転生ロワイアル   作:syūgen

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第12話-2 映す瞳

 これを行うには溜めの時間が必要だった。

 刀身と、そして鞘の中に魔力を込める。

 鞘によって生まれた、新たに魔力を込められる領域によって、その威力は倍増する。

 歯を食いしばり、それに集中するこの間、レインは他の行動ができなくなる。

 もし攻撃を受ければ防御ができないが、今はそれはないと考えていた。

 相手、ニクスの弾丸は残り一発。

 戦況を変えられる残弾数ではない。リロードをするだろう。

 そして跳弾に関しても、見えていないところに行ってもあまり意味がない。

 今は見に回ると、そう読んだ。

 それは当たっていた。

 ニクスは隠れたレインを静観。

 距離を保ちながらゆっくりとその死角を潰すため、横に動く。

 完全に隠れられてしまえば、そこから隙を突いて近づかれる可能性があるし、かなり離れたがレインが馬に狙いを変えて、退散することもありうる。

 状況は依然優勢。無理に詰める必要はない、そう考えていた。

 しかし、レインが魔法を発動する瞬間、遠くからでもわかる、膨大かつ圧縮された魔力を感じ、顔が強張る。

 判断を誤った。

 それを認識し、攻撃に転じようとしたときには、すでにレインは魔法を放つ。

 斬撃拡張魔法『サーフィス』

 通常で伸ばせる斬撃範囲は五〇センチ程度。

 しかし、鞘を利用し限界値まで魔力を込めれば、その範囲は二〇メートルを超える。

 抜刀。

 蒼白のオーラを纏った刃が横に振られると、その拡張された斬撃が直線上の木々の全てを切り倒す。

 寸前のところでニクスは木に登ってそれを躱すが、その木も当然のように切られ倒れた。

 その後、着地し周りを見渡すニクス。

「コイツァ……とんでもねぇな」

 ほんの一瞬で、二〇メートル範囲の全ての木々を切り倒していた。

 その威力に驚いていると、当然、レインは距離を詰めるために走る。

 後ろに下がりながら迎撃しようとするニクス。

 しかし、足に当たった木の感触で、すぐにそれができないと分かった。

 もうここは森じゃない。足元の障害物で、先程までの退避しながらの攻撃は不可能。

 そして跳弾させる障害物もない。

 後方に切断されていない木があるが、背を見せて走っても辿り着く前に斬られる。

 そんな中で、ニクスは強張っているようで、どこか楽しそうでもある、なんともいえぬ微笑みを見せる。

「いいぜ……来いよっ」

 それは絶体絶命のこの状況を楽しんでいるようだった。

 連続で発射された四発の弾丸。

 それをレインは斬り払う。

 焦らなくていい。距離を詰めさえすれば、俺の勝ちだ。

 再度、一発発射。それを躱すと、ニクスはクロークに手を忍ばせた。

 リロード……違う、今する必要がない。これはフェイク。

 予想通り、次の瞬間には不意をついた二発が発射。刀で弾く。

 距離は数歩。残弾、一発。

 勝利目前。

 逸る気持ちをおさえながら、レインは一歩踏み出す。

 ニクスのクロークから発射された弾丸――いや、弾丸ではなかった。

 楕円形の何か。それを親指で弾いただけ。

 遅く、おおよそ当たっても怪我をするものでもない。

 集中力は切らしていない。何があるかわからないので、冷静な思考で、それを最小限の動きで躱し、前に出る。

 拡張斬撃の刃圏に入った。

 刀を構えるレイン。発射態勢に入るニクス。

 双方、最後の攻撃。

 魔力を込めた、強い弾丸。それが発射される。

 疾い。だが、荒い。

 狙いの甘さを見切ったレインはギリギリでそれを躱す。

 思わず、頬を緩ませながら、手に力を込める。

 その刀に魔力が纏われ『サーフィス』が斬撃範囲を広げる。

 俺の、勝――

 ――勝利を確信したとき。

 その刹那。

 脳裏の奥、突如として現れた、師匠の言葉。

 ――詰みと思われる状況になったときほど。

 それはまさに今。

 勝利を確信し、思考を閉ざしたその瞬間、天から突き刺さるようにやってきた。

 ――思考を巡らせろ。

 剣を振りながらも、思考を凝らし、目を見開く。

 そして気がつく。ニクスの目。それが跳弾を目的とした、奥への視線だと。

 何故。もう周りに木々は無いはず。

 脳を今、この瞬間を読み取るために、焼き切れるほどに回し、深みに入る。

 すると、まるで天から自分を眺めているかのような、俯瞰の視点が見えてきた。

 実際に天から見ているわけじゃない。

 自分が見た情報から算出された、ほぼ現実に近い想像。

 倒れた木々。その中央に佇む自分自身とニクスが見える。

 逆転の目はほぼ無い。跳弾するための障害物はなかった……先程までは。

 レインの後ろ。回転して宙を舞うのは、ニクスが放った硬貨。

 そして、発射された弾丸がそれに向かう。

 ニクスは作り出していた。空中に跳弾をするための、障害物を。

 背後から聞こえる、硬貨と弾丸がぶつかる音。

 すでに剣は振られている、避けられない。相打ちでいい。せめて、コイツの首をーー

 そう思った時、脳裏によぎる別の情景。

 小さな記憶。

 

 

「なあ、レイン」

 それは師匠、シャッジと訓練の合間、休憩中に交わした、特に覚えている意味を感じない、些細な会話。

「なんだ」

 シャッジは呆けた様子でこちらの顔を数秒見た後、どこか恥ずかしそうに耳の裏を指で掻いた。

「まあ……死ぬなよ」

 その言葉に、フンと鼻を鳴らして笑う。

「俺が死ぬように見えたか」

「いや。ただ、言いたかっただけだ。おし、訓練再開するか」

 

 

 ガキン、という金属同士がぶつかる音が響いた。

 それはレインが背面へと構えた刀が、跳弾した鉄球を防いだ音。

 振った刀をニクスへではなく、勢いを上へと流し、頭上を通り過ぎて背面に構えた。

 正確な着弾点はわからない。

 だから、おおよその射線を想像と音で考察。

 それに対して、なるべく体を横にして着弾面積を減らし、そして急所、うなじや背骨の部分を刀で守った。

 それが功を奏し、弾丸は防がれた。

 息はつかない。まだ勝利ではない。

 鋭い視線は、依然ニクスへと向かっている。

 対し、ニクスは満足気に笑い、両手を見せる。

「まいった、俺の――」

 一歩踏み出る。

 斬撃を拡張するまでもない、刃圏内だ。

 振るわれる刀。対し、ニクスは目を閉じる。

 その刃が喉を切り裂こうとした時、寸前のところで止める。

「質問をする、ニクス。答えろ」

 ゆっくりと瞼を上げるニクスは、フフっと笑った。

「どうした。命乞いすれば聞いてくれるのか?」

「黙れ。言われたことに答えろ」

 睨みつけながら、戦いのことを思い返す。「貴様……何故俺の急所を狙わなかった」

 ニクスの魔法の使い方は非常に拙く、そして雑だ。これに間違いはない。

 しかし、狙いは正確だ。

 でなければ跳弾を使いこなすことはできないはずだ。

 だというのに、ニクスが発射する弾丸は急所をうまく外していた。

 まるで、こちらの命を奪わないように。

 最初の時もそうだ。木の上から威嚇のように射撃して、その後にわざわざ降りてきた。

 遠距離系の魔法使いだ。降りずに、こちらが隙を見せた時に、後ろから撃ち殺せばいい。

「貴様はこの戦いを遊びと言っていた。だが、戯れだったとしても殺し合い。遊びがすぎる」

「いうとおりだが、男が本気で戦ったんだ、後からグチグチ言い訳はしたくねぇ。何にせよ、勝ったのはお前さんだぜ」

 返答はしない。

 ただ刀を首に押し当て、答えろ、と目で訴える。

 ニクスはため息混じりに息を一つ落とすと、何かを思い返すような表情で瞳を閉じた。

「エレイナって女がいたんだ。俺の女だ。こっちの世界にはいない……俺に、最初から生きてる意味なんて大してないのさ」

「理由になってないな」

「せっかくだから戦いを楽しみたいってのは本当だ。性分なんだろうな。だが、この彼女の居ない世界を、さっさと旅立ちたい自分もいる。だから、ゼノンに戦いを挑んだ。まあ、遠回しの自殺だな。それと引き換えに提案されたのは、イリオちゃんって女の子の拉致」

 険しくなるレインの表情に対し、ニクスは首を振って否定する素振りを見せる。

「もちろん、俺はそのイリオちゃんって子を逃がすつもりだった」

 驚きに変わるレインの表情を見ながらも、ニクスは続ける。

「いい歳した連中が何人も集まって、女の子一人を捕まえる。事情があるんだか知らねぇが、気が乗らなかった。隙を見て逃がしたら、言ってやるつもりだったんだ、俺がアイツらの相手をする、君は逃げなってな。そしたら、どうしてそんなことをするんですか? お名前はなんというんですか? なんて聞かれちまうだろうが、いやいや、名乗るほどのもんじゃない。かわいい子が連れてかれるのが、見てられなかっただけさ。おいおい、こんな爺さんに惚れないでくれよ。それに俺はエレイナっていう愛した……」

 喉元から刀が離れるのを見て、ニクスは口を閉ざす。

「俺との戦いで、手を抜いた理由は」

「手は抜いてない。全力さ。ただ、殺さないように気をつけた」

「それが手を抜いていると言っている」

「そうかい。理由は簡単だ。プリンスを守ってる若きナイトを、自分勝手な爺さんが間違ってでも殺しちまったら、エレイナに嫌われるだろ」

 おどけたようにニクスは首をすくめた。「逆に聞かせてくれないか。俺を殺さない理由は?」

 レインはちらりと一瞥した後、視線をまた前に戻す。

「第一に……大した理由じゃないが、口うるさい、面倒くさいやつがいてな。そいつから言われた。この作戦で、なるべく人を殺すなと」

「お気楽なやつだな」

「その通りだ。そしてもう一つ」

 そう返し、刀の切っ先を、ゆっくりと鞘の入口に添える。「俺の目的は強くなること。その過程で、手を抜いた奴からの勝利はいらない。貴様が遊びで戦うというなら、俺もそうする……これは遊びだ、命は取らない」

「勝ったのはそっちだ、好きにしな」

「言われなくとも、そうする」

 戦いの終わりを告げるように、刀が鞘へと収まる音が響いた。

 

 

「――イロ! ザイロ! 起きてよザイロ!」

 体を揺すられる感触があり、暗闇から意識がゆっくりと戻っていく。

 鼻腔を満たす地面の香りと、土の味を感じながら、うつ伏せの体を起こす。

 記憶は鮮明だ。ゼノンに倒され、そしてイリオを連れて行かれた。

 声でわかる。起こしてくれたのはリサだ。

「悪い、ちょっとあいつに――」

 視線をリサへと向けた瞬間、ザイロは言葉を失う。

 右腕は腫れ上がり、左手は赤く火傷を負っている。服も所々が焼け焦げ、そしてちぎれている。

「ああ良かった。生きてた」

 ほっと胸を撫で下ろすリサ。

 人の心配をしている場合か。

「お前、どうしたそれ! 誰にやられた!」

「今はいいよ、私のことなんか」

「今はって、お前……」

 ザイロは言葉をつまらせた。

 いいと言えるほどリサの様子は万全じゃない。

 だが生きている。確かに、イリオのことを考えたほうがいい。

 ゼノンはもうイリオを連れ去った。もしかしたらレインが――

「俺は行く。お前は酒場で待ってろ」

 自然と体がレインのいるであろう方へと進もうとした時、腕をリサに掴まれた。

「ちょ、ちょっとまって!」

「ダメだ待てねぇ! もしかしたら、アイツはゼノンと戦ってるかも知れない! 早くいかないと!」

 前に出ようとするも、力強いリサの腕に止められる。

「分かってるけど、お願いだから待ってって!」

「待てってお前――」

 振り返った瞬間、言葉が詰まる。

 リサの目。

 それが強い意思を訴えるように、真剣だったから。

「大丈夫、私に任せて。ゼノンは私が倒すよ。だから、お願い聞いて。これが最後だと思うから」

 

 

 体が不意に重さを感じる。

 肌が粟立ち、小さく、それでも確かに、恐怖で体が震えた。

 この他者を踏み潰すような魔力の根源は――

「何をしている」

 声がしてレインはニクスと同様、そちらを向く。

 いたのは予想通り、ゼノン。

 肩に乗せている縛られたイリオを、丁寧におろした。

「悪かったな。俺の都合で、邪魔しちまってよ」

 声をかけたのはニクスだった。

 ついさっき、生死の狭間で笑っていた男。

 その顔から、余裕は完全に消えていた。

 視線はゼノンに釘付けで、外せばその瞬間に殺される、とでもいうように。

 頬を、一筋の汗が伝う。

「俺が時間を稼ぐ……逃げろ。お前じゃまだ、アイツには勝てない」

 逃げろ。

 その言葉が、頭の中で何度も反響する。

 レインは動けなかった。

 ただ、揺れる瞳だけが、イリオを捕らえて離さなかった。

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