転生ロワイアル   作:syūgen

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第9話-1 開戦

「敵のボス、ゼノンの能力は重力操作か、違ったとしてもその類だろう」

 レインは眼の前の虚空を見つめながら話す。

 おそらく、あの日、広場でくらった魔法のことを考えている。

「俺を含めた数百人を、一瞬で跪かせるだけの力がある。はっきりというが、今の俺でも勝てる保証はない」

 それはザイロも同意見だった。

 確かに、俺達は強くなった。

 しかし、この短い訓練期間で、対等になったとはいいがたい。

「それともう一つ、コイツのマズいところは、戦う相手の数が多くとも、その力を発揮しやすいという点だ。相手の確認できる戦力はゼノン本人に、ソフィナにハデム。それと、俺達三人が一斉に戦ったら、確実に負ける。広範囲重力で機動力を奪われ、遠、中距離戦闘能力に乏しい俺達は、一人ずつやられる」

「えー、じゃあ絶対に勝てないじゃん」

 その予想を聞いたリサは、ぶすっとした表情をしていた。

「そうだ。俺達が勝つには、敵を分断し、ゼノンに対して俺とザイロ。二対一の状況以上を作る。逆に言えば、ゼノンに対しては絶対にこの状況じゃなければ戦わない」

「ちょっと私! 私はどこいったの!」

 机を軽くバンバン叩きながら主張するリサに、レインは面倒くさそうに応える。

「今のお前の実力で敵を倒せるのか? 敵を分断して時間を稼ぐだけでいい……下手に倒そうなどと思うのは危険だからな。引き付け時間を稼ぐことだけを考えろ」

 リサは悔しそうに、皆に見えるように歯を食いしばった。

「イー……分かったよ、私は私なりに頑張るよ」

「それで、どうやって分断するんだ、レイン参謀」

 ザイロが茶化した様子でそう言うと、レインの視線はイリオに向く。

「敵はイリオを逃がしたくない。必ずここで捕まえたいはずだ。そこに付け入る」

 

 

 街全体に重苦しい空気が漂っていた。

 ゼノンが足を踏み入れた瞬間、古い家はミシミシと音をたて、縫い付けられたかのように木の葉が地面にへばりつく。

 怒りが無意識に微かながら魔法を発動させ、それは広範囲に及んでいた。

 ゼノンを先頭に、ソフィナとハデムが後を続く。

 街の住民たちは十分に距離があるというのに、更にゼノン達から離れ、視界から外れるように隠れる。

「ちょっといいか」

 畏怖する住民の中、一人、金槌を持った男が前に出る。

 おそらく鍛冶屋か、憲兵のいないこの街では、彼らのような男たちが代わりを担う。

「あんたら、見ない顔だがどこのーー」

 瞬間、男の頭が地面に落ち、這いつくばった。

「黙れ、寝ていろ」

 男は気絶しているのか、それとも言葉通り黙って寝ているのか、ゼノン達が通り過ぎてもそのまま動くことはなかった。

 その時、酒場を視界に捉え、そこから三名がローブを羽織ってでてきた。

 顔はわからないが一人、長い金髪が垂れている。

 イリオ・ハイメインの特徴だ。

 こちらの様子を確認し、離れるように向こう側へと。

 即座にソフィナは疑問に思った。

 逃げるなら良いタイミングはいくらでもある。

 今になって逃げる。それはきっと裏がある。

 しかし、こちらに選択権はない。

「ゼノン様、行きます」

「許可する。貴様も行け」

 貴様、というのが自分であるとハデムが気づき、二人が駆けた。

 それほど大きくはない街だ。

 すぐ隣にある林の中に隠れられたら、見つけるのは難しくなる。

 しかし、足はこちらのほうが圧倒的に速い。

 みるみると距離を詰めるが、ローブのうちの一人が止まり、立ちはだかった。

 骨格的に男だろうか。二人が逃げる時間を稼ぐつもりだ。

「ハデム! そいつの相手をしていろ、私は追う!」

 足を止めるハデムを確認し、ソフィナはローブの男から一定の距離を取るように、右へ旋回しながら奥の二人を追おうとしたが、男がソフィナの方に手を伸ばす。

 魔法か。

 そう思い回避姿勢を取ろうとした時には、体が重くなり、その場に膝をつく。

 ゼノン様と同じ魔法。

 瞬間思ったが、重くなったのが自分の剣だけだとわかり、すぐに違うと理解する。

 武器だけに作用する魔法。ハデムの報告にあった磁力操作の男、ザイロ。

 動けない重さではない。だが、この状況では追えない。

「変更だ! ハデム、お前が追え!」

 何度も命令され、苛立ちを見せるハデムだったが、言われた通り、今度は左に旋回し、奥のイリオらしき女の方を追う。

 ザイロらしき男はハデムに対しては止める素振りを見せなかった。

「ソフィナって名前だよな」

 そう言いながらフードをおろした。

「俺はザイロっていうんだ。ちょっと付き合ってくれるか」

 ザイロの手に魔力がこもると、また腰の剣が動き始め、ザイロの方へと吸い込まれそうになる。

 それを手で止めると、ザイロはイリオ達が向かった方とは別の方向へと走り出す。

 誘われている。それは分かっていた上でザイロを追った。

 イリオ一行のうち、レインとは剣を交えている。

 取るに足らない男だった。ザイロと戦力の大きな差はないと考えていい。

 元赤獅子連中に師事していたとしても、期間は二週間そこら。

 人間がそんな簡単に、短期間で強くなれるわけがない。

 それは、私が身をもって、誰よりも知っている。

 時間稼ぎか。それとも、本当に私を上回るほど強くなったと思っているのか。

 そう考えるも、雑念を拭い去るように思考を閉ざす。

 私の使命はイリオ・ハイメインを捉えること。

 それ以外のことは考えない。

 幸い、身体能力はこちらが明確に上。

 街と外のちょうど間で、戦闘の距離となると、これ以上は逃げられないと悟ったか、ザイロは足を止めた。

「足、疾いな」

 呑気な問いかけに、ソフィナは風を斬る剣で応えた。

 一歩踏み込んだ横切り。

 頬の数センチ手前で、ザイロが二本の指を立てて下へと振ると、同じ方向に強力な力がかかり、剣は地面に突き刺さる。

 ソフィナに驚きはなかった。

 磁力操作は予習済み。

 その突き刺さった剣に力をこめ、支点にしてザイロのこめかみに蹴りを見舞う。

 咄嗟のことながらも、ザイロは反応し、腕でそれを防御した。

 瞬間、その見舞った足に硬い感触。

 半歩間合いを取る。剣に作用する磁力は弱まっていたので、剣は簡単に抜けた。

「重い蹴りだ。丸太でぶん殴られたかと思った」

 衝撃はあったか、ザイロはこめかみを擦った。

 ソフィナはその腕を凝視する。

 両手とも、黒い色の何かで覆われている。

 足に感じた硬い感触は恐らくあれのせいだ。

「磁力操作……砂鉄か。しかし、それを使うと剣への磁力が落ちる」

「そのとおり。察しがいいなら分かると思うが、俺とあんたじゃ相性は最悪だ……降参してくれないか。悪いようにはしない」

 そのこちらを憐れむようなザイロの目に、心に燃えるような感触があった。

 先程からの余裕を見せつけるような言葉といい、苛立ちを感じる。

「何だその顔は……降参しろだと? 私をバカにしているのか」

 怒れる形相に変化したソフィナに、慌てるザイロ。

「違うそうじゃない! 俺は無意味な争いをーー」

「無意味かどうかは私が決める!」

 聞く耳持たず、剣を構えた。「私は剣士だ! 降参はしない。止めたいなら、私を殺してみろ、ザイロ!」

 

 

「ソフィナの相手はお前だ」

 レインがザイロを指差し、そういった。「はっきりいうが、ヤツの剣技は一級品だ……腹立たしいが、今の俺でもかなう自信がない」

 声を落として語るレインを見て、ザイロはちょっと驚いた。

 簡単に負けを認めない奴だ。その男にこれだけ言わしめるということは、ソフィナという女はそれだけの実力者なのだろう。

 それとも、この短期間で少し丸くでもなったか。

「だが、お前のその卑怯な魔法なら、剣技は無力化できる」

 いや、気のせいだな。

「あのさー、こんな時ぐらい喧嘩するのやめようよ。真面目な話なのにさ」

 珍しいリサの正論に、微かに息を呑んだレインだったが「もういい。続けてくれ」と続きを促す。

「一度手を合わせただけだが、奴の性質的に一番手にでてくるはずだ。最初に接敵して、ソフィナを別のところへと誘導しろ。お前の能力を使えば、難しくはないはずだ。そうすれば自然と、ハデムとゼノンはイリオの方を追うはずだ」

「え、そんなことになったら、イリオちゃんだけじゃすぐ捕まるんじゃない」

「ああ、すぐに捕まるな」

 予想外すぎる返答だったか、リサの頭がガクッと落ちて机に当たる。

「ちょ! バカじゃん! イリオちゃん守るために戦うんでしょ! そうなったら終わりじゃん!」

「バカは貴様だ。イリオだけでは逃げられるワケがないだろ」

 レインの言葉で、卓上の全員の目がリサに向く。

「え、何、皆して……あ」

 そこまでしてやっと理解をしたのか、リサは下腹あたりを両手で押さえた。「なるほど! そこで私の番ってわけ……」

 意気揚々と立ち上がるリサは、何かを考えるように、空を見つめると胃の辺りに手を添えた。

「あ、まって……ちょっと不安になってきたかも」

 

 

「おいデブ。イリオをどこにやった」

「しらない! それと私はデブじゃない!」

 木々の中、相対する二人。

 ハデムとリサ。

 その場に、イリオらしき女の姿はない。

「ああ、そうかーー」

 青筋を立てるハデムは体を脱力し、地を這う蛇を思わせるような動きで、リサの目の前に迫る。

 突き出された素早い右手が、リサの顔面に飛んでくるが、それを紙一重で避けると、頭の後ろにあったフードが渦巻いてちぎれ散った。

 二撃目を予見して、リサは後退する。

 腐っても三等級傭兵の実力者。レインがいなければそのまま二等級になっていた可能性もあった男だ。

 攻撃はベルの方が疾い。それでも、実戦の緊張感が、リサの反応を半秒ほど遅らせる。

「避けるじゃねぇか、面白れぇ」

 顔は怒りに滲むが、ハデムの体はだらんとしている。

 力を抜けと、よくベルに言われていた。

 強張りは疾さを殺す。が、分かっていてもできることとできないことがある。

 リサは強張り、ハデムは脱力。

 精神的余裕。戦闘経験の差。

 それを実感すると、手袋の中のリサの手がじっとりと濡れた。

 じっと睨む間があったが、瞬間、二人の意識がそれる。

 ふわりと、ハデムの隣に降り立ったゼノン。

 圧倒的な力の襲来。それに二人は震えた。

「状況を説明しろ」

 命じられたハデムは、口早に話す。

「女が二人いましたが、私が到着したときには、すでにイリオらしき女の姿は見えませんでした! いま、コイツを殺してすぐにイリオをーー」

「黙れ」

 突然の指示に、ハデムは強く舌を噛みながらも、言葉を止めた。

 右手を上げて、掌をリサへと向ける。

 刹那、リサは眼の前に、自分の残像を見る。

 地面に押し付けられ、突っ伏している姿。

 それは未来の映像。

 感覚でそれを理解したリサは、横に飛ぶと、自分がいた場所に強力な重力が展開された。

 十秒ほどのやり取りだったが、心臓を剥き出しにしているかのような緊張感に、リサは肩で息をしていた。

「避けた?」

 ゼノンからでたのは疑問の言葉だった。

 まさかこんな小娘に、避けられるとは思ってもなかったのだろう。

「弱者にしてはやる……女、答えろ。イリオ・ハイメインはどこにいった」

 その問いと共に、ざわざわとした支配感が周りを覆った。

 強烈な存在感が全てを畏怖させる。まるで、木々や地面に生えている小さな草ですら、彼に屈服しているかのようだ。

「し、しらない」

 膝をつき、頭をたれてしまいたくなる恐怖に耐えて応えた。

「弱者が」

 歪む表情に、隣にいる味方であるはずのハデムですら、体を強張らせて身構える。

 ゼノンの目が、右側、木の根元に向く。

「馬か」

 足跡を捉え、そう呟く。

 一瞬の逡巡。

 ゼノンは計算している。

 イリオはこの数分でどこまで離れたか。そして、ハデムと二人でリサをすぐに殺せるのか。

 結論が出ると、怒り混じりに命令する。

「ハデム。この女、できるだけ捕らえろ。イリオ・ハイメインの前で殺す」

 瞬間、ゼノンは跳躍。

 矢のような直線的な動きと疾さで、木々を蹴り跳ねながらイリオの方へと向かっていく。

 横目でそれを見ていたリサは驚く。

「何あれ……ピンボールみたい」

 隙と見たか、距離を詰めるハデムに、すぐに距離を取った。

「ちょこまかと、うぜぇな」

 額に汗をにじませる辺り、焦りが見えた。「いいのかよデブ。ちんたらしてたら、ゼノンがお前のお友達、殺しちまうぜ」

「ヘン! そっちがイリオちゃんに手を出せないのは知ってるんだから!」

 図星だったか、ハデムの表情は更に歪む。

 深呼吸をして、若干の落ち着きを取り戻す。

 作戦通り。レインのいうとおりだ。ちゃんと順調に進んでる。

 そう自分に言い聞かせると、呼吸が軽くなる感触があった。

 後は、時間を稼ぐだけ。

 私の役目はそれだけ。

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