The Passenger: Rubicon High 作:クロームの灰
「……ハッ、期待通りのクソ野郎どもだ! おいV、聞いたか? 『ビジネス』だとよ!」
ジョニーがコックピットの計器盤の上で狂ったように笑い、実体のない中指を通信画面の向こう側へ突き立てる。
俺の網膜には、背後から放たれたレーザーキャノンの熱源警告が赤く点滅していた。
シールドが悲鳴を上げ、機体全体が衝撃で軋む。だが、俺の意識はそれ以上に冷え切っていた。
「……ああ、聞き飽きたセリフだ。デクスター・デショーンの時と同じだな。……だがな、ルビコンの野郎。一つ教えといてやる。……俺を売るには、弾が足りねえよ」
俺は機体を強引に反転させ、全スラスターをオーバーロードさせた。
赤い火花が、雪原を紅く染め上げる。
『なっ、あの損傷でまだ動けるのか!?』
『構うな、集中砲火で鉄屑に変えろ!』
二機のAC――企業から横流しされたであろう無骨な機体が、左右から挟み込むようにガトリングとミサイルをバラ撒く。
通常なら、逃げ場のない十字砲火。だが、俺の「感覚」は既に機体のリミッターを超えていた。
「ジョニー、リズムを上げろ……! こいつらに『死神』の正体を見せてやる!」
俺の意志に呼応し、バックパックから真紅の粒子が噴き出した。
「サンデヴィスタン……起動!」
世界が、粘りつくようなスローモーションへと変貌する。
降り注ぐガトリングの弾丸一発一発が、空中に停滞する鉛の粒に見える。俺はその弾丸の隙間を、流れるような機動で縫うように突き進んだ。
『消えた……!? レーダーからロスト! どこだ!?』
「……後ろだ、クソ野郎」
俺は一機目の背後に回り込み、右腕のパルスブレードを最大出力でチャージした。
ナイトシティでモノワイヤーを振るった時と同じ、無慈悲で正確な一閃。
青白い刃がACの分厚い装甲をバターのように切り裂き、動力源を直接貫く。
「まずは、一機」
――轟音。
背後で爆発する火柱をバックに、俺はそのまま二機目へと突進する。
相手はパニックに陥り、手当たり次第にバズーカを乱射するが、そんなものは当たらない。
ジョニーが機体内のスピーカーをジャックし、耳を劈くような激しいギターのリフを叩きつけた。
戦場に響き渡る爆音。それが俺たちの心臓の鼓動(ビート)になる。
「ジョニー! 通信回路を焼け!」
「へっ!良いざまだ!こいつのOSに、俺の極上の音をブチ込んでやる!」
ジョニーの「音」が敵機のシステムに入り込み、敵ACの動きが極端に悪くなる。
その隙を逃さず、俺は左腕のバズーカを敵のコックピットに直接押し当てた。
『ま、待て! 命だけは……! 悪かった、これはただのビジネスで――』
「……取引終了(チェックアウト)だ」
至近距離での一射。
敵の叫び声ごと、鋼鉄の巨躯が雪原に四散した。
静寂が戻る。
残ったのは、燃える二つの鉄屑と、大音量で流れ続けるジョニーのギターソロだけだった。
MISSION COMPLETE: ALL HOSTILES ELIMINATED
REMAINING AP: 45%
C-PULSE STABILITY: NORMAL
「……フゥ。……なぁ、ジョニー。ルビコンの奴ら、裏切り方も三流だな」
「全くだ。アラサカの幹部の方が、まだマシな嘘をついたぜ」
俺は、新しく塗り替えた赤い装甲を眺める。
そこには返り血のような煤が付着していたが、ジョニーの言った通り、企業支給品の銀色よりもずっと「俺たちらしい」色に見えた。
「さて、V。このゴミ溜めから使えるパーツを剥ぎ取って行こうぜ。……裏切りの対価は、きっちり徴収しねえとな?」