それでは、どうぞご覧ください。
ある日の実技で、ゴーレムを倒すという内容の試験が行われていた。その試験では……
「シオン・アルスター!コレットロワール!共に合格!」
シオンが炎の竜巻で、コレットが岩の弾幕でゴーレムを難無く撃破していた。現時点での単位数はシオンが9889、コレットが7340となっている。この試験にはもちろんウィルも参加しているが……
「おいおい、何してるんだ?」
「学院の生徒とあろう者が殴りかかるつもりか?杖はどうした!」
「っ!」
その言葉に一瞬動きを止めてしまい、ゴーレムの攻撃を受けてしまっていた。
「ゴーレムに傷一つつけられないとは!」
「さすが『筆記のみの優等生』実技の万年落第生!」
周りの生徒たちがウィルのことを笑い者にしていると……
「全く、何でこんなのが学院にいるのか――――」
「王剣召喚」
『っ!?』
「……」
「!れ、レイ・セルフォルト、合格!」
レイが一撃でゴーレムを撃破していたのだ。ゴーレムがいた場所には轟音と土煙が舞っており、以前よりも上がったレイの実力に生徒たちは言葉を失う。だが……
(まだだ……もっと魔力の消費を抑えないと――――)
レイ自身は全く満足していなかった。ちなみにレイは既に、10060の単位を獲得している。続いて、他の場所では……
「
「
「リアーナ・オーウェンザウス!イグノール・リンドール!共に合格!」
リアーナが雷の矢で、そして、魔法種族であるエルフのイグノール・リンドールが竜巻でゴーレムを撃破したのだ。現時点でリアーナは10100、イグノールはそれに次ぐ10075の単位を獲得している。さらに……
「ふっ……」
氷魔法の使い手であるユリウス・レインバーグも、周りのゴーレムに向けて無数の氷塊を放つと……
「――――凍てつけ」
着弾した部分から氷の薔薇を咲かせ、そのまま他の生徒たちのゴーレムまでも氷漬けにしてしまったのだ。
「ユリウス・レインバーグ!合格!」
ユリウスは現時点で単位数10048を獲得しており、単位10000を越えている4人が学院のトップ4と呼ばれている。
「皆、腕は落ちていないようだな」
「落とす理由もないさ……もう宴の時期も近い――――それに、レイはまた実力を上げたようだしね」
「そうだな……一体、いつの間にあんな魔法を創ったんだ?」
「それは私も興味があるな」
リアーナとイグノールは興味深そうに、レイへと訊いた。
「完成したのは最近だよ。でも、あの魔法は魔力消費が激しいから、もっと消費を抑えないと……」
そんなことを話していると……
「リアーナ、イグノール、レイ、先に宣戦布告しておこう……新たに手に入れた私の秘宝で、今度こそ君たちに土をつけてやろう」
そう言ってユリウスは、氷の薔薇を生み出すと……
「手袋代わりだ、受け取ってくれ」
3人に向かって投げたのだ……が、それをイグノールが風で切り裂いた後、リアーナが雷で粉々にしていた。
「……」
「楽しみにしているよ、ユリウス」
「じゃあ、僕もこの辺で」
2人はこの場から立ち去って行き、レイはウィルのところに向かっていった。
「すげぇ……さすが上院確定組」
「完璧才女と妖聖閣下イグノール様……!」
「そして、天剣の杖……!」
「単位数10000越えなんて、ユリウスを入れて4人しかいないぜ」
「……ふん」
周りの生徒たちがそう言うのに対し、シオンは面白くなさそうな表情をするのだった。
◇
「ウィルも魔導大祭でスカウトされるしかない!」
「え?」
昼休み、コレットが食堂でトレーを置きながらウィルにそう言った。
「やっぱり、筆記と実習だけで上院に進学なんて現実的じゃないもの……単位が7200未満でも、その場でスカウトされて塔を登った生徒の実例もあるし……」
「まぁ……確かに……」
魔導大祭の開催されるこの時期になると、生徒たちは大祭で活躍して一発逆転で塔に登ろうと殺気立っている……そもそも魔導大祭は、このリガーデン魔法学院で2年に一度開かれる祭典で、様々な競技が行われると同時に塔からはスカウト目的で上級魔導士たちがやってくるのだ。
「いい、ウィル?魔導大祭は実質、塔の各派閥による生徒争奪戦!上院への進路は、ほぼここで決まると言っても過言じゃないわ!中でも、雷公の杖、妖聖の杖、炎帝の杖、氷姫の杖……光皇の杖を除いた現至高の五杖の率いる四大派閥――――このどこかに指名されれば、塔の一員は確実!」
「学院の卒業過程を無視して引き抜かれるなんて、そうそうないよ。それこそ、上級魔導士顔負けの魔法を披露するとかしないと……」
「でもでもそれだけじゃなくて、魔導大祭には発掘機関が現れて、優秀な人材を塔に攫って行っちゃうって噂も!」
「発掘機関って……それ、学院の七不思議でしょ?」
ウィルは信じていない様子だが、ウィルは既に発掘機関に会っているということを、本人は知るよしもない……。
「魔法の祭典に無能者が出しゃばっちゃいけない……僕は今年も裏方、大祭の準備を手伝うよ」
「今のウィルを見れば、みんなの見る目も変わりそうだけど……」
「ありがとう、コレット。でも、僕が出ると運動会になっちゃうから……2年生の時、それで酷いことになっちゃったし」
「史上最低最悪の第50回大祭……あの時はまぁ、確かに……」
「あの時悪目立ちしちゃって……すっかり、トラウマになってるんだ」
そう言ってウィルは、最後の一口を口に運ぶのだった。
◇
「レイ、私と
「え?」
一方でレイは、リアーナからあることに誘われていた。それは魔導大祭でも注目競技である『奪冠』に、一緒に出て欲しいというものだった。それに対するレイの回答はというと……
「それはいいけど――――」
「いいのか?」
ほぼ即答だった……それを聞いたリアーナは、まるで魔法を使っているような速さで、目を輝かせながらレイに顔を近づける。
「あ、うん……でもその前に理由を訊いても?」
「!そ、そうだな……」
レイの言葉に、リアーナは椅子に座ってから軽く咳払いをすると……
「今年の総合実習のパーティーに誘う時にも言おうと思っていたことだが、レイには先に言っておく……私はイグノールやユリウスたちも利用して、首席で塔に登りたい。私は今以上の評価と価値、そして未来を欲している」
「……」
「君も知っての通り、私の家はオーウェンザウス……総じて短命の一族だ。私は圧倒的な功績を挙げ、一族の没落を防がなくてはならない。ただ塔に登るだけではなく、必要とあらば至高の五杖に至らなければならない」
「だから今回、僕のことも利用したいってこと?」
「……まぁ、そう捉えてもらっても構わない……レイに関しては少し違うのだが―――」
「リアーナ?」
「!いや、何でもない……それで、本当にいいんだな?」
「いいよ。それに僕も、リアーナの考えは分かるし」
「感謝する……さて、問題は残り1人をどうするかだが……」
奪冠は3人1組のチームで挑む競技かつその3人の単位の合計が21000以上ないと出場できないという制限が設けられているのだ。現在の2人の単位の合計は20160で、参加条件である21000にはあと少し足りない……だからと言って生半可な実力の生徒をチームに入れれば、レイとリアーナの足を引っ張ることになるため、もう1人も単位を多く獲っている実力者である必要があるのだ。
「……一応、何人か宛てはある」
「本当か?」
「けど、必ずしも誘いに乗ってくれるかは分からない」
「ふむ……分かった。私の方でも探しておこう」
「ありがとう、助かるよ」
こうしてレイは、リアーナのチームで奪冠に出場することになるのだった。
◇
その日の夜、魔導の央都の場末『スラムランド・ストリート』にある『雌鳥と豆の木亭』という酒場では、ドワーフの鉱夫たちが酒を飲んで騒ぎ、笑い声を響かせていた。
「ウィル、持っていきな!ゲラール豆のソテー、上がったよ!」
「はーい、ジーナさん!」
ここはウィルがバイトをしている酒場であり、ジーナというドワーフが経営している店だ。
「お待たせ、ドナンさん」
「おう、ありがとなウィル!しっかし、お前も大変だな?朝は新聞配達、昼は学生、そして夜はジーナの店で給仕」
「あはは……僕は奨学金を貰えないので、バイトをしないと学費を支払えないんです」
ドナンと呼ばれたドワーフは酒を飲むと……
「そういやもうすぐあれがあるだろ?なんてったか……そう、魔導大祭!それに出れば何とかなるんじゃないか?」
「いやいやいやいや!本っ当に出ないですって……」
ウィルにそう言ったのだが、本人は昼間にコレットに話していた通り、大祭に出る気はないようだ……。
「くっちゃべってないで仕事しな、ウィル!!」
「は、はい!」
「相方の方がよっぽど働いてるよ」
そのジーナの言う相方たちというのが……
「3番テーブル、お待ちどおさま」
「ありがとな」
「こっちおかわり頼む」
「承りました」
ウィルのルームメイトであるロスティが、手伝いとして来てくれていた。
「おっと……ごめんロスティ、手伝ってもらって」
「魔法を使わない労働って、新鮮でだからいいよ。それに、ルームメイトのピンチだからね」
「店員が1人辞めちまってね……バイトをもう1人くらい連れてきておくれよ?そういやレイは今日どうしたんだい?」
「レイは魔導大祭に向けて修練するって……」
そんなやり取りをしていると……
「ジーナさん、こいつがもう1人分働きますよ!」
「ウィルならできる!」
「えぇ……」
「なんてったって、俺たちドワーフの兄弟なんだもんな?」
『ハハハハハハ!!』
「皆さん、勘弁してください!!」
酔っ払ったドワーフたちが、ウィルのことを囲んで笑いながらそう言ってきたのだ。それから少し時間も経ち、客の数もまばらになってきた頃……
「ウィル、ドワーフたちの給金は高いわけじゃないんでしょ?ワークナー先生だったらもっと、割のいいバイトを紹介してくれるんじゃ……」
ロスティはウィルと皿を洗いながら、そんなことを尋ねていた。
「ワークナー先生には、散々迷惑かけてるから……それに、僕はドナンさんたちが――――ドワーフたちが好きだよ。豪快で、お酒が好きで、手先も器用で、こんな僕を温かく迎えてくれた……僕は、ドワーフのことを尊敬してる」
「そっか……」
その時――――
「何だこの下劣な店は?」
「ごめんユリウス!他の店は空いてなくて……」
何故かユリウスとその取り巻きたちが、この店にやってきていたのだ。
「ウィル、あれって学院の?」
「落ちこぼれ……?おいおい、まさかこんなところで働いているのかい?」
「……」
「ハハハハハハ!これは傑作だ!無能と蛮族同士お似合いじゃないか?」
「何だと……!」
「お、おい……!」
それを聞いたドナンが、ユリウスたちに何かを言おうと立ち上がるが……
「ハハハハハ……何だドワーフ、その目は?異界から移民してきた、下等種族が……人様の国で生を許されている分際で、恥を知れ!」
「っ……」
その後、ユリウスは空いている席へと座り……
「ここは酒場だろう?早く酒と料理を持ってこい!」
偉そうにそう言ったのだ。そうしてロスティが、ゲラール豆のソテーをユリウスたちのところへ持っていくが……
「おいおい、なんだよこの豆料理?」
「田舎でももっとマシな料理を出すぞ?蛮族の舌はどうなっているんだ?」
『アハハハハハハハ!!』
「何より臭う――――」
「……」
「ウィル?」
料理だけには飽き足らず、ドワーフそのものを侮辱し始めたのだ。そこに……
「畜生にも劣る汚物ども、早く私たちの国から出ていけ!」
「……」
「何だよ無能者?」
「給仕は呼んでないぞ?」
「……取り消して欲しい、その侮辱」
ウィルがやってきて、いつもより低い声色でそう言ったのだ。
「……何だと?」
「ドワーフの豆は、不毛の大地でなお育てられた知恵の結晶だ。ドワーフの汗は、過酷な環境でなお働く熱誠の証だ……決して、嘲笑されるべきものじゃない!」
『……!』
その言葉を聞いたドワーフたちは、ウィルがそこまで思ってくれていることに心の中で感動していたが……
「魔法が使えない者同士、傷の舐め合いか?臭いものは臭い、目障りなものは目障りと言って――――何が悪い!」
ユリウスはあろうことか、豆料理をウィルに向かって蹴り飛ばしたのだ。それはウィルへと当たり、着ていた服を汚してしまった……。
「調子に乗るな無能者!」
「さっさと失せろ!」
「!」
するとウィルは、ユリウスの取り巻き2人を襟元を掴み、頭を床に叩きつけて気絶させた。
「僕と君たちの蛮行……ドワーフたちよりもずっと無知性で、畜生にも劣る」
「はっ……こんな屈辱、久々だな?誰に喧嘩を売ったのか、分かっているんだろうな……無能者!!」
ユリウスは周りを凍らせると、ウィルに氷魔法で攻撃を仕掛けていく。ウィルはそれを次々と避けるも……
「――――縫い止めろ」
「っ!?」
ユリウスは最初に凍らせた床から氷を出現させ、ウィルの両腕を壁に拘束してしまった。
「おい、やり過ぎだ!」
「フフフフフ――――ん?」
ユリウスはウィルを氷漬けにしようとしたが……
「……」
「!……気が変わった。ここでお前を氷漬けにするだけじゃ気が済まない……魔導大祭に出ろ無能者!観衆の前で、お前を徹底的に辱めてやる!!」
ウィルの目を見て、魔導大祭に出場するように言ったのだ。それに対し、ウィルは氷の拘束を力ずくで解くと……
「……分かった、いいよ」
「お、おい、ウィル……!?」
「……」
(ダメだ……ウィル、本気で怒っちゃってる)
「私が勝って、学院からお前の居場所を消してやる!!」
「僕が勝ったら、ドナンさんたちに謝ってくれ」
ユリウスの杖を掴み、静かに怒りながらそう告げるのだった。
読んでくださり、ありがとうございます!
魔導大祭の奪冠では、レイはリアーナとチームを組むことになりました。あと1人は誰になるのか……お楽しみにしていただければと思います。
それでは、次回の話もどうぞよろしくお願いします。