それでは、どうぞご覧ください。
「勝負だ、ユリウス……!」
ユリウスの小隊に追いついたウィルは、剣を構えるとその切っ先をユリウスへ向けた。
『奪冠もいよいよ大詰め!祭壇にある王冠を奪った者が、勝利の栄光を手にします!そして今、第9小隊と第6小隊ウィル選手、さらには第7小隊が相対しております!』
「よく来てくれた落ちこぼれ……このまま終わったらどうしようかと思っていたよ。君に屈辱を与えないままあっさり優勝してしまったら……私の気が済まないからな?」
「大丈夫だよユリウス……君たちがドナンさんたちに謝るまで、僕は負けるつもりは微塵もない」
「抜かせ、無能者風情が……お前はこれから、利用させるだけの小鼠だ。そしてレイ、リアーナ、君たちには宣戦布告通りに土をつけてやる……無能者を叩きのめした後に相手してやるから、そこで見ていろ……!」
ユリウスはそう言った直後に目眩ましの冷気を発生させると、ウィルやレイたちを巻き込んで辺り一面を覆い尽くしてしまった。
「全員警戒、こっちに攻撃が来るとも限らないから」
レイは冷静に2人に指示を飛ばして一塊になった後で、魔眼によってユリウスたちの位置を見ようとした……が、
(1,2,3――――4,5,6……どんどん増えてる……?)
その数は、何故か小隊の上限である3人を上回っていた……それに一瞬戸惑いを見せていると、冷気の霧が晴れていき……
「え……?」
「こ、これは……?」
「何をしているんだ落ちこぼれ……私たちは一歩も動いていないぞ?」
「なっ……!?」
レイたちやウィルの前に広がっていたのは、ユリウスが5人に増えているという光景だった。
「嘘でしょ……」
「ユリウスが5人だと……幻影魔法か……?」
リアーナはそう予想立てたが……
「いや違う。あれは……
「「!?」」
レイはその魔法の正体を瞬時に見破った。
「その魔法って、氷姫の杖の!?」
「そんなまさか……!」
「……」
(秘宝、ね……文字通りの意味だったってわけか……)
レイの言葉にロゼとリアーナが驚いていると……
「あぁ、言い忘れていたが……その私は爆ぜるぞ?」
「っ!?」
「
ユリウスの言葉通り、ウィルの目の前にいた分身体を炸裂させた。それによってウィルは、身体の大部分を凍りつけにされてしまう……。
『爆発したユリウス選手によって、ウィル選手が凍てつかせられた!!いや、それよりもあの魔法は……?』
『……』
(間違いない……あの魔法は……!)
エドワルドもユリウスの使った魔法が、エルファリアの編み出した魔法の1つにして、術者と瓜二つの氷像の分身を生み出す魔法の『白の芸術』であることを確信していた。
「どうして君がエルフィの魔法を!?」
ユリウスが幼馴染の魔法を使っていることが信じられないのか、ウィルは声を荒げてそう訊くと……
「クハハハハハハハハッ――――
才能」
「っ……!!」
「それ以外に理由なんて必要ないだろう?私は独学でこの秘宝を習得し、片鱗に過ぎずとも至高の五杖に到達した……
氷姫の杖も大したことはない」
「……」
「いつか私が、彼女の全てを丸裸にしてやろう!」
その言葉が逆鱗に触れたのか……
「ユリウスッ!!」
ウィルは氷の拘束を解くと、一直線にユリウスへと突っ込んでいく。ユリウスは笑いながら、分身体と共にウィルに向けて氷塊を撃っていく。ウィルはそれを何とか剣で斬っていくも……
「私の分身は意のままに動かせ、魔法も行使できる」
「どうした無能者!」
「ぼさっとしてると、ユリウスたちにやられるぞ?」
見るからに押されている様子だった。
「そして……」
「……?」
(何だ……攻撃が止まった……?)
突然攻撃が止まったかと思えば、3人の分身体がウィルを囲み……
「こうなってしまえば、檻も形成できる」
「……!」
(分身を起点にした結界……!)
閉じ込めるための結界を生成したのだ。ウィルは結界を破ろうと剣を振るうも、それが壊れる様子はない……さらに……
「頭に血が登った獣ほど、狩りやすいものはない―――――
「っ!?」
「終わりだ」
ユリウスは閉じ込められてその場から動けないウィル目掛け、巨大な氷塊を落としてきたのだ。
『つ、つ……強いぃいいいいいいいいいいい!!強過ぎる!!』
『一歩も動かずして勝つ……魔導士の基本にして理想だ』
(ユリウス・レインバーグ……単位数10000越えは伊達じゃない、か)
そんな実況が聞こえる中、ユリウスはレイたちに向かって歩みを進めながら……
『いかがですか、スカウトの皆さん?この通り、氷姫の杖の秘宝を得た我が氷魔法は盤石。エルファリア様の後継者……このユリウス・レインバーグがなってみせましょう!』
スタジアムに訪れているスカウトたちに向けて、自身を売り込み始めたのだ。ユリウスは最初からウィルを利用してデモンストレーションを行うつもりだったらしく、スタジアムの観客たちからは拍手と歓声が巻き起こっていた。
「さぁ、次は君たちの番だレイ、リアーナ」
そう言って、ユリウスはレイたちに短杖を向けようとしたが……
「いや……それはどうかな?」
レイはその言葉と同時に、ユリウスの背後に目を向けた。その直後……
「……は?」
「お、おい……」
「まさか……!?」
ウィルが氷塊を突き破り、その中から現れたのだ。
「……!」
(どうやってあの攻撃から……?)
「ありがとう、ユリウス……君の魔法のお陰で頭が冷えた。僕の悪い癖だ……エルフィやレイのことになると、いつも熱くなる」
「何をごちゃごちゃと……今度こそ無様な姿を晒せ!!」
ユリウスは分身体たちと共に、ウィルへと氷魔法を放った……が、
「ユリウス、君の白の芸術は完璧じゃない」
「「え――――」」
「っ!」
「「ぐあっ……!?」」
ウィルはユリウスの魔法を利用して背後に回り込むと、取り巻きである2人を一撃で気絶させてしまったのだ。
『な、何と言うことだ!?ウィル選手、第9小隊の2名を撃破!!』
さらに……
『ああっと!何だいきなり!?』
ユリウスの分身体が、急に全て崩れ落ちたのだ。
「仲間に補助させることで、一時的にエルフィの魔法を使えるに過ぎない……君はエルフィの足元にも及ばない!」
「っ――――貴様ぁ!!」
その頃、塔の最上階では……
「ユリウス・レインバーグ……確かにここに記されていることが事実なら、なれるかもしれませんね、私の後継者に……ですがサリサ、私が欲しいのは後継者ではありません……私が側にいて欲しいのは――――
二振りの剣たちなのですから」
レイとウィルの幼馴染にして、至高の五杖『氷姫の杖』の1人であるエルファリアが氷の派閥の副官であるサリサにそう話しているのだった。
◇
「自動制御の守護者とは違って、白の芸術は完全他律制御……君の仲間は、分身の制御を手伝っていた補助装置と同じだ。君は……白の芸術を使いこなせていない」
ウィルは剣の切っ先を向けながら、ユリウスにそう告げた。
「魔法を使えない無能者が……知ったふうな口を利くな!!」
ユリウスは氷の薔薇を放つ魔法をウィルに向けるも、ウィルはそれを冷静に弾く……が、
「っ!」
弾いた薔薇は爆発し、冷気の霧がウィルの視界を奪う。そして、その霧が晴れると……
『その舐めた口ぶりごと、氷漬けにしてやる!』
ユリウスは再び白の芸術を使用し、4体の分身と共にウィルに氷塊を飛ばしていく。
「っ……!」
(口惜しいことこの上ないが、今の私では4体の分身を同時に移動させることはできない……2人の補助がなければ、固定砲台に成り下る――――だが!どれが本物の私か見分けはつくまい……分身の美しさは私と瓜二つ。容姿端麗、眉目秀麗、絶世独立、偽装は完璧!見分けなどつくわけが――――)
「っ!」
「なっ……!?」
ウィルは本物のユリウス目掛けて一直線に駆け出し……
「
「ふっ!」
「かはっ!?」
ユリウスが咄嗟に作った氷の壁を破ったのだ。その時に砕けた氷塊が腹にぶつかり、ユリウスは後退して地面に膝をついた。
「ねぇ、何で本物のユリウスが分かったの?」
その様子を見ていたロゼが、レイにそう訊くと……
「白の芸術で作った分身の内部温度は、術者の体温と真逆の-36度から-37度くらいになる……魔法の行使すれば、それよりもさらに下がる。制御が完璧じゃなければ冷気が漏れ出て、ああいう風に足元に氷片ができる……ウィルはそれで本物を見分けたんだ。これがエル姉――――エルファリアなら、そうはいかなかっただろうけどね」
レイはウィルとユリウスを見ながら、そう解説した。
「へぇ……!」
「なるほど……ん?エル姉……?」
リアーナはレイの解説もそうだが、また別のところにも注目しているようだが……。
「な、なぜだ……なぜ無能者のお前が、この魔法を知り尽くしている!?一体どうして!?」
ユリウスはこの状況を受け入れられないのか、声を荒げてウィルにそう訊いた。
「僕とレイ、そしてエルフィ――――エルファリアは幼馴染だから、同じ孤児院で育った。だから僕とレイは、エルファリアの魔法はよく知ってるし……僕は2人に憧れて、学んで……決して届かなかった。だからユリウス、僕はエルフィの魔法の長所も短所も知ってる」
「ほざけぇ!!氷姫の杖だぞ!?至高の五杖の秘宝だぞ!?無能者如きに、破られるものか!!」
ユリウスは激昂しながら、氷塊を放つも……
「なっ……!?」
それを一撃で斬られてしまったのだ。そして……
「ユリウス、君は確かに凄い。エルフィの魔法を使える魔導士は、今までいなかった……だけど――――
白の芸術は、2歳のエルフィが編み出した魔法だ」
膝をついたユリウスに、エルファリアが僅か2歳の時に白の芸術を創出したという真実を告げた。
「……は?」
「だから完璧じゃないし欠点もある。権威を誇示する君は、裸の王様だ!」
それを聞いたユリウスは、少しだけふらつきながら立ち上がり……
「フフフ……フハハハハハハハハ―――――
巫山戯るなぁあああああああああああああ!!」
地面に魔法陣を出現させると、それと同じ数の8体の分身を生み出したのだ。
『な、何とこれは!?分身がさらに増えて、5,6,7――――8人のユリウス選手が現れたぁあああああ!!』
「ハハハハハッ!4体が、限界だと思っていたか?甘くみるな!制御なんて関係ない!この物量で、お前を叩き潰してやる!!今度こそ、貴様の負けだ!!」
さらにユリウスは無数の魔法を展開し、そこからウィルに氷塊を浴びせようとしてきた。
「ユリウス……悪いけど、いつも僕とレイは10人のエルフィにいじめられていた」
「え?そうなの?」
「あー……ウィルにはいじめ……に感じたみたい……」
(本当は違うんだけどな……)
「くっ!!
ユリウスは魔法を一斉に撃ち、ウィルを今度こそ氷漬けにしようとしたが……
「っ!」
「何っ!?」
ウィルはそれを難無く掻い潜ると、分身のうちの1体を一撃で破壊したのだ。
「と……止めろぉおおおおおおお!!」
ユリウスは分身に指示を出してウィルに氷塊を放つも、それらを躱されたり全て撃ち落とされたりし、次々と分身を破壊されてしまっていた。そして、あっという間に全ての分身を破壊したウィルは、ユリウスに向かって駆け出しながら、籠手をつけた右手を思い切り握り締め……
「ちょ、ま、待て――――」
「っ!!」
「ぐっ!!?」
その顔を思い切り殴りつけ、スタジアムの壁まで吹き飛ばしたのだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
『ウィル選手!ユリウス選手を撃破!!な、何と無能者が、単位数10000越えのエリートを打ち倒した!!』
「ウィルーー!!」
見事ユリウスに勝利したウィルに、シオンと共に追いついてきたコレットが駆け寄ってきた。
『信じられない光景ですが、彼を阻む者はもういない!後は、王冠を手にするだ――――』
「剣雨」
『へ?』
王冠のところへと歩こうとしたウィルの前に、無数の剣が飛んできたのだ。
「れ、レイ!?」
「まずはおめでとう、ウィル。凄い勝負だったよ」
「え?あ、ありがとう……」
「うん……で、本当はこういう勝ち方はしたくないんだけど、勝負は勝負だから――――これ、僕たちが貰うね?」
「!?」
レイはそう言うと、スタジアムの真ん中にある台座に登り、王冠を手に取ったのだ。
『ゆ、優勝は――――レイ選手率いる、第7小隊だぁあああああああああああああ!!』
◇
「どうやら、奪冠が終了したようですね」
花火が上がったのを見たサリサは、奪冠が終了したことをエルファリアに告げた……が、
「サリサ……過去をやり直す魔法はありませんか……?」
エルファリアは何故か、肩を震わせながらそんなことを訊いてきたのだ。
「ありません、そんな魔法」
「じゃあ、記憶を消滅させる魔法は……?」
「禁呪の中にあるかもしれませんが……使わせませんよ――――あっ……」
「違うのウィルぅうううううう!いじめてたんじゃないの!貴方とレイを独り占めして、ずっと遊んで欲しかったのぉおおおおお……!!」
「……」
「ぜ、全校生徒に、私の黒歴史が……」
「はぁ……」
エルファリアのそんな様子を見て、サリサは思わず溜息をつくのだった……。
読んでくださり、ありがとうございます!
奪冠の優勝は、レイたち第7小隊の優勝となりました。今回で魔導大祭編は終わり、次回から総合実習編に入ってきます。
それでは、次回の話もどうぞよろしくお願いします。