それでは、どうぞご覧ください。
ダンジョン第6層の7層連絡路付近にあるリガーデンベースキャンプでは、総合実習への準備が着々と進められていた。そこには当然、レイたちの姿もあった。
「コレット、私は貴女に声を掛けていないはずだが?」
「い、いいでしょ?ウィルが行くなら私もついて行くんだから!」
「……そうか」
「いいんじゃない?実力者が増えてくれるのは、このパーティーにとってプラスになると思うし」
「……それもそうだな」
それからウィルは、ルームメイトのロスティと話をしていた。
「魔工科の生徒はベースキャンプで待機になっちゃった……ごめんね、一緒に行けなくて」
「大丈夫!ロスティには、マジックアイテムを沢山用意してもらったから!」
「……気を付けてね」
そして……
「……時間だ。総合実習は別名『集中探索』……期間は一週間。通常の実習とは異なり、ダンジョンに籠るサバイバルだ」
「各フロアにはベースキャンプが配置されている。配られたマップを確認しておくように。実習の切り上げ及びリタイアの際は、必ず避難すること。我々教師が待機している」
「それではこれより、総合実習を開始する!」
総合実習の開始の宣言がされたのだった。
◇
「行くぞ!」
このパーティーのリーダーであるリアーナを先頭に、レイたちも一斉に駆け出していく。
「イグノール、任せる」
「あぁ――――メルヴァン」
「うわぁ!?」
リアーナの言葉を聞いたイグノールが、突風を背後から吹かせることで全員を加速させ、一気に第7層につながる穴まで辿り着く。そして、そのままその穴にパーティー全員が落ちていくかと思われたが、地面とぶつかる前に下から風が巻き起こり、地面との衝突は免れた……着地をする時に、ウィルは顔を地面にぶつけてしまっていたが……。
「行くよ」
「大丈夫?」
「う、うん」
すると……
『!』
ウィルたちの前に、クリムゾンアントの大群が現れたのだ。
(魔導士は懐に入られると弱い……僕が盾にならないと……!)
「必要ないよ――――リアーナ・オーウェンザウス……彼女の一族がなんて呼ばれているのか、知らないのかい?それに、彼の強さは君もよく知っていると思うが?」
「血統雷伝:騎士甲冑・雷装――――雷導!」
リアーナは自身とレイにエンチャントを施し、それと同時にレイは魔法で剣を2本生み出すと、それを二刀流のようにして両手に握った。そして、2人は雷のような猛スピードでクリムゾンアントに向かっていき……
「嘶け、雷精。我が使命とともに――――血統雷伝:騎士甲冑・雷装!」
「
クリムゾンアントの大群を一瞬で蹴散らしてしまったのだ。
「オーウェンザウスは騎士の家系……リアーナは魔導士の中でも稀有な、白兵戦魔法のスペシャリストだ。そして、君も知っているとは思うが、レイもリアーナに負けるとも劣らないほど白兵戦魔法の精度が高く、その分野の知識にも明るい」
そして、クリムゾンアントをレイと共に一掃したリアーナは……
「他の者と単位を奪い合うのは面倒だ。どのパーティーよりも早く先行する……行くぞ」
他のメンバーにそう声を掛け、先へと進んでいく。ウィルも次々と湧き出るモンスターを倒そうとするも……
「邪魔だ落ちこぼれ!」
「!」
(索敵が間に合わない……!)
ウィルの索敵範囲よりも、他の面々の探知範囲の方が広く、遅れを取ってしまっていた。そんな中、クリムゾンアントが上から奇襲を仕掛けてきたが……
「颶風の乱爪」
イグノールがそれを風魔法で切り刻むことで倒していく……が、さらに遠くからもクリムゾンアントの大群が迫ってきていた。
「!あんなに沢山……!」
ウィルが数の多さにそう呟くが……
「剣雨、剣弓、王剣召喚」
それをレイが3つの魔法を同時に発動させ、全てのモンスターを一掃したのだ。
「さすがだレイ、3つの魔法の同時発動とは……それに比べて、無能者は思った以上にお荷物だ。盾の役割分担すら果たせていない。これは私も、君の眼識を疑わざるを得ないかな、リアーナ」
イグノールはそう言い、リアーナの方を見ると……
「正確には盾になる暇がないだけだ。ファイブ・オーバー・エネミー相手には、力を発揮してくれる……ハズ」
「うっ……!?」
「だから今はお荷物でいい……ハズ」
「うぐっ……!?」
「きっと強い…………ハズ……」
「リアーナ、ストップストップ」
無自覚に言葉のナイフでウィルを刺しているリアーナを、レイはウィルがダウンしてしまう前に止めた。
「だから言ったじゃないか……探知も使えない輩など、お荷物になるだけだと」
ユリウスはそんなやり取りを見て、自身の杖に魔素を吸収させていた……魔導士の杖というのは一種の記憶媒体となっており、倒したモンスターの魔素を吸収させることで、どれだけの単位を獲得したかが分かるようになっているのだ。だが、それに対して魔素を吸収させる手段を持たないウィルは……
「ちょっと待って!まだドロップの収集が――――」
「そんな価値のないドロップ、わざわざ持ち帰る必要はない」
こうしてドロップを持って帰らないと単位を獲得したとは認められず、それに時間がかかってしまうことからダンジョンでパーティーを組むと嫌われてしまうのだ。
「来るからには無様を晒すな、落ちこぼれ」
シオンもウィルの傍を通る時にそう口にすると、リアーナたちに続いて先へと進んでいった。
「ウィル、大丈夫?」
コレットが心配そうに訊くも……
「こうなることは、最初から分かってたし……僕は別のところで、みんなの力になれるようにするよ」
ウィルはそう言ったものの、幼馴染のレイを始めとしたパーティーメンバーが優秀過ぎるせいで、ほとんど何もさせて貰えないまま時間だけが経ち……
「総合実習が始まってもう1日……そろそろ休憩を挟みたい」
「こんなところでかい?上等な宿とまでは言わないが、気が休まるくらいの安全は欲しいな……」
ユリウスが周りを見渡しながらそう言うと……
「なら、炎の砦でも築くとしよう――――
イグノールが幻想魔法で周りに炎の壁を作り出したのだ。さらに……
「念には念を入れた方がいいよ……剣界」
レイが無数の剣で炎の砦の周りを囲み、その防御を盤石のものにした。
「凄い……これもエルフの幻想魔法?」
「うん、そうみたい。炎自体は幻だけど、いきなり炎の領域が生まれてモンスターたちも警戒している。それにレイの剣界もあるから近づいてこない……もし近づいて来たとしても、剣が迎撃してくれる」
ウィルとコレットがそんな話をしていると……
「ウィル・セルフォルト、渡しておいたレーションを皆に配ってくれ」
「!あぁ、うん」
リアーナにそう声を掛けられた。ウィルはすぐにレーションを人数分出すと、それを順番に渡していく。そして、イグノールにも渡そうとしたが……
「それ以上、近づかずに地面に置いてくれ」
「えっ?」
「エルフは認めた者にしか肌を許さない。誤って君と接触したくないんだ」
「ちょっと!私たちはパーティーでしょ!?そんな言い方ないじゃない!!」
イグノールのその言いように、コレットは怒りながらそう言ったが……
「君たちは魔導士、そして私はエルフだ。諦めてくれ。このパーティーで認めているのは、リアーナとレイだけだよ」
それを見かねたレイは……
「ウィル、僕がイグノールに渡すよ。それならイグノールも問題ないでしょ?」
「!あ、あぁ、もちろんさ」
レイはウィルからレーションを受け取り、それをイグノールへと渡した。
「っ……」
「コレット、喧嘩はよそう」
「で、でも……」
「いいんだ。エルフは文化も慣習も違う……僕は大丈夫だよ」
エルフはドワーフと同じく異界から移住してきた種族ではあるものの、ドワーフとは違って魔法が使え、長寿かつ高い魔力を持つ魔法種族であることから、尊敬の念を集めているのだ。それからレーションも食べ終わり、それぞれが休憩していると……
「今後の予定を共有しておく。最優先目標は『赫灼のナベルス』……単位数110、たった1体しか出現しない10層のフロアキーパーを討つ」
「110……実習の中でも最大単位……!」
「奴に挑んで犠牲者が出るのも恒例と聞く……間違いなく総合実習のボスだ」
「私がこのパーティーを作ったのは、ナベルスを討つためと言っていい。単位数110を倒す程度の実力がある――――塔にそう誇示したい」
「乗りかかった船だ、途中で降りるつもりはないさ……ただ、前菜は無視して先にメインディッシュからいただくのかい?」
そんなイグノールの疑問に……
「魔力を温存した万全の状態で挑むため、でしょ?」
レイは迷いなくそう答えた。
「レイの言う通りだ。他のモンスターはその後……異論が無ければ、ここからは最短距離で10層に向かう」
リアーナの話に対し、誰からも異論が出ることもなかったため、休憩を終えた一同は10層へと進んで行った。そうして何事もなく10層に到着したのだが……
「……何だこれは?さっきからあちこちに、モンスターの死骸が転がっている……他のパーティーの仕業か……?」
「いや、それはありえない……」
「ベースキャンプに寄らず、最短距離で来た……僕たちより先行している生徒なんているはずがない」
そんな状況を見て……
「「……」」
「何をしてるの、ウィル、レイ?」
ウィルとレイは地面に転がっているモンスターの死骸を見ていた。
「これは……」
(この傷……魔法でやられたものじゃないな。純粋な力で倒されている……)
「ナベルスが出現する部屋は、この先だ」
そんな異様な光景を見ながらも、リアーナとレイを先頭にして先へナベルスの出現するという部屋へ進んでいくが……
「……おかしい」
「レイ?」
「この先にあるはずの魔素の反応が薄い……」
真理眼でナベルスの反応を見たはずのレイだったが、フロアキーパーにしては魔素の反応が薄いことに疑問を覚えながらそう呟いた。
「えっ?」
「何でそんなことが分かる?」
レイの真理眼のことを知らない面々は、そんな反応をしたが……
「信じていいと思う」
「リアーナ?」
「どういう意味だい?」
「……今は先に進もう。答えは、直に分かるだろうからな」
リアーナは何やらレイの言葉の意味を分かっているような発言をし、先へと進んでいく。そうしてナベルスのいるとされる部屋に辿り着いたのだが……
「なっ……!?」
「こ、これは……!?」
そこには何者かに惨殺されたナベルスの死骸が転がっていた……。
「探知を!」
リアーナは全員に探知を使い、辺りに危険な存在が潜んでいないかを確かめるように指示した。
「どういうこと?」
「魔素が霧散し切っていない……!」
「殺されて間もない……!」
「フロアキーパーの惨殺だと……!?」
「誰がこんなことを……!」
予想だにしない事態に混乱するリアーナたちだったが、レイとウィルはそれぞれ感覚を研ぎ澄ませて索敵を始めており、レイはそれに真理眼を加えて魔力の反応がないかも探っていた。すると……
「「!上だ!!」」
索敵を行っていた2人が同時に上を見ながら声を上げる。2人以外もそれに釣られて上を見た。そこには……
『!?』
この層ではまず出現することのない、悪魔のようなモンスター――――イヴィル・グランドデュークが口にエネルギーを溜めて今にもレイたちに放とうとしていた。
「くっ……!」
「レイ!?」
溜められたエネルギーはレイに向けて放たれ、レイはそれを剣をいくつも上に向けて重ねることで防ぎ……
「はぁっ!!」
何とかその攻撃を跳ね返したのだ。それはグランドデュークには当たらず、明後日の方向に飛んでいき爆発した。
「一体、何が起きているんだ……!?」
そう呟くイグノールに……
「イグノール!!」
「っ!!」
グランドデュークの手が襲いかかろうとしたが……
「ぐっ……!?」
レイが咄嗟にイグノールとモンスターの間に剣を飛ばし、ダメージを軽減しようとした。結果としてダメージは軽減されたものの、イグノールは衝撃で吹き飛ばされて地面を転がった。
そして、それを見た他の面々が魔法を放とうとしたが……
『!?』
その前にモンスターに地面を崩され、10層よりも下――――塔の上位魔導士だけが入れる領域である第11層へと、全員落とされてしまった……。
読んでくださり、ありがとうございます!
第10層から第11層へと落とされてしまったレイ……ここからどう行動していくのか……。
それでは、次回の話もどうぞよろしくお願いします。