The Passenger: Rubicon High 作:クロームの灰
雪原に散らばったMTの残骸から黒煙が立ち上る中、俺はACを無理やり動かし、近場の廃墟──かつての採掘施設らしき巨大な影に滑り込んだ。
「……ハァ、ハァ……。クソ、体が重い。」
網膜に映るステータス画面には、獲得したばかりの報酬額が表示されている。
20,000 COAM。
この世界の通貨だ。ユーロドル(ed)の代わりに、俺はこのデジタルの数字で命を繋ぐことになる。
「たったこれっぽっちかよ。
計器盤の隅で、ジョニーが不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「文句を言うな、ジョニー。これがあれば、この『支給品』丸出しの機体を少しはマシにできる」
俺はオールマインドのメニューから「ACガレージ」にアクセスした。
暗く朽ちかけた格納庫の中に、俺の乗る機体が吊り下げられている。無塗装の無機質な装甲。どこまでも機能優先で、遊びも美学もない。
「……気に食わねえな。なぁジョニー、どう思う?」
「決まってんだろ。まずはその汚ねえ色をどうにかしろ。企業の飼い犬に見間違われるのは真っ平ごめんだ」
俺はカスタマイズ画面を操作し、装甲のカラーパレットを弄り始めた。
選ぶのは、あの街の夜を彩る、そして俺たちの因縁を象徴する色。
メインカラーは、鈍く光るガンメタリック。
そこに、ジョニーの情熱をなぞるようなメタリックレッドをアクセントに加える。
さらに、右腕のブレード基部には、俺の愛車だった「アーチ・ナザレ」を彷彿とさせるゴールドを細く入れた。
「……ほう、少しはマシになったな。だがV、それだけじゃ足りねえ」
ジョニーがニヤリと笑い、実体のない指でモニターの一部をハックした。
機体の左肩、そこに一つのエンブレムが刻まれる。
燃え盛る赤い髑髏──SAMURAIのロゴだ。
「おい……! それは目立ちすぎるだろ」
「上等じゃねえか。どこの誰だか知らねえが、俺たちをここに放り出した野郎に、中指を立ててやるんだよ」
俺は溜息をつき、そのロゴを確定させた。
塗り替えられた機体。
ここに、ナイトシティの傭兵が、舞い戻った。
その時、オールマインドを介して一通の「共同依頼」が舞い込んできた。
『……独立傭兵V。君の初陣は見事だった。我々数名の傭兵で、アーキバスの物資集積所を叩く計画がある。頭数は多い方がいい。取り分は山分けだ。……悪い話じゃないだろう?』
「共同依頼……? 妙に親切だな」
「ハッ、親切なのは葬儀屋か、裏切りを隠したい奴だけだ。……だがV、金がなきゃこの鉄屑もただの置物だぜ」
「わかってる。……罠だろうが何だろうが、ナイトシティで散々潜り抜けてきた。ルビコンのやり方、拝ませてもらおうじゃねえか」
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【ミッション:物資集積所襲撃】
指定された渓谷に向かうと、そこには既に二機のACが待機していた。
通信が入る。
『来たか、V。……ほう、随分と派手な塗装だな。ナイトシティのチンドン屋か?』
『……無駄口を叩くな。作戦を開始する。お前が先陣を切れ、V。実力を見せてもらおう』
俺は内心で舌打ちし、スラスターを吹かした。
敵の防衛線を突破し、目標のタンクを次々と破壊していく。……だが、おかしい。背後の二機が全く動いていない。
「ジョニー……」
「ああ。背中がムズムズしやがる。……来るぞ!」
直後、背後から放たれたレーザーキャノンが、俺の機体のシールドを掠めた。
『……騙して悪いが、仕事(ビジネス)なんでな。お前のライセンスと機体データ、高値で売らせてもらうよ』
『独立傭兵の座を奪い合う相手は、少ない方がいいんでね。……あばよ、新顔』
渓谷の出口を塞ぐように、二機のACが牙を剥く。
ジョニーがコックピットで、狂ったように笑い出した。
「ははっ! 最高だぜ! 期待通りのクソ野郎どもだ! おいV、聞いたか? ビジネスだとよ!」
「……ああ、聞き飽きたセリフだ。
俺は機体を急旋回させ、ブーストを全開にした。
赤いCパルスの火花が、雪原を紅く染める。
「ジョニー、リズムを上げろ。……この『ビジネス』、赤字で終わらせてやる!」
俺の意志に呼応し、機体からサンデヴィスタンの残像が噴き出した。
裏切りの対価は、高くつくぜ。