると親子丼のようだ。こいつ、朝も定食を食べていたのにもっと食べるのか。呆れを通り越して尊敬の念を抱いた。じとりとした目で丼を見ていると国広が尋ねてきた。

 

「長義は何を食べるんだ?」

「俺は、あまり食欲がないんだ。何か軽食はないかな?」

「ああ、それならあそこで肉まんとか売っているぞ。それくらいなら長義も食べられるんじゃないか?」

 

 国広が指さした場所には確かに蒸し器が置かれていた。コンビニに肉まんがあることは知っているが、滅多に寄り道をしない長義にとっては気になって仕方がないものだった。コンビニではないが、食べる機会があるのならば是非とも享受したい。

 

「じゃあ、食べてみようかな」

「俺はここで先に食べているから、買ってきたら戻ってくるといい」

 

 お盆を机に置いて座った国広と入れ替わりに、長義は立ち上がって肉まん売り場へ向かう。少し並んだが大した時間はかからずに買うことができた。出来立ての温かさに指が踊るように跳ねている。早く食べたくて、小走りで国広が待っている机へ一直線に進む。到着した時、国広は豪快に、しかし綺麗に親子丼を食べているところだった。

 

「買ってきたよ。出来立てってこんなに熱いものなんだな」

「ああ、冷めないうちに食べた方がいい。きっとあんたの想像するよりも美味しいぞ」

「そこまで言うなら、期待してみようかな。では、いただきます」

 

 小さく礼をして、控えめに口をつける。中から溢れる美味しさに思わず口元を手で押さえた。咀嚼し終わったあと、長義は目を輝かせて国広に話しかける。

 

「偽物くん、これ美味しいな! ……いや、何でもない」

「そうか、良かったな」

 

 ぶっきらぼうに、しかし温かな目線を向けた国広に、はしゃいでしまった恥ずかしさから長義は目を逸らした。目を逸らしたことに追及されないよう、急いで国広に問いかけた。

 

「お前が食べているのはどうなんだ? 美味しいか?」

「もちろん見た目通りの美味しさだ。地元の食材でも使っているのだろうな」

「へぇ、よく分かるものだね」

「いや、想像だ。だが卵が新鮮な気がしたからそうなのかと思ったんだ」

 

 他愛ない会話を続けていくうちに、手にあった肉まんは姿を消していた。もう少し味わっていたかったが、満腹になったので良しとしよう。国広ももうすぐ食べ終わりそうだったので、長義は頬杖をついて国広のことをじっと見つめていた。自分とよく似た目に、鼻筋に、自分と違って滅多に弧を描かない口。整っているのに前髪で隠されていることに、どこか苛立ちを覚える自分がいた。長義の目線に気付いてコートのフードを被った国広が低い声でぼやいてきた。

 

「あまり見つめるな」

「ふふ、暇だったからね」

「鏡でも見ていて暇がつぶせるのか」

「まあ、何もないよりはマシだろう?」

 

 軽口の応酬をしている間でも、どこか長義は心の奥で不思議がる。どうして自分はいつの間にか国広とこんな会話をするようになったのだろうか。

 

 食べ終わった国広が食器を片付けている間、長義は道の駅を出る準備を整えていた。この後はホテルに向かうのだ。ホテルに泊まって、朝になったら自分たちはどこへ行くのか。ふと疑問が浮かぶ。その先のことを長義は国広から聞かされていない。まあ、どうにでもなるかと納得していると国広が戻ってきた。

 

「長義、行くか」

「ああ」

 

 コートを着て、フードコートを出る。昼食の間は降っていなかった雪がこんこんと降りしきっていた。道路に積もっていなかった雪が積もって歩くのが困難になっている。出口からバス停までは何分か歩く必要があるようで、長義はげんなりとした。

 

 一歩ずつしっかりと存在を刻み込むように長義と国広はバス停へ向かって歩みを進める。もうすぐバス停に到着する手前の氷になっていたところで足を滑らせて、長義は咄嗟に受け身を取った。それでも盾となった手足は強く打ち付けられたのでじんじんと痛む。立ち上がろうとしても力が入らない。転倒した際の音を聞いて、国広が焦った様子で振り返る。

 

「っ! 長義! 大丈夫か」

「大丈夫だよ……心配するほどじゃない」

 

 国広から差し伸べられた手を取って、辛うじて立ち上がることができた。

 国広がリュックを下ろしてしゃがみ込んで、長義に背中を見せた。それは長義を背負うと言っているのと同じことだ。そこまでしてもらう必要性を見出せなくて、長義は声を上げた。

 

「いや、そこまででは」

「俺がしたいだけだ」

 

 国広の気迫に押されて、長義は渋々と国広に背負われた。自分よりも大きい背中はぬくもりで溢れていた。リュックを手持ちで持っている国広に罪悪感を覚えて、言葉が喉から枯れたように出てこない。何より、心地よいと感じている自分にめまいがした。

 

 おぶられていると長義たちはバス停に着いた。ベンチに座って頭に積もった雪を払っていると、不安を隠していない国広が長義に問いかけた。

 

「長義、怪我は平気か。絆創膏とかいるか」

「いや、持っているから平気だ」

 

 応急処置をして、長義のポーチに常備されている絆創膏を傷口に貼る。

 

「それと、転んだくらいでそんな顔をしなくていいんだよ」

「……それは分かっている。だが、あんたは……」

「俺が何だ?」

「いや、何でもない」

 

 

 また国広は目線を逸らした。微妙な空気になったところで、長義は止む未来の見えない雪空を見上げていた。十三時頃にも関わらず、曇天だ。そんな空では、長義の心は晴れることはなかった。

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