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エドワルドの補習から数日後……
「よぅ、ウィル。今日も早いな?」
「!おはよう、ドナンさん」
「新聞配達頑張れよ?ジーナの店にも行くからな」
「待ってます!」
ウィルはスラムランド・ストリートで新聞配達のバイトをしていた。そうして配達をしていたウィルだったが……
「っ!?」
途中で階段に躓き、新聞を地面に落としそうになってしまった。だが、ウィルはその身体能力の高さで新聞をほとんどカバンに戻し、落ちそうになっていたキキを救出した……が、
「あちゃー……」
一つだけ地面へと落としてしまった。ウィルはその新聞を拾おうとしていたが……
(『氷姫の杖』エルファリア、新たな魔法を創出。個人での12の魔法創出は初の快挙……頑張ってるんだな、エルフィ……僕も頑張らなくちゃ)
その新聞にはウィルとレイの幼馴染であるエルファリアについての記事が載っており、ウィルはそれを読んで自分のように嬉しい気持ちになっていた。それからその新聞をカバンに入れようとしたが……
『ナッ!』
「ん?」
(それに伴って、上院から学院に
「――――って、えぇーーー!!?」
◇
「確か、フロストウォーカーは4層に――――」
一方で、エルファリアの勅命のことを知ったレイも、履修している授業もなかったため、ウィルよりも一足早くダンジョンへと向かった……レイがダンジョンに来た目的は、エルファリアの勅命のこともあるが、同時に実戦経験を多く積んでおくそうして到着したダンジョンの第4層では、既に学院の生徒たちがフロストウォーカーを狩っているところだった。
「ここは直に狩り尽くされる……なら――――」
レイは生徒たちがいるところよりもさらに奥へと進んでいく。すると……
「た、助け――――」
「!」
そこで複数のモンスターに襲われている女生徒を見つけたのだ。攻撃魔法では間に合わないと判断したレイは……
「
「えっ?」
すぐさま数本の剣を女生徒の前へと守るようにして放った。そして、その剣にモンスターが触れると……
『!?』
斬撃がモンスターたちを襲い、一瞬のうちに全滅させてしまったのだ。レイの使う防御魔法である剣界は、剣を刺した範囲に結界のようなものを張り、その範囲内に入った敵を自動的に迎撃する防御とカウンターを兼ね備えたものとなっている。
「一体、何が……それに、今のは剣……?」
助けられた女生徒は、何が起きたのかが分からないといった様子で呆然としていた。
「大丈夫?」
「は、はい!助けてくださり、ありがとうございます!」
「僕はレイ・セルフォルト……君は?」
「アイリス・チャーチルです!」
するとそこに……
「レイ!」
「ウィル?」
『ナッ!』
先ほどの戦闘音を聞きつけたのか、ウィルとその使い魔であるキキが合流してきたのだった。
◇
「この世界において、新たな魔法の創出は大きな意味を持つ。無条件で塔への進学が決まるほど讃えられる功績であり、偉業だ」
その頃、学院ではワークナーによる授業が行われていた。今は魔法の創出について説明しているところだ。
「新たな魔法は、創出した人物やそれに縁のある言葉が使われる――――つまり、諸君の中から新たな魔法を創出する者が現れれば、歴史に名を残すことができる……というわけだ」
「聞くだけなら簡単だけど……」
「塔に行く方法としてはな……」
授業を受けている生徒たちがそんなことを口にしていると……
「ワークナー先生!それじゃあ、今朝の新聞に載っていたエルファリア様って、凄いんですか?」
コレットの友人であるロゼ・ブレナイトが、ワークナーにそんな質問をしたのだ。
「そうだな……言葉を選ばずに言うなら、めちゃくちゃ凄い。信じられないほどにな、個人が12の魔法を創出するなど、私も聞いたことがない。その点で言うなら、彼女は長い歴史の中でも最も偉大な魔導士と言えるだろう」
「へぇ……!」
さらに続けて……
「ならワークナー先生、レイも既に新しい魔法を創出しているってことですか?」
別の生徒が、レイのことについて質問をした。
「彼の場合は、最初から特殊な魔法を持っていたからな……だが、それを発展させた魔法も自身で創り出していることから、そうと言えるだろうな」
「す、すげぇ……」
「さすが天剣の杖だな……!」
周りの生徒たちが、改めてレイの凄さを感じている中……
「本当に凄いのね、ウィルが追いかけている幼馴染って……勅命が出されて、学院中が賑わってるし……それにレイも、学生であの実力だし……」
(あれ?なら何でレイは、まだ塔に行っていないんだろう……?)
コレットは当然とも言える疑問を浮かべていた。すると……
「あっ、コレットが乙女の顔してる〜!」
ロゼがコレットの方を見て、何故かそんなことを言ってきたのだ。
「乙女って、何を言ってるのロゼ?」
「エルファリア様やレイに嫉妬してたんでしょ?特にエルファリア様に対しては『凄い幼馴染に、ウィルが取られちゃう!』って?」
「なっ!?何を馬鹿なことを――――」
コレットは思わず立ち上がって言い返すも……
「そこ!何をしている?授業中だぞ」
「ご、ごめんなさいワークナー先生!」
「ごめんなさーい……怒られちゃった!」
「もぅ……」
ワークナーに注意されたことで、授業へと戻るのだった。
◇
「ウィル!」
「うん!」
4層の奥へ行く道中に出たモンスターは、前衛のウィルと後衛のレイの息の合ったコンビネーションで次々と倒していっていた。
「す、凄い……」
その光景に、アイリスは目を丸くしながら驚きの表情を浮かべる。
「じゃあ、レイ先輩が天剣の杖で、あのウィル先輩が
「な、何それ?初耳なんだけど……?」
「ぜ、前代未聞……それより先輩って?」
「私、14なんです」
アイリスは2人よりも2つ歳下、学院の四年生にあたる。
「えっと……君はなんとも思わないの?」
「?」
「君が言ったように僕は無能者だから、その……軽蔑とか……」
「ウィル……」
それに対し、アイリスは……
「あの戦いを見て、どうして侮辱できるんですか?」
「えっ?」
「たとえ魔法を使えずとも、能を有する方を私は心から尊びます!」
「「!」」
心からの言葉をウィルに向けて言った。レイはウィルのことを軽蔑しないアイリスの言葉を聞いてか、少しだけ嬉しそうな表情を見せ……
「えっと、あ、アイリスも勅命のために来たの?」
ウィルも普段は学院で投げかけられることのない言葉を聞き、少ししどろもどろになりながらもそう尋ねた。
「はい!至高の五杖様のお役に立ちたくて!私も空を支える一員になりたいんです!」
アイリスの言うことは間違っておらず、実際に今この世界の人々が見ている空は偽物で、天上の侵略者たちから世界を守護するための大結界なのだ。そのため、至高の五杖が空を支えていると言っても過言ではなく、学院の生徒たちも勅命に応えることでその助けになろうとしているというわけだ。
「先輩方!実は私、エルファリア様とお会いしたことがあるんです」
「!」
「えっ、本当?」
どうやらアイリスは、前にも絶体絶命の状況に出くわしたことがあり、そんな時にエルファリアに助けてもらったという。
「あぁ〜、エルファリア様〜!あなたのためなら一生懸命尽くします〜!」
「あ、あはは……」
「すっかり心酔して――――ん?」
すると、キキが突然ウィルの肩を降りて、あるものを見つけていた。それを見たウィルとレイは、すぐさまキキのところへと近づいていく。
「キキ?」
『ナッ!』
「!これは……」
「うん、いるね」
「先輩方、どうかしたんですか?」
アイリスが急に真剣な表情になった2人に声をかけると……
「フロスト・ウォーカーは移動した軌跡に氷片を残すんだ。普通は0.5ミールから1ミール……だけど、ここに残ってるのは倍以上……」
「つ、つまりは……」
「……確実に大物がいる」
「お、大物?」
「おそらくだけど、サーチが引っ掛からない場所に――――やっぱりいた」
レイも真理眼で何かを見たのか、ウィルと共にアイリスを先導するように奥へと進んでいく。
「ま、待ってください!ウィル先輩は魔法が使えないんですよね?それにレイ先輩も、何もない場所を見ただけで……なんでそんなことが分かるんですか?」
アイリスが歩き出した2人を追いかけながらそう訊くと……
「魔法はすごいけど、絶対じゃないと思ってる。特にダンジョンの中では……そして、こんな僕でも知識と知恵、あとは経験で埋め合わせられるって、そう信じてる」
「経験……レイ先輩は――――」
「来るよ!」
レイがそう言った直後、3人の頭上から巨大な氷塊のようなものが落ちてきた。それをウィルはアイリスを抱え、レイは無詠唱で剣界を展開して防御しながら回避した。
「あれは……フロスト・レックス!?」
「この眼で見た通り――――」
「うん、大物だ!」
フロスト・レックス……フロスト・ウォーカーの上位種にして、単位数6の
フロスト・レックスは正面についている大量の目のうちの一つから、冷凍砲を3人に向けて放った。その攻撃はレイの剣界によって阻まれ、3人とも無傷で済んていた。
「レイ、アイリスのことお願い」
「分かった、こっちは任せて」
「えっ!?だ、ダメです!フロスト・レックスには物理攻撃が効かない!触れた瞬間、凍てつかせられる近接厳禁の『ドワーフ殺し』!遠距離から魔法を撃つしか対策はありません!ウィル先輩じゃ――――」
「ウィルなら大丈夫だよ」
「で、でも――――」
「ウィルはもう……あいつを何度も倒してるから」
アイリスの心配を余所に、ウィルはルームメイトで魔工師志望のロスティからもらったマジックアイテムを腕に装着し、フロスト・レックスへと駆け出していく。フロスト・レックスは向かってくるウィルへと冷凍砲を放つが、ウィルはそれを高く飛び上がって背後をとる。それからウィルは、フロスト・レックスの真下をスライディングしながら通り抜けており、フロスト・レックスはウィルの姿を見失ったのか、冷凍砲を当てずっぽうに連射し続いていた。その隙に……
「っ!」
ウィルはフックが付いた三つの球を、フロスト・レックスの背後へと目掛けて投げた。それはフロスト・レックスの後ろの部分に引っかかり、それを見たウィルはさらに、ロープを何十回もその身体のいたるところに巻きつけていく。
段々と動きを封じられていくフロスト・レックスだが、抵抗して辺りに霜を発生させたが……
「はぁ………っ!!」
ウィルは息を吐きながら、腕についていたリールを思いきり回転させた。それによる摩擦で熱が発生したことで炎がつき、巻きついたロープを導火線のように走る。そして炎は、フックについている三つの球に吸収され……
「
爆炎を放ちながら大爆発を起こしたのだ。その爆発に巻き込まれたフロスト・レックスの姿は、既にたくさんの氷塊へと変わっていた。
「おっと……さすがロスティのマジックアイテム……あとでお礼を言わなきゃ」
そして……
「2人とも!たくさん採れたし、そろそろ帰―――」
「避けて!!」
「「!?」」
そうして帰ろうとしていた時に、またしても頭上から新たな刺客が現れた。その刺客というのが……
「ふ、フロスト・ゴーレム……!?」
(フロスト・レックスと同じ強敵区分にして、単位数10……フロスト・ウォーカーの変異種の1つ……!)
頭にたくさんの目がついた氷のゴーレムだった。フロスト・ゴーレムは、周りに向けて全ての目から無差別に冷凍砲を放った。もちろん、そのうちのいくつかが3人へと迫るも……
「剣界」
レイの魔法によって防いだのだ。
「ウィル、選手交代だよ」
「レイ?」
「ここは僕がやる……それに試したいこともあるし」
レイはそう言うと、ウィルたちに剣界による結界を張り、フロスト・ゴーレムに向けて歩みを進めていく。フロスト・ゴーレムは近づいていくレイを見て、今度は拳も飛ばしてきた……が、
「……効かないよ」
それを剣界によって防ぎ、同時に剣雨で反撃までも行っていた。
「2つの魔法を同時に……それに無詠唱で……!」
「やっぱり、凄いなぁ……」
その光景にアイリスは驚きの表情をしており、ウィルもまるでレイに憧れているような表情をしていた。そして……
「もう終わらせようか」
レイは杖を上に向けると……
「――――
巨大な1本の剣を召喚し、その剣をフロスト・ゴーレムに向けて振り下ろした。それによって、フロスト・ゴーレムは抵抗する間もなく真っ二つになり、その姿を氷塊へと変えた。それを確認したレイは危険がないことを確認し、2人に張っていた剣界を解除するのだった。
◇
(剣を創り出す魔法だとは聞いていたけれど、まさかあれほどの実力をつけているとは……加えて高い戦闘能力に、2つ――――いえ、それ以上の数も可能と見られる無詠唱の魔法発動、見えないはずのフロスト・レックスの位置を見つけた手段……一体、どんな方法で……?
それにウィル・セルフォルト……魔法が使えないが故の創意工夫に、経験から裏付けされた戦場の嗅覚……確かに彼は魔導士などではなく、有能な戦士)
ダンジョンから出てウィルとレイの2人と別れたアイリスの姿は、何故か
「失礼します」
その中に入っていくと、そこには……
「お時間をいただいてよろしいでしょうか……
魔導士ならば誰もが一度は憧れる存在……至高の五杖の内4人――――『
「お取り込み中でしたか?」
「いいや、いつも通り形だけの退屈な会合さ……今、結界を突破されたら世界は滅ぶ」
「結界の向こうで、今も俺達を見てやがる天上の侵略者ども……奴らとやり合うには力も数も足りやしねぇ」
「来る日のためにより多くの優種がいる。伝承の実現は許されない」
「そっちはどうだ
発掘機関……それは、学院の教育過程だけではあ掬いきれない有能な人材をスカウトする機関で、普段は学生に紛れて視察を行っている。アイリスもその1人で、今回も視察としてダンジョンに訪れていた。
「学院を視察中、面白い人材を発見しました……魔法が一切使えない無能者、ウィル・セルフォルト。彼を塔の一員に推挙します」
アイリスは早速、ウィルの名前を挙げたのだが……
「論外」
「去ね」
「面白ぇ!」
「……」
半分は否定的な反応を示していた。
「はぁ……これ以上、私の周りに劣種を増やすな。不愉快極まりない」
「頭が硬ぇな、てめぇらは?俺は使えるならドワーフだって使う」
「無法の蛮族が……何故、貴様のような男がここにいるのか、未だ理解に苦しむ」
ゼオとエルノールは、それぞれ雷と風を出しながら牽制し合っていたが……
「やめなよ2人とも。どちらにせよ、早る必要なんてない……すぐに魔導大祭もある。その結果を見てからでも、判断は遅くないだろう?」
キャリオットの言葉に、その矛を収めた。
「あぁ……使える野郎は勝手に這い上がって来る。這い上がってこれねぇならそれまでだ……これで中身のない会合は終わ―――」
「それともう1人」
「あ?」
「『天剣の杖』レイ・セルフォルト」
「……!」
「天剣の杖……噂には聞いたことはあるが……」
「強ぇのか、そいつは?」
「はい……少なくとも学生――――いえ、そこらの上級魔導士以上には。さらにあの様子では、まだまだ伸び代もあるでしょう」
そんなアイリスの言葉に……
「ほう……」
「発掘機関の君にそこまで言わせるとはな」
「そんなやつがいんのか!」
エルノール、キャリオット、ゼオは興味を持っているようだ……。
「なら、そいつにも注目しておくとしよう」
ゼオはそう言い残し、雷を纏いながら今度こそこの場から去っていった。それに続いてエルノールとキャリオットも、それぞれ風と炎を纏いその姿を消していった。
「あなたが話してくれた少年たち、面白いですね……エルファリア様」
エルファリアは生み出した氷を浮かべ……
「ウィル、レイ……ずっと待ってる」
そう言って、微笑むのだった。
読んでくださり、ありがとうございます!
今回はレイの新たな魔法と、エルファリア以外の至高の五杖にレイが本格的に認知される話をやっていきました。次回からは、魔導大祭編に入っていきます。
それでは、次回の話もどうぞよろしくお願いします。