転生ロワイアル   作:syūgen

31 / 37
第8話-2 離影、そして襲来

 森の中、後退するシャッジを追うレイン。

 後退の最中、シャッジはレインに気づかれないように、いくつか地面に魔法、『ホドクナ』を仕込む。

 数歩、進んだ後、それを発動。と同時、シャッジは息をのむ。

 ちょうど魔法が交差するポイント。四方から迫る土の柱を、レインはすべて完璧に避けきった。

 すげぇなコイツは。この数日で……。

 思わず心の中で称賛を送ったシャッジは、追撃のために今度は距離を詰めようとしていたが、その様子をみて足を止める。

 距離は五メートルほど。当然刃圏外。

 しかし、刀を構え、そして振るうレイン。

 レインの伸ばせる刃は、瞬間的なら五〇センチ程度。当たるわけがない。

 が、シャッジは気がつく。

 そしてジリジリと迫る、魔力の感覚。そして殺気。

 何かが来る。

 直感して背をそらし頭を下げる。

 頭上に何かが通り過ぎた感覚があると、背面にある木に切り込みが入る。

 大木を半分ほど分断する威力だった。避けなければ死んでいた。

 体勢を直そうとしたときには、刀の切っ先がシャッジの喉元に突きつけられていた。

「なんだその技。初めてみたぞ」

「そうだな。俺も初めて使った……もしこれが本番なら、お前の敗因は、初めて見た魔法だったから、だな」

 ハハっと笑い、シャッジは立ち上がり両手を広げる。

「そのとおり。俺の負けだ。おめでとう」

「技を二つしか使わなかったやつに勝って、嬉しいとは思えない」

 そう言って鞘に刀を収めるレイン。

「十分だろ。ちっとは喜べよ」

 シャッジは無精髭を触りながら、周りを見る。「まあ、そういうこった。俺はこれから連行。こりゃ、完全に俺達と離されたと見ていい」

「敵はある程度、国とつながりのあるやつということか」

 レインは脳裏にゼノンの顔を浮かべた。

 ヤツは転生者。

 この世界に来て一年もないはず。

 どうやって政府と手を結んだ。

「まあ、考えてもしゃあないだろ」

 諦めたようにそういうシャッジは、両手の平を見せた。「さあ、最後のゲームだ。どっちだろうな」

「くだらんな、目を閉じるまでもない」

 レインは拳を胸の前あたりに出す。

「こりゃ、どういう意味だ。レイン」

「最後なら、お前はこうすると思った。違うか?」

 にっと歯を見せたシャッジは悔しそうに笑った。

「ムカつくやつだぜ。完璧だ」

 その拳にシャッジも拳を合わせて答えた。「勝ってこい、弟子よ」

「言われなくてもそうする。礼を言う。ありがとう」

 レインは後ろを向くと、ボソリと付けたす。「シャッジ……師匠」

「お? お、お、おお!?」

 耳を疑ったシャッジはレインの前側に回る。「おい、レイン。今なんて言った。もっかい、もっかいいってみろ」

 少し耳を赤くしたレインは、体をこわばらせながら顔を横に向けた。

「黙れ!……俺は何もいってない!」

 

 

 陽の光に少しずつ赤みが入り始めていた。

 街の外。ライロルド軍のシンボル。十字傷の入った盾の絵が施された馬車が一つ。

 運転手が乗るそれの隣に、いつも通り本を読んでいるローベンドが立っている。

「ちゃんと来て頂けて助かります」

 本に目を落としながらも、向かってくる足音を聞いて、そういった。

 その様に、シェナドは右の眉を下げた。

「ちょっとは人の目ぐらい見たらどうかな」

「安心してください。読みながら話すは慣れています」

 やってきたのは連行者三名。それと、それぞれの弟子とイリオ。

「王都はひさしぶりだな。若い女も多いだろ、楽しみだ」

「しみったれたジジイの相手してくれるもの好きがいれば、楽しいだろうね」

 さっさと馬車に乗り込むシャッジに、ベルも続く。

「縛ったりしないのかい?」

 シェナドがそう聞いたが、「いえ、手枷など、あなたには意味の無いものでしょう」とローベンドは首を振る。

「それは助かる」

 シェナドは特に焦る様子なく、ザイロに振り返った。「僕の考えでは、これは敵の策略の可能性がある。僕はどうなるかは知らないが、君の勝利を願っているよ、ザイロ」

「おう。次会うときには、師匠より強くなってるよ」

 ザイロが軽口を叩くと、シェナドはフフッと笑った。

「それはいい……行こうか」

 そう言って、馬車に乗り込むために歩く。

 まあ、彼ならきっと大丈夫だろう……きっと……おそらく……多分。

 もう行くと、心に決めたはずだった。

 だが、ザイロと離れる、そのことを実感すると、なんともいえぬ、青く冷たい感情がチクチクとうなじを刺す。

 馬車に足をかける瞬間、動きを止めたシェナドをみて「なにか?」とローベンドが聞いた。

「なあ……やっぱり、もうちょっとザイロと話してもいいかな」

 ローベンドは本からシェナドへと、一瞬だけ懐疑的な目を向けた。

「どうぞ……ただしーー」

「分かっている。逃げないよ」

 返答を遮ってそう言うと、シェナドは小走りにザイロの元へと向かう。

 予想外の光景に、ザイロ達は驚いていた。

「なあ、ザイロ! 僕もいい歳だ。かっっこつけて、勝利を願ってるとか言っていたがやっぱりダメだ、僕は怖い」

 シェナドは抑えることのできない、感情を溢れさせていた。

 目には涙がたまり、肩が震えている。

 それを、ザイロは黙って見守る。

「君との時間は二週間そこらだ。そんな青年に、こんな感情になるなんてみっともないが、僕は君にデントを重ねている……僕はもう、これ以上、大事な人を失いたくない! 」

 シェナドはその場に座り込んだ。

「もし、僕が王都から帰ってきた時に、君が死んだと聞かされたら、僕はーー」

「らしくないな」

 ザイロが言った。その口調は、いつものシェナドのようだった。「いったいどうした。いつもみたく、理屈っぽくて、うざったくて、人を小馬鹿にしたように話せよ。膝ついて感情的になって、師匠らしくない」

「そんなこと言ったって、心配なんだよ」

「じゃあ逃げるか? それでどーなるんだよ。いつか逃げ場なくなって死ぬのを待つのか。そんなのはごめんだから、誰かにじゃなくて、自分で自分を守れるようになるために、俺は師匠のところに来た。俺は十分に強いってあんたは言ってた。あれは嘘だったのか?」

「いやそれは」

 口ごもるシェナドへ、ザイロは人差し指を指した。

「本当にそう思ったのなら、うだうだ言わずに俺を信じろよ。牢屋のなかで、臭い飯食って、適当に言い訳して、さっさと帰ってこい。ここで待っててやるからよ」

 唇を噛みながらザイロの言葉を受け入れた後、無理やり口角を上げ、シェナドはぎこちなく笑う。

「そうだな……君の言う通りだ。ザイロ、君は強い。信じて待つよ」

 立ち上がり、土をはらった。「待たせたね、ローベンド君。いこうか」

 今度はシェナドは振り返らなかった。

 信頼と、そして少しの不安を感じる背中を向けて、馬車に乗り込んだ。

 ローベンドが指示をすると、馬車は進む。

 いい馬なのだろう。ザイロの視界で、その姿はすぐに小さくなり、地平に消えた。

 その後も、何を思ったか、ザイロも、リサも、レインも、そしてイリオも。

 馬車の消えた地平を、いつまでも眺めていた。

 

 

 その馬車は一見すれば、中に貴族がいるのであろうと、即座に直感できるものだった。

 散りばめられた装飾。艶めく高級木材に、精巧な彫刻。

 凡人には手に触れることすら叶わぬそれは、厳格な見た目とは裏腹に、少し早い速度で進んでいた。

 中に座るのは瞑目するゼノン。それともう一人。

 キン、と規則的なリズムで、何度も金属を弾く音が鳴る。

 ゼノンの対面に座る、腰まである小麦色の使い込まれたクロークに身を包む男が、暇つぶしなのか、握った銅貨を親指で弾いて、手に収めてはまた弾いていた。

「やかましい」

 ゼノンがそういうと、弾こうとしていた親指が止まる。

「悪いね。渋った顔した野郎と二人きりだと、とても暇で、指が勝手に弾いてたよ」

 今度は指の間に挟むと、その銅貨はまるで生きているかのように、指と指の間をスルスルと移動する。

「こうも暇だと、コイン遊びするぐらいしかないだろ?……そうなるとよ」

 男は銅貨を握り込み、手に見せつけるように魔力を込め始める。「ここで始めちまっても、いいかなと思ってるんだ」

 攻撃する素振りを見せる男に対し、ゼノンは冷静だった。

「好きにするといい。ただ、そうなると貴様の願いはかなわんだけだ」

「だろうねぇ」

 男は顔を横にして後ろに目を向ける。

 そこには四角い窓が開いており、運転席に座るソフィナの美しいヒップラインが見えた。

 それと、腰に携えた威厳を感じる美しい剣。

 彼女のその柄に手を添えている。

 攻撃した瞬間、馬車ごと首を分断されるだろう。

 悪くない結末だと思った。死ぬなら、いい女の手で死にたい。

 だが、もう少しで楽しいイベントがありそうなんだ。それからでもいい。

「冗談さ、冗談……ただ、約束は守ってくれよ。イリオって子、捕まえたら、俺とサシで戦ってくれるんだよな」

「その通りだ。それまで大人しくしていろ。ニクス」

「名前、覚えててくれたのかい。嬉しいね」

 本当は思っていないことなど分かっているだろうが、ゼノンは外に目をやった。

「明日の昼頃には目的地につく。それまで寝ていろ」

「そうしようかな」

 ニクスは隣に置いていたハットを手にして、頭に深く乗せた。

 この世界にきっと彼女はいない。

 どうせ死ぬまでの暇つぶし、ゆっくり待つさ。

 ハットで作った暗闇の中で、ニクスは瞳を閉じる。

 転生者であるニクスは彼女、エレイナのことを、断片的にしか覚えていない。

 顔も、声も、どんな風に笑っていたかも、もう靄の向こうだ。

 ただ心より愛していたということだけは確信していた。

 記憶はおぼろげでも、彼女への愛だけは胸に刻み込まれている。

 なぜそれだけが残ったのか、ニクス自身にも分からない。

 たぶん、それだけは失いたくなかったのだろう。

 瞼の奥に彼女ーーきっとエレイナらしき後ろ姿が浮かぶと、ほのかに懐かしい髪の匂いが香った気がした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。