転生ロワイアル   作:syūgen

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第8話-4 離影、そして襲来

 馬車が停止するとその勢いでハットが落ち、ニクスは目覚めた。

 足元のそれを拾い上げ、頭に乗せると、ソフィナがおりてきてドアを開く。

「到着しました、ゼノン様」

 ごくろう、と様になっている返事とともにゼノンが降りると、ニクスもその後を追う。

 相手に気づかれぬよう、街からは少し離れた場所だった。

 近くの林に野営させている、カネで雇った連中がイリオ一行を見張っているという話だったが。

 その林から先行していたハデムがでてくると、ハデムの顔を見た瞬間、青ざめて硬直し、即座に膝をついた。

 見ていて痛ましくなる。だいぶ主従関係を叩き込まれているみたいだ。

「報告を許す。どうした」

 その様子を察し、ゼノンが問うと、ゴクリと、ハデムが生唾を飲む音が聴こえてきそうだった。

「はい……それがーー」

 

 

 ゾディの仕事は日雇いの何でも屋だった。

 最初は傭兵を目指したが、素行もよくなく、なおかつ大した実力もない彼になれるものでもなかった。

 スラム街で時に働き、時に小さな盗みもしながら、なんとか日々を過ごす毎日。

 そんな時に、生きていれば運というものは回ってくるものなのか、でかい仕事が突然、舞い込んできた。

 とある集団を見張る仕事。日数は不明だが一日につき銀貨一枚。

 すでに一週間以上見張っている。これだけで銀七枚。

 誰かの見張りなど、当然だがこういう仕事は傭兵協会は請け負うことがない。

 故に、ゾディのような無法者が選ばれた。

 理由はなんでもいい。ただ見張るだけでカネがもらえるなら、それに従うだけだ。

 その集団。若い男二人と女二人。

 憎たらしいがそれなりに実力のある、魔法使いのようだった。

 ソイツらの見張り。

 元兵士だろうか。熟練の戦闘能力を感じる奴らに昼は訓練をおこない、夜は酒場で眠っている。

 ソイツらの動向を、なるべく気づかれないように監視しておく。

 ある日、鍛えていた連中が突然、街を去った。

 そこから酒場から一行がでてくる様子はない。

 ゾディは家なしを装いながら、酒場から少し離れた場所にある、町中に一本生えている太めの木にもたれながら、酒を片手に監視を続ける。

 カネが出るとはいえ、暇な任務だ。酒だって飲むし、同じように雇われた連中もそうしている。

 最初の数日は、その羽振りの良い報酬に興奮しながら監視業務を行っていたが、長くなってくるとそれも萎え、面倒が勝ってきていた。

 すでに二月は遊んで暮らせる額だ。早く終わってくれないだろうか。

 そう思いながら酒をあおる。

 日が暮れて暗くなってくると、酒場にも光が灯る。

 まだ中にいるようだ。今日は見たところ、一度も外出していない。

 闇の中で待つのもだいぶ慣れた。

 じっとその酒場に目を凝らしていると、後ろから足音が聴こえてきた。

 交代の時間だ。

「今日はアイツら、でてこなかったぜ」

 酒を一口呑んで振り返ろうとした時、首筋に冷たい、鉄の感触。

「動くな」

 殺気を孕んだ声。アルコールによって巡っていた、温かい高揚感が一気に消え去った。

「こ、殺さないでくれ」

 第一声、自然と出たのは命乞い。それに対し、何の感情もなく、ソイツは聞いてくる。

「俺達を見張っていたな。誰に雇われた」

「ハデムって男に……ハデムも多分、誰かに指示されて……その上は知らねぇ。俺達は何も知らされてない。ただ、あんたらを監視しろと言われて」

 求めていた答えではなかったのか「そうか」とさして興味のなさそうな返事が聴こえてきた。

「なあ、頼むよ。報酬のカネなら渡す。銀四枚貰う予定なんだ。それ全部やるよ。頼むからよ」

 数秒の行き詰まるような沈黙ののち「心配するな」と声。

「うちにはどうも、呆れるぐらい甘いやつがいてな」

 

 

「おい、ベイグ、俺達そろそろ交代の時間じゃねぇか」

「いいんだよいいんだよ。どーせボロの酒屋見るだけだろ」

 ミヘルドから少し離れた林の中で、監視で雇われた男七人が火を囲って酒を呑んでいた。

 最初こそ緊張感があったが、今となってはもう酒場と大差のない空気となっていた。

「明日には銀八枚だぜ」

 火から少し離れた、木にもたれた男が酒瓶片手にいう。「なあ、せっかくだから汚ねぇサルディじゃなくてよ、もっといい街で、きれいな女でも買わねぇか」

「八枚でもう貴族気取りか? 俺はこれを種にして、もっと稼ぐぜ。お前らもどうだ」

 皆、ニヤけ面をするか、軽く首を横に振るだけだった。

「なんだ、夢のねぇ奴らだな」

「ね、ねえ、やっぱ私がやんなきゃダメかなぁ」

 聞き慣れない、女の声。

 全員が咄嗟に目を向けると、林の向こうから男女が二人。

 監視対象だったリサとザイロだった。

 偶然というわけではなさそうだった。二人はまっすぐこちらに向かっていた。

 まるで、ここに監視たちが集まっているのを知っているかのように。

「当たり前だ。実践と練習じゃぜんぜん違うからな。俺もだし、お前もだ……えーっと」

 突然のことに固まっている監視たちを、指さして数える。「七人ぐらいいるだろ。お前は三人で、俺は四人やる。できるだろ」

 その口ぶりから、二人でこの七人相手にするつもりのようだった。

 言葉は交わさずとも、男たちはそれぞれの考えが一致した。

 ナイフや斧、武器を手に取り、左右に展開し二人を囲む。

 イリオという金髪の女以外は、最悪殺しても構わないという指示だ。

 圧倒的数の利があったが、監視の男たちはしばらく静止する。

 全員が知っている。この二人は訓練を受けていて、それなりにやれる奴だ。

「どうした、さっさと来いよ」

 口を開いたのはザイロ。「安心しろよ、殺しはしない。趣味じゃないからな。コイツとか、弱くて倒しやすいぞ」

 と親指でリサを指差す。

「ちょっと! 変なことゆーなよー!」

 まるで家の中のような、力の抜けた会話に、男たちの視線が一斉に鋭くなる。

 その言動は、明らかに舐めていることを表している。

「この野郎っ」

 一人、ナイフを持った男がリサへと迫る。

 胸に向けて突きつけたナイフ。それは大げさな動きなく、半身を後ろに避ける。

 すかさずリサは白い手袋をした拳で、裏拳を頬に返すと、男はその衝撃を感じながらも「クソッ」っと二歩下がる。

 大したダメージにはなっていない。

「手、痛ったぁ!」

 大袈裟に右手を振って見せるリサ。「やっぱ魔法使わなきゃダメかぁ」

「おいサボるなよ」

 敵を眼の前に、ザイロはリサのほうによそ見しながらいう。「相手が弱くても、ちゃんと魔法使って戦え」

 その隙をみて、斧を振りかぶって迫る髭面の男。

 頭に当たる瞬間、ザイロは振り返り、砂鉄をまとった右手で弾き返した。

「もう一度いうぞ。殺しはしないから、遠慮なく殺しに来い」

 前にいる四人をザイロは順に見た。「一斉にだ。じゃなきゃ、意味ないんだよ」

「おい」

 一人。その男は武器がなく、素手だったが、周りの者に語る。「俺が合図する。全員でかかるぞ。一人じゃ無理だ」

「お前はどうすんだよ、武器もないのに」

「俺は組み付く。チャンスだぜ。コイツは殺してもいいって話だ。もしかしたら、追加報酬。金の一枚ぐらいならもらえるんじゃねぇのか」

 その言葉に、他の三人の体が、野心で震えるのが見えた気がした。

「ああ、そうだな」

 応答したのはザイロ。「お前らの上の連中は羽振りがいいからな、多分もらえるだろうよ」

 ジリジリと重心を落としながら迫る四人。

「いまだ!」

 号令と同時、武器を持った三人と、その後ろ、一拍遅れて素手の男が動く。

 三者三様の武器がザイロに打ち込まれた。

 特に反撃の気配はない。三人囲まれ、武器が振り下ろされた様を見て、後ろの男はほくそ笑んだ。

 この状況で、殺せていないわけがない。

 だが、武器を振るった男たちは、眼の前の状況に驚愕していた。

 当たっていない。

 武器はザイロの数センチ手前で静止していた。

 力を込めて震えている武器は、それ以上の力で反発されている。

 見えない壁に阻まれているかのように。

 瞬間、男たちの持っていた武器が、突然、重さをましたかのように地面に落ち、三人が突っ伏した。

 ザイロは三人の間を抜け、後ろの男の眼の前に飛び出す。

「一斉に来いっていっただろうが」

 男が咄嗟に飛びかかろうとした瞬間、砂鉄によって硬質化。磁力操作によって加速した拳が、鳩尾を打った。

 あまりの激痛に、食いしばった歯の間から泡と、うめき声を漏らし、男はその場でうずくまる。

「クソ、どうすればっ」

「武器を離すんだよ間抜け!」

 そう言われ、ハッとして顔を上げた男の顎に、ザイロが裏拳を放つと、コンっと響く音とともに、意識を失って倒れる。

 見ていた残り二人、顔を見合わせた後、手を上げた。

「まいった……負けだ」

「命は助けてくれんだよな」

 それを見て、ザイロは退屈そうに舌を鳴らした。

「骨がない。こんなんじゃ意味ねぇよ」

「この女!」

 叫び声の方に顔を向けると、三人の次々やってくる連撃を、最低限の動きで、まるで風の中で舞う羽を思わせるような動きで避けるリサが見えた。

 その表情に焦りはなく、集中し、反撃の機を狙っているように見える。

 対し相手は、三人がかりでかかっているというのに、カスリもしない状況に苛立ち、疲れているようだった。

 リサが頭を下げると、その頭上で斧と剣がかち合い、鉄の音が響く。

 カチ合わせた二人が驚きで一瞬止まっていると、リサは構えた両の掌をそれぞれに向けていた。

 手袋は熱をなるべく通さない素材で作られた、ベル手製の手袋。

「『爆裂掌!』」

 発破。二人は吹き飛び、服は焼け落ち、痛々しく赤くなった胸に手を添えながら、少女のような声で泣いた。

 リサはもう『爆裂掌』をものにしていた。

 リーチが短く一瞬タメはいるものの、直撃すれば凄まじい威力だ。

 そのさまを見ていた残りの一人は、武器が手から落ちると、踵を返して走り出す。

「おいリサ! そいつを逃がすな!」

「えっ! きゅ、急にそんなこと言われてもっ!」

 駆け出そうとするリサだったが、足元にある手のひら大の石を見つけ、咄嗟にそれを拾った。

「うおおぉぉ! 『ばっ爆裂……石!』」

 へんてこなフォームで投擲された石は、木々を抜け、うまい具合に逃走している男の後頭部に直撃し、その場に倒れた。

 まさか当たると思わず、驚いた様子のリサは振り返って、ザイロにピースしてみせた。

「新技、できちゃった。『爆裂石』」

「その技……爆裂要素はどこにあるんだ?」

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