転生ロワイアル   作:syūgen

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第12話-1 映す瞳

 『爆裂掌』と『爆裂拳』

 似ているようだが本質は違う。

 自らを焼かないように熱波をコントロールする『爆裂掌』

 対し、それを諦めて拳の表面全体を爆発させる『爆裂拳』

 調整をあまり必要としない分、後者の方が圧倒的に疾い。

 本来、これはリサが使える魔法ではなかった。

 しかし、命の際。

 本能で動いたリサは、足を使い、『爆裂拳』と同じ要領で爆発する蹴りを放っていた。

 そして掴んだ。爆裂魔法の核心を。

 受けるダメージは甚大。左足は今も火で炙られているような痛みが続く。

 だが、それでも、ハデムを倒すためには、使うしかない。

 『爆裂拳』を。

 覚悟が、瞳の奥を燃やす。

 その火に射られ、ハデムは自然と身震いした。

「なんだ……てめぇ」

 声が、わずかに上ずっていた。

 それはプライドだろうか。リサから感じてしまった得体の知れない何かを、ハデムは怒りで塗りつぶそうとする。

「別に」

 短く返し、リサは一歩、踏み出す。

 力強い、迷いのない足取り。火傷だらけの体で、痛みなど存在しないかのように。

 その一歩に、ハデムの足が半歩、勝手に下がった。

 あと一歩踏み出せば手が届く距離。

 まるで試すかのように、リサはそこで足を止めた。

 双方、攻撃の範囲内。

 ハデムの喉が、こくりと鳴る。息を吐くたびに、肩が小刻みに揺れていた。

 対するリサは、瞬きもしない。燃える目だけが、まっすぐハデムを射抜いている。

 数秒、沈黙が流れる。

「どしたの……くれば?」

 挑発。

 燃える瞳と、薄い笑み。

 その余裕が、ハデムの何かを焼き切った。

「クソがっ」

 土を蹴り上げる。

 だが、それを予知していたリサは左手で目に入る土を防ぐ。

 視界を遮られたリサへ、右手を突き出し迫るハデム。

 無論、これも読めていた。

 ハデムの動きは手に取るようにわかる。

 簡単に躱せる。しかし、ハデムの手は、リサの動かない右腕に直撃した。

 激痛だった。

 ただでさえ痛みのあった右腕が、更に肉が裂け、骨が軋んだ。

 それでもリサは、歯を食いしばり、足を踏みしめる。

 その左腕には強い魔力が纏われていた。

 避けていては、当てられない。なら、動かない右腕なんて、くれてやる。

 私が皆をーーイリオちゃんを、守るんだ!

「『爆裂拳!』」

 渾身、左の一撃がハデムの胸に直撃。

 それと同時に、火花散り、巨大な爆炎が炸裂した。

 衝撃でハデムは吹き飛び、後方の木に激突する。

「ガッ、ウガアァァ!」

 人間の耐えられる威力ではない。

 あまりの衝撃に、ハデムは額を地面に付けながら、焦げた胸に手を当て、うめき声を上げる。

「クハ! アッハッハッハ!!」

 その衝撃はリサにもしっかりと刻み込まれていた。

 手袋は弾け飛び、左腕は赤くなり、煙を上げている。

 しかし、それを見ながらリサは涙目で笑っていた。

「おめぇ……何だ、イカれてんのか」

 口の脇から泡状の唾液を吹きながら、ハデムは震えた声で聞いていた。「何笑ってんだよ……痛ぇんじゃねぇのかよそれ」

 痛いに決まってる。

 左腕の感覚はもう半分ない。炙られた皮膚が引きつって、立っているだけで意識が飛びそうだ。

「痛ぇよ! 超痛くて、気絶しそうでヤバイっての!」

 それでも、口角は勝手に吊り上がる。

 涙が頬を伝う。痛みのせいか、別の何かか、自分でもわからない。

 まるで薬でハイになっているかのように、笑い、そして泣きながらリサは叫ぶ。

「でもさ! でもさぁ!……あんたをぶっ飛ばせると思うとさ」

 左手を前に出し、ニヤリと笑う。「笑い、止まんない」

 恐怖のあまりハデムの顎が震え始めた。

 強者の余裕は完全に剥がれ落ちる。

 その瞬間に、勝敗は決していた。

「うっ……うわああああ!」

 それはまるで泣き声だった。

 理性では勝てないと悟っていても、プライドがそれを拒絶したか、両手を前に飛びかかる。

 無様な、最後のあがき。

 もはや未来視を使うまでもなかった。

 軽く避け、今度は右足に魔力を込める。

「『爆裂脚!』」

 ハデムの脇腹で炸裂。

 はじけ飛ぶ衣服に、巻き起こる煙。

 吹き飛び、地面に倒れると、ピクピクと震え、動かなくなった。

 今この瞬間、生殺与奪の権利はリサにある。

 ハデムは殺しにかかってきていた。一歩間違えれば、倒れていたのは自分であり、そして死んでいただろう。

 しかし、それを分かったうえでリサはゆっくりとその構えを解いた。

 殺しはしない。それはザイロとの約束であり、そんなことはなるべくしたくないから。

 背を向け、その場を去ろうとする。

 数歩進んだ時、背後で、土がかすかに鳴った。

 倒れていたはずのハデムが、蛇のように音を殺し、立ち上がっていた。顔の半分を焼かれてなお、その目だけ人のものとは思えぬように爛々と濡れている。

 死んだふり。最後の最後まで、ハデムはハデムだった。

 無防備な背中へ、右手が伸びる。爪の先がうなじに届くーーその、はずだった。

 リサは振り向かない。振り向かないまま、半身をずらす。

 ハデムの手が、何もない空を掻いた。

「なっ……」

 見えていた。背中越しでも、視界の外でも。

 リサが見ているのは、今じゃない。

 未来視に、死角はない。

 左手でハデムの額を鷲掴みにするリサ。

 足から力が抜けたか、自然とハデムは膝をついていた。

「ちょ! ちょっとまて! お前っ……お前でもゼノンには勝てねぇぞ! アイツはヤベェ、俺が口利きをーー」

 ハデムの言葉を無視し、リサは囁くように言った。

「まあ、死なないぐらいにしといてあげる」

 ボン、と軽い爆発音とともに、ハデムの顔は焼け焦げ、後ろに倒れた。

 もう、コイツが立ち上がる未来は、見えない。

「私の……勝ち」

 ポツリと呟く。

 全身はズタボロで、火傷まみれ。

 服はほとんど破けているし、手袋や靴は完全になくなっている。

 ギリギリ、辛勝といったところだ。

 でも、それでも。私の勝ちだ。

「うおおおぉ! ありがとベル師匠!」

 左手を天に上げ、その空にベルを思い浮かべた。「皆!私! 強くなったよ!」

 満足感が胸を包み、喜びがあふれる。

 それに浸っていると、四肢の炙られてるような痛みが、少しだけ和らいだ気がしていた、その時、

 上空、視界の左から右へと、凄まじい勢いで横切る影。

 リサの動体視力はその影をしっかりと捕らえた。

「嘘、ゼノンと……イリオちゃん?」

 飛んでいった方に目を向けるがもう姿はない。

 見間違いじゃない。鳥のように飛んでいたゼノンが、イリオを担いでいた。

 このままじゃイリオちゃんを連れてかれちゃう、でもゼノンには……あ。

 ふと、気がつく。

 いや、気づいてしまった。

 私なら……ゼノンに勝てる……かも。

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