転生ロワイアル   作:syūgen

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第11話-3 二つの活路

 横へと駆けるニクス。

 それと近づきすぎず、離れすぎずの距離で、同じようにレインも走る。

 ニクスの発射する弾丸は疾い。距離があれば防げるが、今より近づけば確証が無い。

 慎重に戦わなくては行けない。それでも、ゆっくりと戦えるほど時間はない。

 レインが一歩、距離を縮める素振りを見せた瞬間、パン、という空を打つ音とともにニクスのクロークがなびくと、発射された鉄球を刀で弾く。

 ニクスが足を止め、ヒュウっと口笛を鳴らす。

「やるねぇ。ほんとに俺の弾丸が見えてるみたいじゃねぇか」

 レインも足を止め、応答なく刀を構える。

 いくつか手を合わせて分かったのは、このニクスという男の魔法使いとしての未熟さ。

 クロークで隠れているから見えにくいが、発射前の魔力の漏れが見えるし、無駄に浪費しているのがわかる。

 弾丸の疾さにもムラがあるし、狙いも急所からよく外れる。

 魔法を使い始めてそこまで日がないのか、それとも日々の鍛錬を怠っていたのか。

 しかし、それを補い余る戦闘スキル。

 一切の隙がなく、そしてこちらが動こうとしたら迎撃してくる。

 感覚が鋭い、というのだろうか。

 迂闊に動けば、命が危うい。

 焦りからか、刀を握る手に力が入る。

 どうする、どうすればいい。

 思考をめぐらしていくと、師匠、シャッジとの記憶がぼんやりと浮かんでくる。

 

 

「お前の魔法は超近接型だ。魔法ってのはよぉ、ぶん殴り合いじゃ勝てないやつが使うもんだ。だってのに、お前は近づかなきゃまともに攻撃ができない」

「なにが……言いたい」

 地面にあぐらをかいて講釈を垂れるシャッジ。

 それに対し、レインは地面に四つん這いになり、自分が吐き出した胃液を揺れる視界で眺めていた。

「魔法にも相性ってやつがある。お前の仲間のザイロだってわかりやすい。鉄の武器を扱ってるやつじゃ、アイツには絶対に敵わないだろう。それと同じ。遠距離型で、なおかつ距離をとって戦われたら、お前は手も足もでなくなる。今みたいにな」

 服の裾で口の脇についた粘液質な唾液を拭き取り、レインは立ち上がった。

「それじゃあ……相手がそうだったら逃げろということか?」

 シャッジは眉を上げると、人差し指をレインに向けた。

「その通りだ。殺し合いってのはそういうこと。無理そうだったら逃げる。常識だな」

「だったらなんだ。お前は俺に効率のいい走り方でも教えるつもりか」

 そう言うと、シャッジはハッハっと笑い膝を叩いた。

「それも悪くねぇが、まあ人間、逃げられねぇときってのがある。そういう時の対処法を教えてやる」

「そうか」

 息を整え、状況を整理する。

 シャッジは座っていて、こちらは立っている。

 足を組んでいる状況ではとっさに逃げるのは難しいだろう。

 距離は五歩ほど。

 油断は……しているか?

「まあ、そのへんはギャンブルと同じなんだ。流れってやつがある。いいときには、いい方にベットするってのは重要なことだ」

 額をポリポリとかきながら、流れの説明を始めるシャッジ。

 視線は横。こちらの動きを気にしていない。

 今だ。

 前に駆けるレイン。

 即座に、足元から感じる魔力の躍動。

 罠ーーそう思った時には、隆起した土が顎をカチ上げる。

 留まっていた視界が、再度揺れ始める。

「まあ、流れだの何だの適当に言ったが、本当のところは、冷静になることだ。八方塞がりになった人間は、思考を放棄して、直線的な動きになる。そこを絡め取るために、俺達は備えておく。近づかれたら死ぬからな」

「そう…か」

 なんとか立っているものの、レインの体はぐらりとゆれて今にも倒れてしまいそうだった。

「じっくり、決して焦らず、一歩ずつ詰め入り、フェイントを仕掛け、あえて一歩下がってみる。するとどうだ、どんなやつにも隙ってやつはでてくる」

 シャッジは立ち上がり、虚ろな目をするレインの前に歩き出す。

 刃圏だというのに、レインは一切動けなかった。

「その一瞬を見逃さないことだ」

 レインの額を、軽く指で弾くシャッジ。

 支えのない棒が風に吹かれたかのように、レインの体はゆっくりと地面に倒れた。

 

 

 口から長細い息をはく。

 すーっと、音が聴こえてくると、逸る気持ちが収まり、思考が澄んでいく感覚があった。

 すると視界に入るニクスの、一挙手一投足がわかる気がした。

 これが腹が据わる、ということだろうか。

 時間はない。だが、急いて倒せる相手でもない。

 焦らず、一歩ずつ詰め入る。

 遠く、時間のかかるように見える行為こそが、勝利への最短経路。

 レインの様子をみて、ニクスは興味深そうに右の眉を上げる。

「へえ、取り乱さない。いい心構えだ」

 放たれる二発の弾丸を弾き、レインは距離を詰めると、同じ分だけニクスは後ろに下がる。

 前に出る人間と、下がる人間。当然、前者のほうが速いため、少しだけ距離が縮まる。

 それでいい、今はそれで。

 更に放たれる二発。それを弾く。

 するとニクスが両手を広げて見せ、クロークの中にそれを忍ばせる。

「リロードだ。撃ちきった」

 動くレインの心。

 言ったことが確かなら今は攻撃ができない。

 鉄球を手にして魔力を込める必要があるはず。

 距離を詰めるべき。しかし、あの言葉は本当か。

 ここはーー詰める。

 駆けるが、これはニクスを倒すための動きではない。

 この状況に対して、相手がどの疾さで、どう動くか、それを推し量るためのもの。

 なるべく動きがあったときは対応できるよう、そちらに意識も割く。

「冷静だなっ」

 リロード後、それは咄嗟に放ったためか、一発だけ撃たれた弾は狙いが外れており、レインは余裕を持って右へ避けた。

 また後ろに下がるニクスを追う。

 退避を行いながら射撃をするのは難しいのか、狙いが甘く躱すのは難しくない。

 四、五。

 心のなかで発射した弾丸を数える。

 残り三発。それを撃ちきったら、ニクスに迎撃できる武器がない。

 無論、それはニクスの言葉が真実であればの話だが。

「コイツァ……燃えるねぇ」

 そのニクスは笑っているが、どこか緊張しているかのように硬かった。

 嘘とは思えない。

 クロークの内側から垣間見える、強い魔力。

 身構えた瞬間、放たれた弾丸は当たることはなく、ハの字になってレインの両脇を通り過ぎる。

 通常より魔力のこもった、強い弾丸だった。

 狙いが外れた。そう思い、もう一歩、刃圏に届く距離まで近づこうとした瞬間、レインは気付いた。

 見ていない。

 ニクスの目。その焦点がこちらに定まっていない。

 もっと後ろ。別の場所を見ている。

 刹那の間に、いくつかの考えがよぎる。

 強い弾丸。

 なぜ、後ろ。

 森の中、木々。

 後ろに味方? その気配はない。

 カツン、という後ろから何かが響く音。

 ーー跳弾。

 そのコンマ一秒足らずの中で導き出た答え。

 咄嗟に横に飛ぶと、今度は後ろからXを描くように、木々から跳ねた弾丸が通り過ぎる。

 それを確認すると、心拍が跳ね上がり、うなじに汗が湧き出る。

 危なかった。もう一瞬、動くのが遅かったら……。

 パチパチと発射音とは違う乾いた音がして、視線を向けると、また十分に距離を取った場所から、ニクスが拍手しているのが分かった。

「お見事。今ので仕留めるつもりだった。見えてないのによく避けたな。偶然か? それとも、お前さんの実力か」

 ゆっくりとクロークの中に手を忍ばせ、また両手に魔力を込めた。「どちらにせよ。あと何発避けられるかな」

 再発射された五つの弾丸。

 それは周りの木々を二度、三度とそれぞれ跳ね返り、レインの元へと集約する。

 焦りはなかった。

 確かに時間差でやってくる攻撃はすべてをとらえることはできない。

 だが、弾丸は跳弾の度に疾さが落ちる。

 そして八方向からの攻撃は、シャッジとの戦闘で予習済み。

 上体をそらし、そして足を使い、五連の弾丸を全て躱す。

「マジかよ」

 ニクスから漏れた感嘆の声。

 レインは回避姿勢のまま、ニクスの射線から隠れるように、そばの木の裏に身を潜める。

 跳弾が使えるなら、木の裏とて安全ではない。

 その考えの通り、すぐに放たれた二発の跳弾を身をかがめて避ける。

 見えていないのだ。勘で放たれたもので狙いは雑だった。

 ニクスの弾丸は残り一発。それは恐らく撃たない。

 それをあえて残して、ニクスはリロードに入るはずだ。

 その間に、腰の鞘を手に取った。

 ニクスの射程は長く、こちらを寄せ付けない。

 そして跳弾も駆使してくる。それを使いやすい森の中では、相手の独壇場だ。だがーー

 刀を鞘に収めると、魔力を込められた刀全体に蒼白のオーラが纏われる。

ーー勝機はある。

 

 

「うぐっ……くっ」

 ハデムは顔を押さえ、その場で下を向く。

 手の下、顔からその下の首にかけて、赤く熱によって火傷を負った頬があった。

「何だ。てめぇ、何をした」

 疑問を前にいるリサに投げるも、何も答えなかった。

 リサは自分の左手を、呆けたようにじっと見ていた。

 右手は力なくだらんと下がり、そして、左足がハデムの頬と同じように赤くなっている。

 確かにハデムの魔法『ネビル』は、リサの右鎖骨に直撃した。

 渦巻く衝撃が走り、ギシギシという、人体からは聞いたことのない音が体内に響いた。

 その刹那、突然、ハデムの顔の隣で爆発が起こった。

 どうして、なぜそうなったのかはわからない。

 しかし、靴がなくなり裸足となった左足の激痛と熱、そしてかすかに残った煙から、何が起きたかはなんとなく分かった。

 結果、右腕は動かなくなってしまったが、命は繋がった。

 そして、もう一つ。

 リサは掴んでいた。

 爆裂魔法。その核心を。

 ぐっと握りこむ左手。

 それを見ていた力強い瞳を、ゆっくりとハデムへと向ける。

 こいつを倒す。そのためには、『爆裂拳』しかない。

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