転生ロワイアル   作:syūgen

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第9話-2 開戦

「俺の想定通り、ゼノンと誰かがお前を追うとしよう。林の中で馬を留めておくから、それに乗って、イリオは逃げろ。リサ、お前は敵の足止めだ」

 レインが説明すると、リサはイリオの顔をのぞき見る。

「イリオちゃんってさ、馬乗れるの?」

「あの……乗ったのは、何度かだけしか」

 自信なさげに肩を落とすイリオに、レインは続ける。

「重要なのは相手に馬を使って、逃げられていると思わせることだ。敵は判断することになる。立ち向かうリサに全力で相手をするか、それとも馬で逃げるイリオを追うか。とんでもないバカでない限りは、邪魔されぬようにリサに戦力を残して、誰かがイリオ追うことになるはずだ。想定では、確実にイリオをとらえるためにゼノンが動く。奴の魔法は拘束に適しているからな。これで、こちらで見える限りは敵戦力の完全な分断ができる」

「あのさ、敵がバカじゃない限りっていうけど、すっごいバカだったらどうなるの?」

「逃げろ、お前のできうる限りの力でな」

 リサは机に額を当てると、腹に手を当ててうずくまった。

「あああぁ、痛い痛い、心配でお腹痛いかもぉ」

「無理はしないでくださいね。私のことは気にしないで」

 心配そうに、背中に手を添えるイリオ。

 リサは顔だけ前に向くと、その額には深いシワが刻まれていた。

「いや、やるけどさぁあ。そんなのはレインがやってよ。レインは何してるのさ」

「自由行動だ」

「はあああぁぁ~~~?」

 リサは明らかに不機嫌そうに、口を尖らせる。「お気楽なもんですね、参謀さんは。私らがヤバイって時に、自由行動ですって」

「敵が想定数を上回ったり、イレギュラーが起きた時に対応をするためだ。お前にできるならやらせるが?」

「参謀」

 面倒くさそうに割って入るザイロ。「ムカつくのは分かるが、ちょっと思いやりを頼む。コイツはコイツで緊張してるんだ」

 レインは、ムスッとするリサと、心配そうに寄り添うイリオを一瞥して、喉を鳴らした。

「まあ、俺は俺で重要な動きがある。この作戦では、一時的にイリオは捕らわれる想定になる。もちろん、それを奪い返すが、最悪のシナリオは、俺達がそれぞれ時間をかけすぎて、イリオをそのまま連れ去られてしまうこと。それを事前に阻止する。俺が敵の機動力を、事前に削ぐ」

 

 

 時間はあまりないということは分かっていた。

 自分がどれだけ早く二人の戦闘に加勢できるか。それでこの戦いの結果が決まる。

 レインは森の中を全力で駆け、その目は入る映像のすべてを注視している。

 クソ、どこだ。

 ゼノン達が馬で来たのは分かっている。

 来た方向的にもこのあたりに馬を停めているはず。

 が、運が悪かったか、なかなか見つからない。

 迷っている時間が無駄だ。さっさと街に戻るべきかと思ったが、その時にやっと視界の端に馬と、無駄に豪勢な馬車が見えた。

 チっと、舌打ちをし、抜刀して駆ける。

 心苦しいが、馬には死んでもらうしかない。

 人じゃない。それに、今は一秒を争う緊急事態だ。

 レインは刀身に魔力を込める。

 斬撃を飛ばす魔法。

 名前を知らないのでレインはこれを『斬空』と呼んでいる。

 誰に教わったわけでもない、修練の中で自らひらめいた技だ。

 威力はあるが射程は十メートルほど。

 射程圏内に入ろうという時、レインは急停止。勢いで地面を数センチ滑った。

 違和感。

 馬車に人影がない。敵も焦っているとはいえ、無人で残すか?

 それと、肌に感じる、殺気めいたもの。

 ビシっと足元に何かが穿たれる音がすると、レインは木の上、動きのあった場所を視界に捉え、刀を構える。

 見えたのはハットを被り、クロークに身を包む男。

 歳はシャッジと同じくらいだろうか。黒いヒゲがよく目に付く。

「馬には手を出さないでくれよ。アイツラは夜通し頑張ってくれたんだ」

 木の葉と一緒に落ちてくる男。

 目を合わせると、体の芯からやってくる、違和感と震え。

 男は不敵に笑ってみせた。

「お、転生者かい。最近よく会う。信じるたぐいじゃないが、これは運命ってやつーー」

 軽口を叩く男に対して、『斬空』を放つも、横に避けられた。

 切断された後ろの木を横目に、男はほくそ笑んだ。

「そんな焦るなよ。ジジイからのアドバイスだ。余裕がないやつは……モテない」

 返事はしない。今、そんな暇はない。

 次の攻撃のため、刀身に魔力を込め直す。

「つれねぇな。珍しい剣。レインっていうんだろ」

 楽しそうに歯を見せる男。顔の前に出した手、その指と指の間に小さな鉄球が挟まっている。「俺はニクスってんだ。二度目の人生だ、楽しんでいこうぜ」

 依然、何も応えない。

 楽しむ? そんな余裕はない。

 レインの目に、刀身と同じ鈍い銀が光る。

 仲間の命がかかってるんだ。

 

 

 手綱を握る掌は、もう感覚がなく、今にも足が取れ落ちそうなほどに股が痛む。

 涙をにじませながらも、少しでも遠く離れるためにイリオは馬にまたがり急いでいた。

「頑張って、お願い……もう少し、もう少しだけ早く」

 祈るように呟いていると、突然、頭上を通る影が目の前に降り、馬が驚いて立ち上がる。

 勢いでそのまま後頭部から落ちそうになると、降り立った男が俊敏な動きで眼の前に来て、イリオの服の胸あたりを強引に掴み、頭が落ちるのを防いだ。

 乱雑に服を掴まれ、ぶらんとなっている状況で、恐らくゼノンらしき男を見上げる。

 恐怖。

 その見下ろすゼノンの目に憤怒を感じた。

 瞳が震え、呼吸を忘れる。

 腰を強く打ち、手や股だって痛いはず。しかし、痛覚を遮断されたかのように、すべてを感じられなかった。

「イリオ・ハイメインだな」

 本能的に真実を答えそうになったが、歯を食いしばった。

「お答えしません」

 それは、イリオができる最大の抵抗。

 皆が頑張っているというのに、私が屈するわけには行かない。

 ゼノンは鼻から息を吸うと、目がどんどんと見開かれる。

「あなたが何者か存じ上げませんが、私はーー」

 抵抗の言葉を発しようとした瞬間、服から手が離されたと思うと、今度は首を掴まれた。

 指が喉に食い込み、息ができない。

 それを解くために、隙間に指を差し込もうとするが、凄まじい力で掴まれて入りこまない。

 その力で無理矢理に立たされると、ゼノンが顔を眼の前に寄せる。

「汚さず、生かして渡せとのことだ。死なないなら、どれだけ苦しもうと問題はない」

 突然、手が離されると、イリオはその場で崩れ落ちた。

 おぼろげな意識をはっきりさせるため、必死に息をしていると、悲痛を思わせる馬の声がする。

 顔を上げると、馬がその場に倒れ込んでいる。

 ゼノンが手を出し、馬に対して魔法を使っていた。

「やめてください! その馬はただーー」

 またも、もう一方の手で、今度は顎を掴まれ口を遮られる。

「黙れ弱者が。許可なく話すな。よく見ておけ、この馬がどんなふうに死ぬかを」

 自分のせいで……そんな。

 見ていることができず、涙を流して目を閉じる。

 パキパキと、聞いたことのない、恐らく馬の骨が折れる音が響く。

「一人だ。いいか、貴様の周りの連中、同じように殺す。その中で、一人だけ生かしてやる」

 イリオは目を開いて、ゼノンを見る。

 向けられていたのは、虫けらを見るような目。

「貴様が選べ。誰を生かし、そして誰を殺すのかをな」

 脳裏に三人の顔が思い起こされた。

 私が選ぶ? 生かす者と、殺す者を。

 そんな事……できない。

 屈服してしまいそうになる。いっそのこと死にたいとすら思ってしまう。

「深く絶望しろ。その生かしたやつと二人でな」

 涙がとめどなく溢れ、氷水のような考えが頭を満たす。

 それでも、まだ、イリオは絶望しなかった。

 それだけは、決して。

 頬から落ちる涙が、強く、祈るように握られていたイリオの手に落ちた。

 

 

「あの、ですね。最後にちょっとよろしいでしょうか」

 作戦会議が終わり、準備を始めようとした時にイリオが焦った様子でいった。「何度も申し上げてると思うのですが、これは私が原因の問題です。ですから皆さんーー」

「イリオ!」

 その言葉を止めたのはザイロ。

 話そうとしていたことは、なんとなく分かる。

 いまはそういう話は聞きたくなかった。

「俺たちは、自分の意思でお前を守ると決めたんだ。だから、最後まで全力でやる。途中でやめることだってない……だからイリオも、俺達を信じて、祈っててくれよ」

「祈る、ですか」

 しゅんと、肩を落とすイリオ。「そうですね。私にはそれぐらいしかできませんから」

「それぐらいなんかじゃないよ!」

 励ましたかったのか、大きな声でリサが反論する。「イリオちゃんが祈ってるって考えたら、なんかね、力でるよ! 考えてくれてるって思うと嬉しいし。すごいよ、イリオちゃんは」

 励ましの言葉に、イリオの目に涙が溜まった。

「ありがとうございます。皆さん、本当に」

 イリオは両手を組んで、祈った。

 神よ。お願いいたします。

 私のすべてを捧げます。

 どうか彼らに、幸運を。

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