転生ロワイアル   作:syūgen

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第11話-2 二つの活路

「あんたの……その爆裂掌? てやつの威力は確かにすごい。ただ致命的に、遅い」

 倒れ込み、天を見ているリサを見下ろして、ベルはそういった。

「う~いたた」

 模擬戦で叩かれた額を、リサはさする。「やっぱり遅いのかぁ。ベル師匠にはどうやっても当たんないのかなぁ」

 リサの避ける能力は、それに集中していないと途端に下がる。

 反撃をしようとした時に、ベルの攻撃を受けてこうなってしまった。

「爆裂掌を放つ時に、明らかなタメの時間がある。避けるのは難しくない」

 上体を起こし、あぐらをかきながら首をひねるリサ。

「むずいなぁ。もしかして私の爆裂魔法ってハズレ?」

「いや、それはない」

 即答するベル。

 その返答には確信めいたものを感じる。

「んえ? ベル師匠、なんか爆裂魔法のこと知ってる?」

 昔のことを思い出したか、逡巡の間の後、ベルは口を開く。

「正しくは爆破魔法。まあ、使ってたやつなら知ってる。とんでもなく強いやつだった」

「へえ! どんな人!」

「そんな話、今はどうだっていい」

 無理やり会話を遮断するベル。

 その言葉に何かを感じたリサは「いぁ、ごめんなさい」と反射的に謝っていた。

 それをみて、言い過ぎたと思ったかベルはバツの悪そうに額をかいた。

「まあ、とにかくあんたの魔法はハズレなんかじゃない。どんな武器だって要は使い方だ。強みを生かす戦い方があるはず」

「ふーん……例えば!」

「ちょっとは自分で考えろ! あんたの長所を使うんだよ」

「長所、長所」

 ブツブツと呟きながら顎に手をおいて考えると、リサはハッとした表情となって手を叩いた。

「お料理か! 美味しいパイを作って、相手を油断させる! これだ!」

 眉間に深いシワを寄せ、肺の全ての空気を出し切るほどのため息を吐いたベル。

「違う……未来視でしょ」

 

 

 十分にわかっていた。

 戦闘をするべきではないと。時間を稼ぐのに徹するべきだと。

 それでも、やっぱり、許せない。

 大事な友達をバカにされて、何もしないなんて。

 できたら……いや、絶対に、一発ぶん殴ってやる。

 にじり寄るリサに、不敵に笑うハデム。

「おぉ、どうした? やる気になったか」

「べつに」

 不穏に返すその口調に、隠れられていない不愉快が滲んでいる。

「無理すんなよデブ。時代遅れの刀使いと、それと……なんだ、ダセぇ磁石使いか。そいつらが来るまで時間を稼げよ。ザコらしくな。まあ、来たら来たで、そいつらも嬲り殺すだけだけどな」

 駆けるリサ。

 その目は強く、怒っていた。

 対しハデムは目尻を落とし、笑う。

 共に素手。ハデムの攻撃は手が届く範囲。その一歩手前で、リサは手を構える。

 魔力が込められると、その手の前にパチパチと小さな火花が散り始める。

 何かを感じたハデムは、すでに回避姿勢を取っている。

 出力、痛すぎない程度に最大。

「『爆裂掌!』」

 突き出した右手から放たれる爆炎。

 それは直撃すれば、ただではすまない火力。

 後退してハデムは避けるも、予想外の威力だったか、その笑いには引きつりが少し見える。

「一応、魔法は使えるみてぇじゃねぇか」

「当たり前でしょ。て、転生者だし」

 なるべく平穏を装って、リサは応える。

 が、しかし、その心中。

 痛い痛い痛い痛い!!……やっぱ痛ぃ!

 熱を通しにくい手袋をしているとはいえ、完全ではない。

 我慢できるほどではあるが、右手は今もズキズキと痛む。

 泣き言をいいたいところだが、今はそんな状況でもないので必死に我慢する。

 渾身の魔法は避けられてしまった。

 しかし、それでいい。

 ステップ1。

 まずはビビらせろ。

 

 

「私は魔法を使えない。だから、これから説明するのは、シェナドから聞いた話だ。間違ってても文句いうなよ」

「はい!」

 ベルの説明に、元気よくリサは応えた。

「まず、魔法を使うときには、魔力をその使う部分に込めるよな。主に手とかに」

「多分そんな感じと思います!」

 多分て何だよと思ったが、ベルはもう何も言わない。

 リサと会話している時に、細かい部分に突っ込んでいたら話が進まない。

「これは魔法を使えない私でも、微かに感じることができる。例えばあんたは爆裂掌を放つ時に、魔力がこもるのをちゃんと感じてる」

 リサは腕を組んで、口を尖らせた。

「なーるほど。だから避けられちゃうのか」

「この魔力を込めてから、魔法を放つまでの疾さは、強いやつほど疾い。シェナドはほぼない。魔力を確認したら、次の瞬間には放ってる」

「なるほど! 早くすればいいのね! やってみるね!」

 短絡的な発想。

 それに対してベルは、結果は見えているが「まあやってみな」と言ってみる。

「いっくよー……『爆掌!』」

 手の平を前に放たれる新技、『爆掌』。

 それは爆とは名ばかりの、火打ち石を打った時に出る小さな火種が、ポツポツとでただけだった。

「あり?」

 不思議そうに首を傾げるリサ。

「私は魔法は使えないけどねぇ、そんな簡単にいくもんじゃないってのは知ってるよ。きっと何年もかけて、訓練の末に疾くなるもんだ」

「じゃあ私の爆裂掌、絶対に当たんないじゃん!」

 ぷりぷりとしながらベルに文句をいうリサ。

「だから、そのタメのある技を当てるために、工夫するって話でしょ」

「くふう~? そんなこといったってさぁあ。遅いのは仕方ないからっあ!」

 突然、リサは拳を手の平にぽんと当てて、明るい顔になる。「分かっちゃいました。閃いちゃったよリサちゃん」

「御託はいいから、早くやってみな」

 両手を前にだし、魔力をこめ、そして笑うリサ。

「へっへっへ! どーだ! 常にこうやって、魔力をまといながら、爆裂掌の準備状態で戦うのだ! そうすれば、すぐに爆裂掌を使える!」

「ふーん、じゃあそれで戦ってみな」

「いくらベル師匠といえど、この状態のアタシ相手に勝てるのかなぁ」

 得意げに両手を構えるリサに、ぼけっとそれを見ているベル。

 五秒後、特に何もしてないのに、リサはその場に両手をついた。

「あ、無理だわこれ。すごい疲れるし神経つかう」

「だろうね。それでいけるなら、みんなやってる。感覚はわからないが、発動の前段階まで魔力を込めるってのは、多分筋肉でいう踏ん張ってる状態。それはなかなか続けられないだろ」

「なら言ってよ……でさ、これで無理なら、もう一生、私の爆裂掌あたんないと思うんだけど」

「いや、そうでもない。考えてもみなよ。あんたは相手の行動の、少し先の動きを予知できる。それを、あんたは自分が避けることにしか使っていない」

「んん?」

 リサは眉を寄せて、首を傾げる。「それ以外、使い道あるの?」

「相手がどう攻撃するかをわかるなら、相手がどう避けるのかもわかるってことでしょ。相手の動きの先に攻撃をすれば当たるって事」

 数秒、考えるリサ。

 なんとなくイメージが湧き始めたか、目が開いてキラキラと輝き出す。

「うおー! なんかそれできそうかも!」

 

 

 冷静になって思い返せば、自分はやっぱり結構おバカなんだなと思い知る。

 なんかできそう。それでできるほど、攻撃を当てるのは簡単じゃない。

 特にハデムのような戦闘経験豊富な者であれば、なおさらのことだ。

 ハデムの動きがぎこちなく、こちらの爆裂掌を警戒しているのがわかる。

 だが、だからといって全く戦えなくなるわけではない。

 警戒しながらも、しっかりと攻撃してくる。

 そして、魔力を込める素振りをすると、すぐに下がる。

 なんとも歯がゆい状態であり、そして精神と体力を徐々に削ってくる。

 迫りくるハデムの手。その小指がリサの頬をかすめ、髪の毛を渦巻かせる。

 リサの動きも、そして未来視の精度も下がってきている。

 咄嗟に反撃しようとするも、すぐに退避。

 やはり当たる気配がしない。

「疲れてきてんじゃねぇのか? もうすぐでその無駄にでかい頭を捻り潰せそうだ」

 嘲笑うハデムに、汗をにじませるリサ。

 いうとおり、このままでは負けるのは時間の問題。

 だが、勝機がないわけではない。

 ハデムは恐れている。爆裂掌の威力を。

 集中すれば、ハデムの回避先も、ぼんやりとだが予知ができる。

 後はタイミング。

 どれだけの強者だろうと、いつかは隙ができる。

 それを、見逃さない。

 ハデムが両手を前に構える。

 サルディで見せた、前方の空間をねじる魔法。

 戦闘のさなかにそれを感じながら、リサは前に駆けた。

 あの魔法は強力だが両手に強い魔力を込めないと使えないはず。

 ハデムの両手にその気配を感じなかった。

 チッとハデムは舌打ちして、構えを解いて後退。

 リサの勘は当たっていた。

 その後、何度かのハデムの攻撃を、ギリギリで避け、プレッシャーを与えるために攻撃する素振りだけ見せる。

 ハデムは注意深い。魔力がこもった瞬間に、こちらの姿勢を確認せずに下がる。

 静かに。そして冷静にそれをリサは観察していた。

 これはベルとの訓練では見られなかった思考だった。そしてそのことを、リサ自身も認識できていない。

 動物的な戦闘本能。

 戦い中で、リサは劇的に成長をする。

 眼前に来たハデムの手。それが当たる寸前で回避する。

 ハデムが舌打ちを一つ。同時、リサの両手に魔力がこもる。

 後方へ退避。

 それを見たリサの両手から魔力は消える。

 それはブラフ。

 爆裂掌に見せかけた、強くは込められていない魔力。リサは更に距離を詰める。

 突然のことに目を見開くハデム。通常以上に、さらにもう一歩後退すると、その背に木が強く当たる。

 混乱して見えていなかったのだろう。後ろにある、退避先にあった木に。

 リサには全てが見えていた。

 もたれかかるように木へと背を当てるハデム。その前、すでに攻撃準備を済ませたリサ。

 左の手の甲に、右手の平を重ね、その両手をハデムへと向ける。

 両手に込めた魔力を爆発に変換。単純計算。火力は二倍。

 吹き飛べ。

「『爆裂重掌!』」

 蒼白驚愕のハデム。決死のリサ。そして、二人の間に、散り散りと弾ける小さな火種。

 刹那、リサはその先。未来の映像を見た。

 自分の鎖骨あたりに、ハデムの手がめり込み、骨の砕かれるビジョン。

 ーーあっ……ダメ。これっ当たらなーー

 そう思った瞬間には、ハデムの長い脚がリサの両手を蹴り上げ、空に巨大な爆炎が舞う。

 リサの未来視は、魔法によるものではない。

 簡潔に言えば直感。

 相手の動きや所作を無意識に観察。その情報から先の動きを予測し、未来を見る。

 未来は、平等で、慈悲などない。

 見えた情景は正確にリサへと訪れた。

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